フルタイムで働きながら、数年かけて挑む人が多い税理士試験。会計事務所で働きながら通信講座で学び、5科目官報合格の伴洋太郎氏に、長い道のりを乗り越えるための秘訣を聞いた。
この記事の目次
努力でなにかを成し遂げたくて税理士試験にチャレンジ

数年から10年ほどの長期戦となることが多い税理士試験を、通信講座で突破することは可能?
愛知のBANZAI税理士事務所代表として活躍する税理士の伴洋太郎氏に、その疑問に答えていただきました。
地方の会計事務所でフルタイムで働きながら、孤独に負けずに通信教育で学び続け、税理士試験の5科目に合格を果たした秘訣や成功体験を聞きました。
■税理士を目指したきっかけから聞かせてください。
伴洋太郎(以下、伴):社会人として働き始めてから、自分はこれまで人に誇れるような成果を残してこなかったと思うことが増えました。
たとえば、学生時代に一生懸命勉強をするとかスポーツに打ち込むといった、努力して何かを成し遂げた経験のことです。
当時は運送会社で働いていましたが、特に出世したいという熱意もなく、このままでいいのだろうかと自問自答する機会が増えていきました。
そこで一念発起して「資格を取ろう!」と決意しました。
国家資格で仕事をすることにも憧れを感じていたので、それが税理士を目指すきっかけになりました。
■なぜ税理士を選んだのですか?
伴:フルタイムで働きながらでも合格を目指せるとなると、税理士が現実的な選択肢だと思いました。
難易度が高い試験ほど合格によって得られる達成感や誇りが大きいと考え、難しい資格に挑戦したいと思っていました。
一方で、たとえばフルタイムで働きながら弁護士になるための司法試験に合格するのはかなり難しく、達成できるかたは少ない印象がありました。
公認会計士も同様です。
かたや税理士は、弁護士や会計士に比べると働きながら受験をしている人が多いようだったので、私もその道を選びました。
予備校の通信講座一択を貫き通して科目合格
■なぜ通学ではなく通信講座を選んだのですか?
伴:当時もいまも愛知県の西尾市に住んでいて、名古屋にある最寄りのTAC(資格の学校TAC)や大原(資格の大原)までは電車で50分ほどかかります。
フルタイムで働きながら通学するとなると、定時であがっても夕方の授業に間に合わないことが多く、最初からオール通信一択で考えていました。
地方に住む受験生は、同じ理由で通信講座を選ぶかたが多いのかなと思います。
■どこの予備校の通信講座を使ったのですか?
伴:どの科目も初受験の際は大原で学んで、不合格だった科目は2年目からTACに変更しました。
TACは株主優待制度が使えるんです。Yahoo!オークションなどで株主優待券を購入して受講料を支払うと、1割引きになります。
TACが優待券の譲渡を制限していないため、安心して利用できます。
税理士試験の受験生の間ではわりと知られた制度で、ぜひ利用したいと考えてTACを選びました。
■通信講座のみで5科目官報合格を果たしたそうですね。すべて合格するのにどのくらいかかりましたか?
伴:運送会社を辞めて、会計事務所に転職をして税理士試験の勉強をはじめたのが27歳の頃です。
そこから30代半ばで5科目に合格しました。
■通信講座で学んでみて、どんな点が良かったですか?
伴:教室まで行かなくても授業が受けられて、時間の節約ができるメリットがあるのはいうまでもないですね。
インターネット環境さえあれば、通信講座は受講時間も場所も自由に決められるという利点もあると思います。それこそスマートフォンがあれば受講ができますし。
過去の授業もスマホで視聴できるので、わからないことがあればパッと見返すことも可能です。
また通信講座は全国に配信するため、予備校の中でも優秀な先生が授業を受け持つことが多いそうです。
つまり、常に質の高い授業を受けられるというメリットもあると思います。
■通信講座で苦労した点、困った点もありましたか?
伴:通学であれば、授業終わりにすぐに先生に質問できたり、図や数式を書きながら相談ができたりしますよね。
通信生であった私は、質問をテキストベースでやりとりしていました。
質問用のシステムに質問を入力し、数日すると回答が返ってくる感じでしたね。
電話相談もありましたが、テキストでの質問を使うほうが多かったです(編集部注:現在TACでは、テキストによる質問カードと質問メールに加えて「講師室直通電話」でも質問ができるそう)。
もう1つのデメリットは、孤独なところです。
■それはよく聞きますよね。
伴:当時勤めていた会計事務所も含めて、まわりには受験生がいませんでした。
受験仲間と顔を合わせる場面がほとんどなく、「このままやっていて大丈夫かな…」と思うことがよくありました。
模試でいい点数を取ったことを共有できる人も、目標となるような仲間もいなかったので、本当に孤独にただひたすら勉強をしていました。
ふり返ると、自分でもよくあきらめなかったなと思います。
いまの受験生はSNSで自分の状況を投稿したり、受験生同士で情報交換をしたりしていますよね。
私の頃は、SNSで税理士試験の受験生を見かけることはほとんどありませんでした。
公開模試はおすすめ!確定申告の繁忙期もスケジューリングで乗り越える
■専門学校の試験直前の答練や講義も利用しましたか?
伴:直前に開催される全国公開模試は受けていました。
模試は通信でも受けられるのですが、試験の場慣れのために必ず会場に行って受けていましたね。
TACも大原も模試を開催しているので、両方とも会場に行って受けていました。
通信講座で学んでいる人は、本番前に会場で模試を受けるのをおすすめします。
ふだんは静かな場所で1人で勉強をしている人が、ほかの受験生がいるような環境でテストを受けるとまた印象が違ってくるはずなので。
模試で周りの受験生を見て、「絶対に負けないぞ」という闘争心を燃え上がらせてもいました。
税理士試験の合格率を考えると、10人のうちの1人に生き残らなければならないわけで、そうやってモチベーションにつなげていましたね。
さらに、受験の経験談や現在の活動を発信している税理士のかたのブログを見て、自分もこうなりたいという憧れの気持ちを高めていました。
■ほかに通信講座で合格を勝ち取るコツはありますか?
伴:やるしかないという状況を自ら作っていくことも重要です。
先ほど、受講時間と場所が自由に決められるのが通信講座のメリットだといいましたが、私は場所や時間を決めて事前にスケジュールを固め、勉強を日常の習慣にしました。
予備校が提示してくれる学習の進捗予定も厳守していました。
■時間と場所が自由なのは、サボる原因にもなりますよね。
伴:まさにそうですね。
決めたスケジュールをこなせていくことで意欲も高まりますし。
■事務所で働きながら、繁忙期はどう乗り切っていましたか?
伴:確定申告明けに、2週間分くらいたまった授業を一気に見て挽回するというのは毎年やっていました。
通学生も休んだ分はビデオ視聴ができますし、振替の授業も受けられるので、通信生のメリットというわけではないですが。
■いままた税理士試験に挑戦するとしたら、どんな勉強方法を選びますか?
伴:基本的には変わらないと思います。
名古屋に住んでいたら通学を選ぶかもしれませんが、いま住んでいる場所からだと、やはり通信講座を選びますね。
あとは、SNSで他の受験生と活発に交流します。勉強した内容や試験結果などを発信して、それに対する反応を励みにがんばります。
受験生がSNSを積極的にやることに賛否両論はあると思いますが、私はやる気の維持には有効ではと思います。
事務所の経営理念は「経営をたのしむ人をふやす」
■伴先生が代表をつとめるBANZAI税理士事務所についても聞かせてください。
伴:BANZAI税理士事務所では、お客様とのやり取りや資料の受け渡しなどのオンライン化やデジタル化に積極的に取り組んでいます。
「経営をたのしむ人をふやす」という経営理念を掲げていまして、クライアントである経営者が、税務上の雑務から解放され、経営に集中できる環境を作りたいのです。
それに先だって、まずは私を含む弊所のメンバーがとにかく仕事は楽しくやるというのをモットーにしています。
■顧客は愛知のかたが多いのでしょうか?
伴:地元の愛知県西尾市のかたと、沖縄や韓国などの遠隔地かたもいらっしゃいます。
ローカルなお客様と、オンラインでつながったお客様が両方いる感じですね。
■韓国の顧客からはどういう経緯で依頼があったのですか?
伴:SNSで見つけてくださったそうです。
事務所の雰囲気が良さそうという理由で連絡をいただきました。
事務所のホームページもポップな感じにしていて、コミュニケーションが取りやすそうな雰囲気を重要視しています。
■たしかにホームページはポップですよね。いい意味で会計事務所らしくないと感じました。
伴:会計業界は堅いイメージが強いじゃないですか。
ここまでやったら怒られるのでは…くらいのレベルのホームページを提案してくださいとデザイナーさんに依頼をして、あのポップな仕上がりになりました。
■先生や事務所が得意とする税務会計の分野はありますか?
伴:会計ソフトはfreeeを得意としていて、freeeの認定アドバイザーにも登録されています。
特にこの仕事はやりませんというものはありませんが、お客様は小規模の若い経営者やフリーランスのかたが多いので、その支援を得意とはしています。
資格チャレンジ中の方へ:税理士試験は現状打破のチャンス!
■では最後に、税理士を目指すかたにひとことお願いします。
伴:大学を卒業して就職したけれど、このままでいいのかな…という思いを抱えている人には税理士試験がおすすめです。
現状を打破したいと思っている人はぜひ挑戦してみてほしいです。
試験が科目合格制なので、ステップを踏んで合格に近づけますし、最近は大学院の科目免除も主流になってきて、受験期間も短縮されていると聞きます。
就職をしていて、無職にはなれないけどなにかにチャレンジしたいと考えているかたにとっては、必要以上のリスクを取らなくてもできるチャレンジなので、おすすめです。