会計士の価値は“判断する力”にある ── AIでは代替できない領域とは

■法律事務所で得られた気づきは、大きいものでしたか?

三浦:そうですね。特に強く感じたのは、企業経営に関する問題について最初に相談される専門家は、実は会計士であることが多いという点です。

■相談というと弁護士のイメージがあり、会計士というのは意外に感じる方もいそうです。

三浦:問題が顕在化したあとであれば弁護士の出番になりますが、日々の経営や判断のなかで生じる悩みや違和感は、まず数字に表れます。そして会計士と企業というのは、継続的にコミュニケーションをとる関係にあります。

・四半期ごと、あるいは日常的に企業の数字を確認している
・会計・開示・会社法など、企業活動と密接な領域を横断して見ている

だからこそ、ちょっと相談したいという最初の入り口になることが多いんですね。

■確かに、経営の文脈でいえば、常に隣にいる存在ですよね。経営に関する数字というのは、基本的に過去から今へと連続しています。

三浦:だからこそ、会計士には数字を見る力だけでなく、状況を判断して言葉で説明する力を求められていると感じています。法律事務所にいたからこそ、会計士の立ち位置や強みを客観的に見られるようになった気がします。

■いっぽうで、最近はAIの進化によって、会計士の仕事がなくなるのではといった声も聞かれます。

三浦:作業については、かなりの部分がAIに置き換わると思います。実際、財務データの分析などは、すでにAIのほうが早くて正確なケースも多い。けれど私は、会計士という仕事そのものがなくなるとは思っていません。

■会計士の価値はどこに残るとお考えですか?

三浦:最終的には、判断すること、説明すること、そして責任を取ることです。

財務諸表に重要な誤りがないと判断する。
判断の理由を説明する。
説明した内容について責任を負う。

これはAIにはできません。だからこそ、会計士はプロフェッショナルであり続ける必要があると思っています。

■若手の会計士にとっては厳しくも心強いメッセージですね。

三浦:厳しいかもしれませんが、希望もあると思っています。監査を極めるのもいいですし、M&A、バリュエーション、経営支援といった周辺領域を深めるのでもいい。

大切なのは、「この領域なら任せてほしい」と言えるものを持つこと。そしてその判断に責任を取れることです。

■まさに「考え方」と「プロフェッショナリズム」がつながる部分ですね。

三浦:答えのない問いに向き合い、考え、判断し、行動する。この積み重ねが、結果的に自分の価値をつくっていくのだと思います。キャリアも仕事も、正解は用意されていません。だからこそ、考えることをやめないでほしいですね。

答えは自分でつくるもの ── 若手会計士へのメッセージ

■最後に、KaikeiZineの読者である会計士、特に若手へのメッセージをお願いできますか。

三浦:会計士を目指す方や、すでに働いている方の多くは、これまで答えのある問いに一生懸命向き合ってきた人たちだと思います。それは大変価値のあることです。基礎的な知識や考える土台がなければ、答えのない問いには向き合えませんから。

しかし社会に出ると、問いの性質が変わる瞬間が必ず訪れます。

このまま続けていていいのか。
どこまで細かく分析すべきか。
自分は、何のためにこの仕事をしているのか。

仕事のこと、あるいはキャリアや人生のことなどさまざまだと思いますが、どれも誰かが正解を教えてくれる問いではありません。

■今この記事を読んでいるタイミングで、迷いを感じている方もいるかもしれませんね。

三浦:迷うのは、悪いことではありません。考えようとしている証拠です。

大事なのは、その問いから目をそらさないことだと思います。途中で考えるのをやめてしまうと、あとで振り返ったとき、あのとききちんと考えておけばよかったと感じることになる。だからこそ、考えるための「型」を持ってほしい。完璧な答えを出すためではなく、納得して前に進むためにです。

■三浦先生ご自身は、今後について考えていらっしゃることはありますか。

三浦:少し大きな話になりますが、日本は今、失われた30年と呼ばれる停滞の時代にあると言われています。どこかで考えることをやめてしまった結果が、積み重なってきているようにも感じています。

何が問題かは分かっている。けれどどう解決するかについては、なかなか答えが出てこない。こんな状況だからこそ、答えのない問いに向き合い、行動できる人を増やしたいという思いがあります。

■その一歩が、日々の仕事や自身の問題を考えることから始まる、ということですね。

三浦:会計士という仕事は、企業や社会の意思決定に近い場所にあります。だからこそ、一人ひとりが考えることをやめずに進んでいくことに意味があると思っています。

逃げずに考えきる。その積み重ねが、結果的に自分自身の価値を高め、社会を少しずつ前に進める力になるはずです。

著者紹介三浦真会計士の人物画像②

三浦真

公認会計士
2006年東京大学経済学部卒業。
2007年監査法人トーマツ(現・有限責任監査法人トーマツ)東京事務所に入所し、金融事業部にてメガバンクの監査業務に従事。2012年から2014年にかけて、Deloitte Touche Tohmatsu香港事務所に出向し、日系金融機関の監査を担当。
2015年に独立して公認会計士事務所を開業。経営者の意思決定を支えるコンサルティングを中心に、経営顧問、社外役員、CFOなどの業務を幅広く行っている。経営者団体、国立大学、地方自治体などでの講演・講義活動を通じ、経営を実践するための指導、人材の育成に取り組む。ミッション・ビジョン・バリューを起点に、戦略的思考と組織の成長を支える経営フレームワークをクライアントの実務に実装している。

三浦真公認会計士事務所
〒150-0043
東京都渋谷区道玄坂1丁目12番1号 渋谷マークシティWEST16階

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