今回話を伺ったのはYouTubeチャンネル登録者数およそ4.3万人の人気簿記講師YouTuberの公認会計士たぬ吉氏。学生時代に日商簿記2級3級ともに満点合格を果たし、会計士試験勉強は順調かと思いきや・・・。ご自身のYouTubeチャンネルでは語られたことのなかったこれまでのキャリアや監査法人を辞めてYouTube一本に絞ったエピソードなど、ベールに包まれたたぬ吉氏の真相に迫ります。(取材KaikeiZine編集部)

幼少時代のたぬ吉氏

もう後悔はしたくない。そんな思いで励んだ勉強時代

公認会計士を目指したきっかけについて教えてください。

たぬ吉:高校生の時に観た人気俳優の主演ドラマの舞台が空港で、自分もこういう場所で働いてみたいと思い、当初は空港職員を目指していました。ですので英語を学ぼうと、全員留学必須の関西大学の外国語学部を志望しました。そして、日程的に商学部も受験できたので「練習がてら受けとこうか」という軽い気持ちで受験。しかし結果的に合格したのは商学部だけでした。しかも外国語学部には1点差で落ちていて、これが本当にショックでした…。

塾の先生へ結果を報告に行ったときも「高校1年生の時から必死に勉強していればよかった」と後悔の気持ちを伝えました。しかしその先生が「それを今気付けたことがよかったじゃないか。大学1年生のときから勉強を頑張っていたら、大学4年生のときに勉強していてよかったと思えるはずだよ」と言ってくれたのです。

この言葉を聞いた時、大学では必死に勉強しよう。そう決意して関西大学の商学部に入学しました。

素敵な先生ですね。では大学の授業の中で簿記と出会ったのでしょうか。

たぬ吉:商学部の最初の授業で「公認会計士とは」というビデオを観ました。そのビデオでは監査法人で働く公認会計士の様子や、監査法人就職後の選択肢も紹介されました。そこで初めて公認会計士という仕事を知って、目指すことを決意しました。大学受験で失敗してしまった部分もあったので、難関の資格に挑戦してみたいという気持ちが強かったですね。

4月に入学してからすぐに大学内で予備校の先生が教えてくれる有料の講座を取って、大学1年生の6月に日商簿記3級、11月に2級を受験し、それぞれ満点合格しました(大学2年生の11月に日商簿記1級に90点で合格)。

3級、2級ともに満点合格の方って本当にいるんですね・・・!相当勉強されたのでしょうか。

たぬ吉:そもそも会計士になろうという気持ちがあって簿記の勉強を始めたので、徹底的に理解しようと思っていました。周囲の仲間に教えることも多く、自分も教えることが好きだったので、インプットとアウトプットを繰り返しながら知識を定着させることができました。それに、今まで自分が経験していた勉強では「なぜ」という疑問が解消できないことが多かったのですが、予備校の先生はとても教え方が上手くて、この「なぜ」という疑問をしっかり解消してくれたのです。そうして納得することで理解を深めることができました。

(2015年8月)公認会計士論文式試験会場の下見の様子/立命館大学前

公認会計士の論文式試験も大学4年生の8月に合格されていますね。勉強は順調でしたか?

たぬ吉:簿記1級までは順調でしたが、そこからは手こずりました。大学2年生の4月から本格的に予備校の会計士試験講座が始まるので、それに備えて1年生の12月から3ヵ月間大学で会計士の準備講座を受けていました。だから2年生に上がってすぐの答案練習の成績は、そこそこ良かったのです。しかし短答式試験直前の答案練習ではなかなか点数が伸びず、かなり苦しい時期が続きました。この頃の生活は、昼間は大学、夜は予備校で講義。とても忙しかったこともあって、自律神経失調症で体調まで崩してしまいました。

その後、勉強は続けられたのでしょうか。

たぬ吉:大学2年生でほとんどの単位を取得できていたので3年生からは大学へ試験を受けに行くだけになりました。普段は朝9時に予備校に行って、夜9時に帰るというルーティンでした。朝7時に資格学校の大原に行き、夜11時に帰っている友人もいて、その人達をセブンイレブン(7時‐11時)と呼んでいました(笑)。そのくらい勉強する人も数名いたので、むしろ自分の勉強時間が少ないかなと思うくらいでした。そんな環境に身を置いていたので、3年生の5月に短答式、4年生8月の論文式試験に無事合格することができました。

“公認会計士たぬ吉の簿記会計塾”の誕生。しかしその裏では東京に推薦してくれた上司の顔に泥を・・・

YouTubeに専念するまで、大阪のEY新日本監査法人で勤務されていました。監査法人にいたときからYouTubeを始めていましたが、きっかけは何でしたか。

たぬ吉:それまでもエンタメ系のYouTubeが好きでよく観ていたので、自分でもやってみようと2018年からエンタメ系のチャンネルを始めました。仮面を付けて「カルピスに合うお酒は~」とか(笑)。ところが周りの同期にはチャンネルのことを話していたので、だんだん監査法人内でも私がYouTuberをしていることが広まり恥ずかしくなってしまって。最終的に登録者は900人くらいにはなりましたが、2018年の年末には止めました。

2019年は修了考査の時期だったので1年間は勉強に専念していましたが、それでも試験が終わったあとには、もう一度挑戦してみたいという気持ちが膨らんできました。ちなみに私がYouTubeを始めた2018年は、現在簿記系YouTuberで一番登録者数が多い“ふくしままさゆきさん”と、会計士YouTuberの“小山あきひろさん”がチャンネルを開始した年。私もお二人のことは知っていたのですが、2018年の頃は自分も会計系のチャンネルをやろうとは思っていませんでした。でも一度離れてからもう一度お二人のチャンネルの登録者数を見てみたら、もう何万人というレベル!このジャンルは伸びると改めて思いました。私は簿記を教えるのが得意で好きでしたから、そういう動画を投稿してみたのが今のチャンネルの始まりです。

その後仕事を辞めてYouTubeだけになるというのは、勇気がいる決断だったのではないでしょうか。

たぬ吉:そうですね。2020年1月から簿記講師YouTubeを始めましたが、最初はこれを仕事にしようとは思いませんでしたね。最初の1カ月で500人に登録してもらったのですが、世間一般から見たら、500人の登録者数は大したことありません。それでも、私自身、以前にエンタメチャンネルで失敗しているので、この登録者数にはやる気が出て、2020年4月までは週1くらいで投稿して1500人まで増えたのです。監査法人の5、6月の繁忙期を挟んで、また7月くらいから投稿し始めて2000人に手が届くくらいになったタイミングで東京転勤が決まりました。

YouTubeで収益化するには、登録者1千人以上、かつ過去一年間の総再生時間が4千時間以上でないといけませんが、その時はまだ総再生時間が足りていませんでした。しかも監査法人は副業禁止。現時点で収益化できていないのに、YouTuberになるから監査法人を辞めるという決断はできないまま、東京転勤の日が近付いていきました。そしていよいよ東京に行くことになったのですが決断しきれていない自分がいて、新幹線に乗った際に「監査法人を辞めよう」と決めました。とりあえず渋谷の法人契約している賃貸に着いて、二日目の夜に上司に辞める旨を電話して…。上司は自分を推薦してくれた人なので顔に泥を塗ることになります。しかしとても優しい人で、怒らずに「先輩や後輩10人に電話で相談して、それでも考えが変わらなかったらまたかけてきて。」と言ってくれました。

そして監査法人内の先輩や同期、後輩へ、自分の状況、YouTubeのこと、全て話したのです。すると10人全員がYouTubeやりなよ!と言ってくれました。「いいやん、そんな道があってうらやましいわ」「大きな組織なんだから、お前一人居なくても回るよ」と背中を押してくれて。結局、1カ月だけ渋谷に住んで、実家に帰り動画制作に専念しました。そこから登録者数も再生回数もどんどん伸びていき、現時点では4万人を突破するまでとなりました。

日商簿記2級商業簿記講座はYouTubeではなく、有料講座として販売しているのですが、こちらの売上もかなり順調に伸びています。

(2021年5月)淡路島のカフェにて

“公認会計士たぬ吉”名前の由来は適当だった?!

“たぬ吉”という名前はどこからきているのでしょうか。

たぬ吉:名前をどうしようと思っていたときにバラエティー番組を観ていて、そこで人気お笑い芸人の愛犬の名前が“たぬきち”でした。「この名前、いいな」と思って、そのまま真似しました(笑)。このイラストの犬はその芸人さんの愛犬ではなく、私の実家で飼っているヨークシャーテリアです。外注してイラストレーターさんに描いてもらいました。可愛くて気に入っています(笑)。

チャンネルには「動画を観て合格しました」という声もたくさん届いていますね。

たぬ吉:はい、コメント欄やDMにもたくさんきます。嬉しいですね。監査法人の仕事は、直接お礼を言われることは少なかったのですが、今はたくさんのお礼を言っていただけてとても嬉しく、天職だと思っています。

(2021年7月)ユニバーサルスタジオジャパンにて

簿記講師YouTuberとしてずっと続けていくのか

今後の展望を教えてください。

たぬ吉:簿記1級講座が来年の3月までには完成できると思うので、その後は㈱簿記会計塾として法人化しようと思っています。法人化した後は、㈱簿記会計塾とYouTubeチャンネルをさらに大きくしていきます。何より教えることが得意なので、㈱資格塾にして、簿記会計以外の資格に手を出すのもありですね。

また、税務にも興味があるので、税理士法人を設立するか、もしくは経験を積むために税理士法人に入るか。そこは今考え中です。

YouTubeでの顔出しは今後時期をみて必要になってくるのであれば、出そうと思います。ただ、今は顔出しする必要性がないので、出していません。

税理士法人を作る、もしくは入るとしても、YouTubeの認知度が良い影響をもたらすのではないかと考えています。ですのでYouTubeの配信は今後もどんどん続けていきますよ!

 

【編集後記】
ご出身が京都府とのことで関東にいたら普段耳にすることがない関西弁を聞けて新鮮でした。いつもTwitterでも資格勉強中の方にエールをお送りしているたぬ吉様。心からみなさまのことを応援しているお気持ちが行動にも表れているのだと思っております。たぬ吉様ありがとうございました!

『簿記会計塾』 塾長/公認会計士たぬ吉

2016年:EY新日本監査法人大阪事務所入所、上場企業の監査やベンチャー企業の上場支援に従事

2020年1月:「公認会計士たぬ吉の簿記会計塾」YouTubeチャンネル開設。登録者約4.3万人(2021年9月時点)

2020年7月:EY新日本監査法人東京事務所にアサイン

2020年9月:EY新日本監査法人退所

2021年1月:簿記講師YouTuberとして独立開業

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公認会計士たぬ吉『簿記会計塾』塾長♪

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