東芝問題に端を発し、新日本監査法人からの顧客流出が起きた当期。激動の中、クライアント数1位をおさめたのは意外にもあの監査法人だった。2016年度の4大監査法人の成績をクライアント数の増減から振り返る。

1. 2016年度 法人別クライアント数

※トーマツは決算月を変更したため、当期は2016年10月1日から2017年5月31日の8カ月

○クライアント流出が影響も今年も新日本がトップ

当期(2016年度)も、クライアント数トップに立ったのは新日本監査法人でした。新日本は、東芝の粉飾問題により金融庁より新規契約停止処分を受け、それをきっかけに顧客流出の憂き目を見た当期でしたが、業界トップを守り抜きました。内訳をみると、監査・非監査ともに首位となり、結果としては文句なしの1位だったといってよいでしょう。

2位につけたのは例年通りトーマツでした。しかし、監査クライアント数ではとうとうあずさの逆転を許してしまいました。

3位はあずさです。監査クライアント数でトーマツを追い抜いた年度となりました。

4位は例年通りPwCあらたです。他法人に比べ特徴的なのは、非監査クライアント数比率が高いこともさることながら、金商法監査のみのクライアントの比率が高いことです。金商法監査のみ受けるクライアントとは、投資法人を指しており、独自路線をとっていることが見えてきます。

 

 

2. 2016年度 法人別売上単価

(単位:千円)

※トーマツは決算月を変更したため、当期は2016年10月1日から2017年5月31日の8カ月 ※単価の算出にあたっては、2016年度の業務収入等を分子に、2015年度末と2016年度末の各クライアント数の平均を分母として算出した

○監査証明収入はいずれの法人でも2千万円程度

監査証明収入は、いずれの法人も似たり寄ったりの2千万円程度という結果となりました。なお、唯一トーマツだけ著しく低い結果となっていますが、これはトーマツの当期が8カ月しかなかった影響です。

「2017年版 上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書」(監査人・監査報酬問題研究会)によれば、2015年度の上場企業の監査証明業務の単価平均は、6138万円でした。これは一部アメリカ証券取引委員会に登録している企業が監査報酬を引き上げている面があり、中央値は3千万円となっています。

 

○高い非監査業務単価を誇るPwCあらた

一方、非監査証明収入は法人ごとに大きな開きがあり、トーマツを除いた3法人で比べると、1位はPwCあらたの1912万8千円、2位はあずさの1057万4千円、3位は新日本の599万8千円と、1位と3位とで3倍以上の開きがありました。新日本は非監査証明収入が低いことがクライアント数に比して業務収入が伸びない結果となっています。

3. 法人別クライアント数の3期比較

近年、BIG4のクライアント数は、2014年度末には2万2021社、2015年度末には2万1983社、2016年度末には2万1398社と年々減少傾向にあります。

一方、ここ3期の上場企業数は増加しており、そのような中クライアント数が減っているということは、中堅以下の監査法人にクライアントを取られていることを意味しています。

 

①クライアント数当期1位も前期比で大きく数を減らした新日本

帝国データバンク「上場企業の監査法人異動調査(2017年1月~9月)」によれば、監査法人の中で当期もっともクライアントが離れたのが新日本でした。東芝問題により監査クライアント数・非監査クライアント数ともに大きく減らした新日本ですが、この程度の流出で済んで良かったという見方もできます。

非監査クライアント数減に限っていえば、非監査分野をメンバーファームと業務統合したためとの説明がありますが、監査クライアント数が減少したのは監査品質への不安を感じた企業が多かったと見るべきでしょう。

2017年11月末には、ファーストリテイリングがトーマツに異動したことが発表されています。

クライアント数減がここで下げ止まらず、来年以降も続けば首位陥落もあり得ます。

②クライアント数が激減したトーマツ

※決算月を変更したため、当期は2016年10月1日から2017年5月31日の8カ月

当期、クライアント数は激減となりました。特に非監査クライアント数で顕著です。

一方で、新規就任数は前出の「上場企業の監査法人異動調査(2017年1月~9月)」によれば、非BIG4の仰星監査法人と並んで業界トップとなりました。

新日本から、日清製粉グループ本社、雪印メグミルク、臨床検査サービス会社のビー・エム・エル、制御機器メーカーのIDEC、食品包装資材商社の高速などを新規クライアントとして獲得しました。

逆に、電通や映像配信サービスのU-NEXT、ジーンズメイト、衣料小売販売のTOKYO BASE、不動産会社のエー・ディー・ワークス、昭文堂などと解約となりました。

なお、2017年11月末には、ファーストリテイリングを新日本から獲得したことが発表されています。

 

③監査・非監査ともに順調な伸びをみせるあずさ

毎年クライアント数を伸ばし、順調に成長しているあずさ。当期もクライアント数を前期比185社も伸ばしました。当期は新たに、新日本から三菱重工業、第一生命ホールディングス、トーマツから電通の監査を奪取することに成功しました。

順調に業務を拡大しており、特に監査クライアント数に関していえば、2017年度にトップを奪取している可能性もあります。

 

④監査クライアント数増で勢いに乗るPwCあらた

PwCあらたは非監査クライアントに強い監査法人として有名ですが、前期から当期にかけては監査クライアント数も大幅に増加しています。

当期は、新日本から沖電気工業を獲得しました。

トヨタ、ソニーといった日本を代表する企業を主なクライアントとしています。また、世界的なコンサルファームPwC(プライスウォーターハウスクーパース)との関係により、ゴールドマン・サックス証券、JPモルガン、フォルクスワーゲングループジャパンなど、世界的な企業の日本法人監査も多く請け負っています。

 

○勝ち組・負け組にはっきり分かれたクライアント増減数

近年の傾向をみると、

・監査・非監査ともにクライアント数を伸ばすあずさとPwCあらた

・監査・非監査ともにクライアント数を減らす新日本とトーマツ

というのがはっきりと見て取れます。2トップの下落と下位2法人の上昇が顕著です。今後の展開次第では、BIG4の中でクライアント数の順序が激変する事態も十分考えられるでしょう。2017年度の結果に要注目です。


※参考資料
◆新日本有限責任監査法人:第18期 業務及び財産の状況に関する説明書類(平成28年7月1日~平成29年6月30日)
https://www.shinnihon.or.jp/about-us/our-profile/stakeholder/explanatory-documents/pdf/2017-09-07-shinnihon.pdf

◆有限責任監査法人トーマツ:第50期 業務及び財産の状況に関する説明書類(平成28年10月1日~平成29年5月31日)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/audit/stakeholder.html

◆有限責任あずさ監査法人:第33期 業務及び財産の状況に関する説明書(平成26年7月1日~平成27年6月30日)
https://home.kpmg.com/jp/ja/home/about/azsa/stakeholders/public-inspection-33.html

◆PwCあらた有限責任監査法人:第12期会計年度 業務及び財産の状況に関する説明書(平成26年7月1日~平成27年6月30日)
https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/assurance/assets/pdf/public-inspection.pdf

◆帝国データバンク:上場企業の監査法人異動調査(2017年1月~9月)
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p171008.html

◆日本公認会計士協会:2017年度版 上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書
http://www.hp.jicpa.or.jp/ippan/about/news/20170518eew.html