狭き門として知られる公認会計士試験。予備校での試験対策が一般的だが、近年は通信講座のラインナップも充実し、注目されている。今回は大学在学中に通信講座で勉強しながら会計士試験に合格し、監査法人を経て起業をするなどの活躍をしている、現在日本公認会計士協会準会員の世戸口逸人氏にリアルな体験談を聞いた。

この記事の目次

大学受験での失敗を糧に会計士試験に挑戦

世戸口逸人氏

難関の公認会計士試験に通信講座で合格はできるのか?
その問いに答えてくれたのが、慶應義塾大学在学中に試験合格を果たした世戸口逸人氏だ。
BIG4監査法人とベンチャー企業を経てはてなベース株式会社を起業。
監査法人時代の同期と田村直大公認会計士税理士事務所を立ち上げている。
現在は日本公認会計士協会準会員の世戸口氏に、予備校通学ではなく通信講座を選んだ理由、合格への道のりなどを聞いた。

 

■公認会計士を目指したきっかけから聞かせてください。

世戸口逸人(以下、世戸口):大学受験に失敗したのがきっかけでした。
自己実現の近道は大学受験の成功にあるというなかば偏った思想を持って中高の学生時代を過ごしていて、「この大学に行きたい!」という強い思いがありました。
1日の10数時間を勉強に費やす日々を何ヶ月も過ごしたのですが、結果的に志望校には合格できず、すごく悔しくて。
受験の借りは受験で返すぞと、大学1年生から会計士試験の勉強をはじめました。

■数ある資格の中から会計士を選んだのはなぜですか?

世戸口:当時大学で会計士の試験勉強が流行っていたというのが率直な理由です。
慶應義塾大学の入学式でCPA会計学院が案内を配っていたのと、CPA会計学院の日吉校の前で、学院の代表で会計士の国見健介さんと偶然しゃべったんですね。
そこで会計士になることを勧められたのがきっかけです。

■大学何年生で会計士試験に合格したのですか?

世戸口:大学4年で論文式試験に合格しました。
大学1年の4月から通信講座で学びはじめて、何回か試験に落ちたあと、大学3年の12月に短答式試験に合格し、大学4年の8月に論文式にも合格しました。

■現在は日本公認会計士協会の準会員とのことですが、大学卒業後はどのようなキャリアを歩んできたのですか?

世戸口:卒業後に当時のPwCあらた有限責任監査法人(現PwC Japan有限責任監査法人)に入社し、監査部門で投資信託のファンド監査を2年間担当しました。
2年で会計士の実務要件を満たしたタイミングで、レストランテックのベンチャーのリディッシュ株式会社に転職します。
同社と併設しているクロスポイント税理士法人にも並行してたずさわり、1年半ほど働きました。
その後退社をして、2023年2月にはてなベース株式会社を創業しました。
同年の8月には、PwCの同期と田村直大公認会計士税理士事務所を立ち上げて、所長の田村と一緒に事務所を経営しています。

■修了考査前に会社創業などの活躍をされていますが、会計士の資格のほうはいかがですか?

世戸口:実務補修は終えていて、残るは修了考査だけです。
修了考査は3回受けていて、正直ちょっと苦労しています(笑)。

予備校ではなく通信講座を選択。会計士試験合格への道のり

■CPA会計学院には通学もありますが、なぜ通信講座にしたのですか?同校の日吉校に通うことも可能だったと思うのですが。

世戸口:CPA会計学院には、通学・通信併用講座というものがあるんですね。教室での講義とWeb講義のどちらも受講できるものです。
自分も併用講座を選んだのですが、受講は通信をメインにしていました。
教室での授業だと1倍速でしか聞けないけれど、通信なら倍速で聞けるので、効率的に学べると考えたんですね。
ちなみに当時のWeb講義には倍速再生の機能がなかったので、Chromeの拡張機能で倍速にして受講していました(編集部注:現在は同校のWeb講義も倍速再生に対応)。
大学の授業の合間のすきま時間の活用を考えても、通信メインで受講するのがベストでした。

通信は講師に質問がしづらいとよくいわれますが、日吉校に行けば質問もできましたし、通信講座では使えない校舎の自習室が、併用講座なら使えたのもポイントでした。

■通学と通信のよいとこどりをしたわけですね。ほかにも通信講座を有効利用するコツはありましたか?

世戸口:受験仲間を作ることが重要だと思います。
通っていた当時、CPA会計学院の日吉校や水道橋校で通信生のみ参加できる飲み会をやっていて、そこで受験仲間を作りました。
その後に水道橋校の自習室でも通信講座を受けたり勉強をしたりするようになり、そこで受験仲間と交流ができました。
最後まで一緒に走り抜ける仲間ができたのはかなり頼もしかったです。
もし通信生で予備校の校舎に通えるところに住んでいるならば、リアルのイベントに顔を出したり校舎で勉強したりすることでの交流は、ぜひやったほうがいいと思います。

■通信講座で苦労した点はありますか?

世戸口:緊張感を持続するのが難しいですよね。
授業の時間が決まっていないので、今日は講座を受けなくてもいいか、勉強しなくてもいいかとなりがちです。
これは多くの通信生が抱えている悩みだと思います。
大学時代は、平日は週4や週5で17時から24時まで居酒屋でバイトをしていたので、それ以外の時間に学ぼうとするとどうしてもゆるみがちでした。

■どうやって克服したのですか?

世戸口:予備校の教室で答練に参加しました。
答練が全然できないと自信や自己肯定感が下がってしまうこともあるかもしれませんが、自分はまた勉強をがんばろうというモチベーションに変えていましたね。
実際、教室で答練を受けるようになってから成績も上がりました。

■いまからもう1度会計士試験に挑戦するとなったら、どんな方法で勉強しますか?

世戸口:同じように通信講座を選びつつ、最初から受験生が集まる自習室でWeb講義を受けたり勉強をしたりしますね。
自らを節制することが苦手なタイプなので、まず勉強をせざるを得ない環境を作ることを考えます。
予備校も、CPA会計学院はラウンジを開放したり、日曜日はスペースをさらに開放したりしているみたいですから、そういう場所を活用します。

監査法人からベンチャー企業へ。そして自ら起業して経営者として挑戦中

■修了考査前のタイミングで起業したのには理由があったのでしょうか?

世戸口:起業にはもともと興味がありました。
通っていた当時の慶應義塾大学で、起業する人がまわりに多かったのも影響しています。
隣の芝が青く見えていたというのもありますが、当時会計士の勉強をしていた立場からすると、バリバリ事業をやって、お金を稼いでメディアにも出ていた同期の起業家がかっこよく見えました。

当初は志望大学に合格できなかったリベンジから会計士試験へ挑戦したのですが、論文式試験に合格しても、なにか違うぞ、もっと違う熱狂ができる体験をしたいと思ったのもありました。
より困難な道に挑戦しようと思い、起業の道を選んだわけです。

起業にも役立てようと、経営者と関わる機会がある監査法人で経験を積み、ベンチャー企業での経験を得るために実際にベンチャーでも働きました。
会計士の知り合いも含めて人脈が増え、事業をやるのに十分な準備ができて資金も揃ったので、はてなベースを起業しました。

■はてなベースの事業内容について教えてください。

世戸口:創業したての頃は、自分が記帳代行や資金調達の支援、経理代行や財務コンサルティングぐらいの業務スキルしかなかったので、会社もその4つの業務から出発をしたのですが、いまは3つの事業を展開しています。

はてなベースを共同創業した開発責任者がもともとkintoneの導入支援をやっていて、自分もfreeeやマネーフォワードのクラウド会計の操作がわかるので、中小企業向けにクラウド会計からCRMまでの導入・連携のサービスをはじめました。
加えてバックオフィス業務のフロー構築などもやるようになったのが1つ目の事業で、これがはてなベースのコア事業になります。

会計と開発の両方ができることで引き合いも増えて、業務改善の事例がたまっていったので、続いて新規に研修動画の提供・販売のBtoB事業を立ち上げます。
クラウド会計やkintoneの使いかた、バックオフィスのDXなどに関してeラーニングで学べるのが2つ目の事業になります。

3つ目の事業は、BIツールをスタートアップやベンチャー企業向けに提供しています。
開発や導入に加えて、データの集計や分析にも力を入れることで、会計ソフトの仕分けデータやkintoneの勤怠データ、案件情報や顧客情報などをひっくるめた経営レポートをまとめて提供するサービスです。

■田村直大公認会計士税理士事務所ではどんな業務を担当しているのですか?

世戸口:事務所自体は、主にスタートアップや創業期のベンチャー企業、個人事業主から法人成りしたお客様などの税務顧問を中心に、スタンダードな業務をやっています。
今後は実務は所長の田村と何人かのスタッフで担当し、修了考査を終えたら自分は営業を担当するといったすみわけでやっていく予定です。

■最後に、これから会計士を目指すというかたにメッセージをお願いします。

世戸口:会計士試験は、途中であきらめてやめてしまう人も少なくないですよね。
たしかに難しい国家試験ですが、短期間で大きな成功体験が得られるチャンスでもあるので、最後までやりきってほしいです。
自分も修了考査をがんばります。

監査法人を辞めて起業した立場からのメッセージが参考になるかはわかりませんが、会計士試験に合格をして監査法人に行くにしろ、起業するにしろ、若いうちに挑戦をしてぜひ成功をつかんでほしいですね。

 

はてなベース株式会社

●設立
2023年

●所在地
〒162-0041
東京都新宿区早稲田鶴巻町520-10

●会社HP
https://hatenabase.jp/

 

田村直大公認会計士税理士事務所

●設立
2023年

●所在地
〒162-0041
東京都新宿区早稲田鶴巻町520-10

●会社HP
https://hatenabase-tax.jp/