東芝の失墜などにより、監査法人に注目が集まる機会が増えた2016年度。「新日本有限責任監査法人」「有限責任監査法人トーマツ」「有限責任あずさ監査法人」「PwCあらた有限責任監査法人」という4大監査法人の顧客奪い合いも激化している。激動の2016年度監査法人業界について、業績面から振り返る。

1. 4大監査法人の業務収入比較 辛うじて首位を守った新日本

(単位:百万円)

※トーマツ決算期を変更し、当期は2016年10月1日から2017年5月31日の8カ月

当期(2016年度)も業務収入首位を守ったのは新日本監査法人でした。しかし、例年2位のトーマツが、今年度に決算期を変更したため当期が8カ月しかなかったためだともいえます。トーマツの業務収入は709億7700万円。これを単純に1.5倍すると1064億6550万円となり、新日本の1000億3600万円を超えるためです。来期は、長年首位を守り続けてきた新日本をトーマツが逆転する可能性もあります。

また、あずさも猛追中です。あずさの業務収入は新日本の業務収入の96%にまで迫っています。さらに、営業利益と当期純利益は、額・割合ともにあずさがダントツのトップとなりました。

例年上位3法人から大きく引き離されているのがPwCあらたで、業務収入はあずさの半分以下となっています。しかし、PwCあらたと業界第5位の太陽監査法人(2016年度業務収入は62億4113万円)には大きな開きがあり、まだまだ4大法人の牙城は盤石な2016年度だったといえるでしょう。

 

○非監査証明業務収入トップはあずさへ

非監査証明業務収入のトップは長らくトーマツでしたが、今年は会計年度の変更により単純比較はできなくなっています。当期に限っていえば、トップに躍り出たのはあずさでした。また、PwCあらたも伝統的に非監査証明業務に強いのが特徴で、当期はとうとう2位となりました。

新日本は、後で詳しく説明しますが、非監査証明業務を他法人に業務統合したために大きく収入を下げてしまいました。

 

2.法人別過去3期の業績推移

前期と比べ、当期はあずさ、PwCあらた両法人は監査証明業務・非監査証明業務ともに増収となりました。決算期を変更したトーマツも、単純に12カ月あったと仮定すれば増収であり、新日本のひとり負けが鮮明となった当期です。

 

①他法人が収入を伸ばす中、ひとり減収となった新日本

(単位:百万円)

業務収入は前期比6%減となっています。このことについて、新日本の「業務及び財産の状況に関する説明書類」では、

 

「当期は、アドバイザリーサービス業務の一部を、日本におけるアーンスト・アンド・ヤングのグローバルネットワークのメンバーファームであるEY アドバイザリー・アンド・コンサルティング㈱に業務統合した結果、非監査証明業務の対象会社総数は3132社(前期比229 社減少)、非監査証明業に係る当期収入は194億7400万円(前期比19億8300万円減少)となりました。

 

上記の結果、監査証明業務と非監査証明業務を合わせた当期の業務収入総額は、1000億3600万円(前期比64億4600万円減少)となりました。」

 

と説明しています。しかし、監査証明業務の業務収入も前期比5.3%減となっており、東芝問題に端を発した新規契約停止の金融庁命令などが大きな影を落としているのが見て取れます。

また、前期は東芝問題に関連して21億1100万円もの課徴金を課されたことで純利益が非常に少なくなっていましたが、当期は同様に金融庁から命じられた構造改革に関連する費用で10億5100万円もの特別損失を計上していることが純利益の少なさに影響しています。

 

②堅調な伸びで来期には首位奪取もありえるトーマツ

(単位:百万円)

※決算期を変更し、当期は2016年10月1日から2017年5月31日の8カ月

トーマツは東芝問題に端を発し、高リスクのクライアントを排除すべく、クライアント数を絞る傾向にあります。しかし、詳しくは「4大監査法人の業界地図 クライアントから分析」編で見ていきますが、全監査法人の中で新規クライアントをもっとも多く獲得した監査法人でもあります。

当期、会計年度を変更したために単純な前期比はできませんが、当期が8カ月しかなかった割には業務収入について健闘しているといえるでしょう。

また、営業利益は額にして前期を上回っています。営業利益率・当期純利益率も年々堅調な伸びを見せ、高収益体制を築きつつあるように見て取れます。

 

③非監査証明業務の比率を高め高収益体制を築くあずさ

(単位:百万円)

順調に業務収入を伸ばしているあずさ。業務収入の内訳をみると、監査証明以外の業績アップが業績収入引き上げに大きく貢献していますが、監査証明業務も堅調な伸びを見せています。

特徴的なのは営業利益率で、前期比3.2%アップの5.0となっています。表の中にはありませんが、業務収入が前期比6.7%アップなのに比べ、人件費の抑制などにより業務費用が前期比3.1%アップにとどまったことで、高い営業利益率を達成できました。

 

④強みの非監査証明業務収入だけでなく、監査証明業務収入を伸ばすPwCあらた

(単位:百万円)

業界4位のPwCあらたは、監査証明業務が80%前後を占める他3監査法人と比べて独自路線にあり、監査証明業務が約50%前後しかないのが特徴です。そのような中で、今年は監査証明業務収入割合が増えており、新日本から東芝の監査を引き継いだのも記憶に新しいところ。他監査法人から果敢にクライアントを誘致しているとみることができそうです。

しかし、例年高い営業利益率を誇っていましたが、当期は急激に落ち込んでいます。これは、表の中にはありませんが、業務収入が前期比14.3%アップなのに比べ、業務費用が前期比22.6%アップとなっているため。人件費などに顕著な伸びがあり、業務拡大に向けた従業員の増員が利益を圧迫したといえそうです。

 

○熾烈な監査企業の奪い合い

BIG4からBIG4へと監査法人を変更した場合、監査報酬は下がる傾向にあります。

日本公認会計士協会「2017年度版 上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書」によれば、監査人を変更した場合の監査証明業務の報酬をみると、平均して13.55%も報酬が下がっていることが分かります。

普通に考えれば、監査人を交代した場合、監査手続きは増えるため費用は増えそうなものです。しかし、実際には交代後には報酬は下がる傾向にあるのは、新規契約のために監査報酬を〝値引き〟しているのでは、という推測ができます。

BIG4間のクライアントの移動は、監査法人とクライアント企業との信頼関係といった問題もありますが、企業側の値引き要求という要因も大きいといえそうです。

 

○BIG4の牙城はいつまで続くか

大企業の監査業務はとにかく公認会計士の人数が必要となるため、これまで物理的にBIG4以外は受託できない状況にありました。

しかし2018年、2016年度監査証明業務収入業界5位の太陽監査法人と9位の優成監査法人が合併(合併後の名称は太陽監査法人)し規模が拡大することで、BIG4の一角に食い込んでくる可能性があります。2016年度の両法人の監査業務収入は、太陽が62億4113万円、優成が36億7793万円、合わせて99億1906万円で、BIG4最下位のPwCあらた(216億5300万円)との差は依然大きいものがあります。しかし、合併した暁にはBIG4のクライアントも誘致できるようになる可能性も出てきます。この合併が来年以降の監査法人業界に嵐を引き起こすか、要注目です。

※参考資料
◆新日本有限責任監査法人:第18期 業務及び財産の状況に関する説明書類(平成28年7月1日~平成29年6月30日)
◆有限責任監査法人トーマツ:第50期 業務及び財産の状況に関する説明書類(平成28年10月1日~平成29年5月31日)
◆有限責任あずさ監査法人:第33期 業務及び財産の状況に関する説明書(平成26年7月1日~平成27年6月30日)
◆PwCあらた有限責任監査法人:第12期会計年度 業務及び財産の状況に関する説明書(平成26年7月1日~平成27年6月30日)
◆太陽有限責任監査法人:第47期 業務及び財産の状況に関する説明書(平成26年7月1日~平成27年6月30日)
◆優成監査法人;第18期 業務及び財産の状況に関する説明書(平成26年7月1日~平成27年6月30日)
◆帝国データバンク:上場企業の監査法人異動調査
◆日本公認会計士協会:2017年度版 上場企業監査人・監査報酬実態調査報告書