国税庁は、各国の税務当局と金融口座情報を交換するCRS(Common Reporting Standard:「共通報告基準」)により、日本人が海外に保有する55万件超の口座情報を入手したと発表しました。海外口座の情報は今後も定期的に自動交換される仕組みとなっており、富裕層が海外に持つ資産の補足が飛躍的に進むことになります。

■CRSによる初回交換の状況

CRSとは、非居住者に係る金融口座情報を各国税務当局間で自動的に交換するために、2014年にOECDが策定した国際基準である。同基準を適用する国同士が、それぞれの国の金融機関に開設された相手国居住者の口座情報を年1回、自動的に交換する仕組みとなっており、100を超える国・地域がCRSに参加している。
金融機関には、銀行だけでなく、保険会社や証券会社も含まれる。また、海外に本店がある金融機関の日本支店も含まれる。
交換の対象となる口座は、預金口座、貯蓄性の保険契約・年金保険契約、証券口座等の保管口座及び信託受益権等の投資持分とされており、交換される口座情報は、口座保有者の氏名・住所、納税者番号、口座残高、利子・配当等の年間受取総額等とされている。
日本では2018年9月に初回の交換が行われた。初回交換においては、国税庁は日本の非居住者に係る金融口座情報89,672件を58か国・地域に提供した一方、日本の居住者に係る金融口座情報550,705件を64か国・地域から受領したとされる。

(出典:国税庁記者発表資料)

日本人の海外保有口座の地域別内訳をみると、アジア・大洋州(太平洋上の国家など)が29万件超と最も多く、欧米・NIS諸国(旧ソ連件)が20万件超と続いている。これらの地域には資金の秘匿先として知られるシンガポールやスイスなどが含まれる。また、タックスヘイブン(租税回避地)として有名なケイマン諸島や英領バージン諸島などを含む北米・中南米からも4万超の口座情報が提供されている。

(出典:国税庁記者発表資料)

■米国はCRSに不参加

100を超える国・地域が参加するCRSであるが、米国はCRSに参加していない。
米国がCRSに参加しない理由は、米国は米国外の金融機関に対して、米国人等の口座情報の報告を求めるFATCA(外国口座コンプライアンス法)という制度を2010年3月に導入しているからである。日本の金融機関もFATCAに基づき米国内国歳入庁(IRS)へ毎年、口座情報を報告している。 このように、米国では既に独自の情報収集体制を敷いていることから、あえてCRSに参加していないのである。
このFATCAの下では、日本にある米国人等の口座情報は米国へ提供される一方、米国にある日本人の口座情報は日本へ提供されない。すなわち、双方向の情報のやり取りにはなっていないのである。そのため、現状では、米国に口座を開設すれば、少なくともCRSの網から逃れることは可能となる。最近の報道によれば、米国がCRSの不参加を表明した16年以降、非居住者を対象とした米国内の金融サービスの利用者が急増しているとのことである。
こうしたCRS不参加国への資産フライトは、国税庁にとっての今後の課題となるであろう。

CRSによる情報の活用

国税庁は、CRSにより各国から受領した金融口座情報を、国外送金等調書、国外財産調書、財産債務調書等の情報と照合し、海外への資産隠しや国際的租税回避行為の解明に活用するととなる。
また、徴収の分野においても、受領した金融口座情報を活用し、外国税務当局への徴収共助の要請等を行っていくとしている。