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相続税調査で国税庁が最新データ公開 調査に入ったら8割超の確立で非違指摘

国税庁は現在、「富裕層」「国際」「無申告」の3点を柱に税務調査を強化しているが、相続税調査においても顕著にその傾向が現れている。12月12日に国税庁が公表した平成29事務年度(平成29年7月から同30年6月末)の相続税の調査状況によると、相続税の実地調査件数をはじめ、海外関連資産や無申告事案についての調査実績が上がっている。

例年なら、国税庁から相続税の調査実績は11月中旬には公表されているが、今年はなぜか1カ月遅れて公表された。事務手続き的な問題なのか、何らかの理由で集計に時間が掛かったのかは分からないが、基本的にこうしたデータは国税総合管理システム(KSK)で管理され、それを集計するだけなので、なぜ遅れたのか個人的には理由が気になっている。
さて、話を今回の本題に移すが、課税庁において相続税は「最後の砦」といわれ、所得税などで見逃してきた税金を、最後に精算してもらう大きな意味を持っている。相続税は、2015年1月1日以降から基礎控除額が引下げられたことにより、申告件数は増加傾向にあり、それに伴う税務調査件数も増えている。国税庁はこの数年、「富裕層」「国際」「無申告」の3点を柱に深度ある調査を進めており、相続税はこれに大いに絡んでくることから、調査の力の入れようが違うようだ。
国税庁が12月12日に公表した「平成29事務年度における相続税の調査状況について」によると、2017年7月から18年6月までの1年間に行った相続税の実地調査件数は、1万2576件と前事務年度(1万2116件)より103.8%増加している。申告漏れ等の非違件数、いわゆる税務署に申告内容に問題ありと指摘された件数は、1万521件と、こちらも前事務年度(9930件)より106%増加している。
この数字を多いと思うかどうかは読者の判断に任せるが、申告件数における非違割合は、29事務年度で83.7%と、調査が行われたらかなりの高い確率で申告ミスが指摘されていることが分かる。野球なら3割打者ともなれば強打者だが、8割強という実績は“スゴイ”としか言いようがない。一般的に納税者の多くが相続税調査の経験がないだけでなく、税の専門家である税理士も相続税調査の立会い経験不足ということも大きく影響している。相続税調査を行う調査官は、毎年それだけを行っているその道のプロ。プロと素人では、そもそも相手にならないわけだ。とくに、法人税などと違い会計帳簿などの資料があるわけでなく、ほぼ相続人の自供が非違のベースとなることから、調査の詰めは厳しい。そもそも、顧問税理士にも知らせていない資産が調査で分かることも多い。
そのため、相続財産の「仮想・隠ぺい」などにより課せられる税のペナルティである「重加算税」賦課件数も29事務年度では1504件あり、前事務年度より115.7%増加している。
相続税の申告漏れ等の非違件数における重加算税の賦課割合も14.3%とかなり高く、この数字も前事務年度13.1%からかなり上がっている。
申告漏れ相続財産の金額構成比で興味深いのが、「現金・預貯金」が34.1%を占め、「土地」や「家屋」「有価証券」などよりも2倍近く高いこと。「相続税調査で必ず確認するのが名義預金の有無」(国税OB税理士)で、子ども名義の預金通帳に被相続人が多額のお金を積み立てている、また、専業主婦の配偶者が、ヘソクリを溜め込み、自分の預金通帳で管理しているなど、「預金通帳の名義は自分だから」と安心していると、税務調査で「それも相続財産になります」と指摘されるケースが多いのだ。

※国税庁資料より転載

無申告にも調査の眼厳しく

さて、29事務年度の相続税の調査状況においては、無申告者に対しての調査実績についても詳細に記載されている。無申告に対する実地調査件数は1216件、申告漏れ非違件数は1025件となっており、987億円の申告漏れを見つけている。1件あたりにすると、申告漏れ課税価格は8117万円で、通帳税額は722万円に上る。非違割合はなんと約85%だ。
このほか、海外関連資産の調査には、課税当局も「富裕層」=「海外資産」という見方もできるため厳しい眼を向けている。これまでは、租税条約等に基づく情報交換制度などを活用して、海外の資産を持つ納税者の情報収集に力を入れており、29事務年度は1129件の実地調査を行い、134件の申告漏れ等の非違を指摘している。非違1件あたりの申告漏れ課税価格も5188万円と高額で、重加算税賦課案件としても6件、8億円もの重加算税を賦課している。非違財産としては、「現金・預貯金」が多く非違件数に占める割合の約3分の1。エリア別では、北米、アジア、欧州の順になっている。

※国税庁より転載

海外資産については、平成30年9月から共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報(CSR)などが実施され、海外に金融口座があっても日本の課税当局に情報は筒抜けになった。国税OB税理士によると、「CSRによる金融口座情報は、これまでの租税条約における情報交換とは比べものにならないほど調査に活用できる。共通基準で金融機関から情報が自動的に提供されるため、今後はさらに深度ある調査につながるだろう」と指摘する。
毎年、国税庁から発表される相続税の調査実績。データをさまざまな角度から見ていくと、課税当局の税務調査における現在の取組みなどが透けて見える。課税当局もそれを意識してデータを公表している部分もあるが、税理士などの専門家は、こうした情報も有効的にビジネスに活用していきたいものだ。

著者: 宮口貴志

KaikeiZine編集長

税金の専門紙「納税通信」、税理士業界紙「税理士新聞」の元編集長。現在は一般社団法人租税調査研究会の事務局長であり、会計事務所ウオッチャー、TAXジャーナリストとして活動。㈱ZEIKENメディアプラス代表取締役社長。
■税と経営の顧問団租税調査研究会
https://zeimusoudan.biz/
■KaikeiZine
https://kaikeizine.jp/

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