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【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第14回/香港で脱税すると牢屋行き!? 日本よりもはるかに厳しいその実態とは・・・?

【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第14回/香港で脱税すると牢屋行き!? 日本よりもはるかに厳しいその実態とは・・・?

香港もようやく涼しくなってきました!

気づいたらもう2018年も終わりに近づいていますね。日本ではもうコートを着込む時期でしょうか?

私の住んでいる香港では、最近になってようやく20度を下回る日が出てくるようになりました。10月後半~12月前半の香港は、1年で最も過ごしやすい季節です。

ちなみに香港の冷房設備は発達していますが、暖房設備はあまり整っていません。12月下旬~1月下旬までの間、室内も外気と同じくらい寒くなります。といっても、外気の最低気温も10度前後ですので凍えるような寒さではありません。香港へ旅行するなら、秋から冬にかけての今の季節がおすすめです!

つい最近開通した、マカオと香港を結ぶ道路。長い長い!

香港の税務行政は、日本の8分の1の人員で動いています

さて今回は、そんな香港の厳しい税務行政についてご紹介します。皆さん、香港の税制についてどんなイメージを持っていますか?

「税率が低い」
「税目が少ない」
「とにかく税金が安い」
「効率的だ」
など、ざっとこんなところでしょうか?

周知のとおり、香港は税目がとても少なく、税率がとても低いことから、アジアのタックス・ヘイブンといわれることがあります。過去の記事でも香港の税制は紹介しましたが、簡単に日本と比較してみましょう。

税目に関していうと、香港には11の税目が存在します。対して日本に存在する税目は、なんと56!(国税のレベルで26税目と、都道府県のレベルで30税目)。

香港には消費税は存在しませんが、日本には8%(来年からついに10%へ引き上げ)の消費税があります。

代表的な税率を比べると、香港の勤労所得に係る所得税率は一律15%(または2~17%の累進税率を適用して、低いほう)です。一方、日本の勤労所得に係る税率は、国の所得税が5~45%の累進税率を適用したものと、住民税が一律10%との2本立てです。

さらに税務職員の数を比べると、日本の国税庁職員(税務署勤務も含む)が5万4082人であるのに対し、香港のInland Revenue Departmentの職員数は2889人です。これを税目の数で割ってみると、1つの税目に対して、どれくらいのリソースがあるかを見ることができます。

日本の国税は26税目ですので、1税目につき約2080人の税務職員を配置できる計算になります。一方、香港は11税目ですので、1つの税目に対して配置できる職員の数はたったの262人です。なんと、香港は日本の約8分の1の人員で1つの税目を運営していることになります。なお、この計算には、日本の地方税と、地方税務に従事する職員の数は考慮していません。

その少ない人員で税を管理できる理由は、圧倒的に効率的な税務行政とシンプルな税制から成り立っています。申告できる控除の数がとても少なく、申告しなければいけない所得の範囲もとても狭く、申告書は1枚の紙きれで構成され、“中学生でも作成できる“といわれるほど簡素なものです。

そしてもう1つの理由は、脱税犯に対するとても厳しい姿勢です。故意に脱税をした場合、香港だと簡単に懲役刑が科されます。

こんなことで懲役刑?

たとえば、こんな事例。
従業員A氏は7年に渡り、彼の申告書上、故意にSelf-Educationという控除項目を過大に申告して、合計11万57香港ドル(日本円で約160万円)を脱税しました。Self-Educationとは、日本の所得税の控除項目でいう“給与所得者の特定支出控除”に似ています。職務に関連して必要なトレーニング等に関する支出をした場合、その年の申告上所得から控除できるというものです。

故意に虚偽の申告をしていますので、悪意のある脱税犯です。しかし、その金額は7年に渡り160万円。たったの160万円・・・といってしまうとよくないのですが、160万円です。彼が受けた制裁は、なんと8週間の懲役刑です。

または、こんな事例もあります。

従業員B氏は6年に渡り、彼の申告書上、故意にCharitable Donationという控除項目を過大に申告して、合計7万8737香港ドル(日本円で約115万円)を脱税しました。Charitable Donationとは、日本の所得税の控除項目でいう“寄付金控除”です。あらかじめ認められた団体へ寄付行為を行った場合、その金額をその年の申告上所得から控除できるというものです。

このケースも故意に虚偽の申告をしていますが、6年に渡り100万円強という金額にしかなりません。しかし、このケースでも、従業員Bには6週間の懲役刑が科されました。

以上のケースは、香港の国税庁、Inland Revenue Departmentのウェブサイトから参照しています。

日本でも、故意に虚偽の申告をすることは重大な犯罪です。日本の所得税法238条には、
“偽りその他不正の行為により、所得税を免れた者は、10年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する”とあります。そう、日本でも脱税犯には懲役刑を科すことができます。

ただし日本の税務行政の実務上、懲役刑が科されるのは、所得税でおおよそ1億円以上の脱税があった場合や、再犯であったり、そのスキームが極めて悪質である場合等、とても限定的です。明確な基準はありませんが、ほとんどの場合は罰金刑で終了します。

また、懲役刑が科されても、脱税犯の場合には執行猶予がつくことがほとんどです。罪を認め、本税、附帯税と罰金を納めた場合には、よほどのことがない限り、牢屋行きにはなりません。

たとえばこの事例。

日本の個人ビジネスオーナーC氏は、2年に渡り、故意に彼女の所得合計約3億6千万を申告しませんでした。彼女に対して科された刑は、罰金2千万円、重加算税に懲役刑3年(ただし執行猶予5年)でした。罪を認めていることと、重加算税等を含めたすべての額を納付済みであること、今後は誠実な納税者になると宣誓していること等を考慮して、投獄を免れたようです。先の香港の2つの事例と比べると、どうにも緩い気がしますね(香港が厳しすぎる気もしますが・・・)。

小籠包は絶品。週末のお昼は、家族でDim Sum(飲茶)をするのが香港の文化です。

脱税の事前抑制を通して効率的な税務行政をする香港

Inland Revenue Departmentの運営法であるInland Revenue Ordinance82条には、故意に脱税をした納税者に対する刑については “5万香港ドル以下の罰金(日本円約72万)、免れた本税の3倍の金額、および3年以下の懲役” と定められています。 既述のとおり、日本の脱税犯に対する懲役刑は10年ですので、法律上、香港は日本よりも緩やかな刑を定めているとも見てとれます。

しかし実際の運営上、脱税犯への懲役刑は日本よりも簡単にいい渡されています。これは“見せしめ”であり“懲罰的”な側面を納税者にアピールすることに有効的です。

既述のとおり、香港は日本の約8分の1のリソースで一つの税目を運営しています。
香港の限定的な税務職員数で税務行政を運営するには、脱税犯を追う査察官や税務調査へ割くリソースを最小化する必要があります。そこで故意の虚偽の申告に対して懲役刑を科すことによって、納税者への脱税の事前抑制をしているのではないでしょうか。

このように簡単に懲役刑が科される実態を知ると、“少しだけ控除の金額を大きく申告してしまおう”、または“この所得は申告しなくてもバレないだろう”といった気持ちが消えてなくなりますよね。

日本の税務調査の件数は年々伸びています。税務署レベルの税務調査の最新の件数は64万件、うち申告漏れ等があった件数は40万件です。つまり正確に申告の祖語を指摘できた割合はたったの62%なのです。

無駄に終わる税務調査の多さを鑑みると、香港のように事前抑制に努め、税務調査に割くリソースを大幅にカットするというのも効率的な税務行政の目指す一つのかたちだと思います。

常夏の東南アジアの写真に見えますが、11月末の香港大学キャンパスの写真です。

今回の結論:事前抑制を通じて効率的な税務行政を運営する香港、厳しすぎて少し怖いです。。

著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

香港在住の税制コンサルタント。過去に東京、ニューヨーク、香港にて国際税務アドバイザーの仕事を行う。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。現在は香港大学大学院で国際法及び租税法の研究中。慶應義塾大学法学部卒。

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