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【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第18回/“高税率高福祉“と言われるカナダの税収構造を徹底解剖!

人気連載第18弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は、カナダはオンタリオ州のトロントへ旅した筆者が、カナダの税制について解剖してみます。

トロントに行ってきました~!

4月上旬に、カナダはオンタリオ州のトロントへ旅行に行ってきました。
さ、さ、さ、さむい…! 4月なのに気温が-2℃なうえ、雪が降っている!

到着した日が大雪でした

かつてニューヨークに住んでいた私、寒さにはそれなりに免疫があります。しかし香港に住んでもうすぐ2年。蒸し暑いアジアの気候にすっかり慣れてしまい、トロント旅行は寒さとの戦いでした。4月なのに氷点下って、トロントはレベルの違う寒さです。

“カナダ人にはいい人が多い“と聞いていたのですが、その噂は本当でした。

赤ちゃん連れの旅行だったからかもしれませんが、エレベーターやお店で隣り合う人は、みな声を掛け合い、レストランやカフェの店員さんのサービスもとても温かく、都市であることを忘れてしまう街でした。

とってもきれいな街でした!

そんなカナダ。カナダの税制と聞くと、みなさんはどんなイメージを持ちますか?

香港の友人たちは、みな口を揃えてカナダのことを“高税率国だ”と言います。税目が少なく、税率がとても低い香港から見ると、ほとんどの国が高税率国に見えてしまう気もするのですが…。とにかく、カナダは高税率国だというイメージがあるようです。

カナダは高福祉国家だと言う人もいます。北欧レベルではないにしても、国民皆保険制度のもと医療サービスは実質無償ですし、公教育も高校卒業まで無償です。

高税率・高福祉だという印象があるカナダ。果たして実際に、どのくらい高税率なのでしょうか?

実は日本の方が高税率? 個人の観点から見るカナダの税制

カナダの税収は、そのほとんどが個人所得税から成り立っています(下記グラフ参照)。高税率国家と聞くと個人所得税の税率が高いイメージがあるかもしれませんが、カナダの個人所得税の税率は下が15%から上が33%の累進税率です。


参考:Department of finance Canada

下が15%から上が33%の累進税率であるカナダの所得税。この税率はあくまで国税としての税率です。ここに、それぞれの州の税率が上乗せされます。

トロントのあるオンタリオ州の税率は、下が5.05%から上が13.16%の累進税率です。国税とあわせると、最高税率は46.16%になります。

税率が一番高いのはケベック州で、下が15%から上が25.75%の累進税率です。国税と併せると、最高税率は58.75%になります。

日本では、所得税と住民税を合わせた最高税率は55.945%です。実は、カナダにおいてこの税率を超えるのは上で紹介したケベック州のみなのです。トロントをはじめとするその他の州では、国税とあわせた最高税率は40%台後半となることが多いです。最高税率のみで比べると、日本のほうが高税率国だと言えそうですね。

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それでは、消費税はどうでしょうか。

日本の消費税は、今年10月に8%から10%に引き上げられますね。一般に税率は10%となりますが、酒類・外食を除く飲食料品へは8%の軽減税率が適用されます。

一方カナダにも、Goods and Service Tax (GST)が存在しています。これも国と州の2層の税率からなります。オンタリオ州では合計した税率は13%、ケベック州では14.975%です。おおよそどの州も、合計した税率は11~15%となるところが多いようです。

これは日本の10%税率と比べると少しだけ高く感じます。

しかし…

実は、カナダでは基本的な飲食料品へのGSTは0%です。一部スナックやアルコールなどの嗜好品へは一般税率が適用されますが、野菜や果物、肉などへは、いわゆる消費税はかからないことになります。

日本における飲食料品にかかる軽減税率は既述のとおり8%ですので、カナダの0%と比べると日本のほうが高いことが分かります。

しいて言えば、日本ではお菓子やアイスクリームなどの嗜好品へも8%の軽減税率が適用されることになりますが、カナダではこれら嗜好品に対しては一般税率が適用されます。ジャンクフードが好きな方にとっては、日本のほうがいいかもしれませんね。

CNタワーと朝焼け。空気がとってもきれいでした!

カナダの税制の歴史

そんなカナダですが、個人への所得税制を導入したのは比較的最近です。
カナダにおいて、個人所得税は1917年まで存在していませんでした。これは、他の国と比べるととても遅いのです。

世界で最初に個人所得税制を導入したのはイギリスで、1799年、戦費調達を目的とした導入でした。1811年にプロイセン、1850年にオーストリア、1862年にアメリカ、1887年に日本にて、続々と個人所得税は導入されていきました。

余談ですが、税制の歴史は戦争調達の歴史です。各国が新たな税目を導入したのは、戦費をまかなうためという理由がほとんどです。例えば、日本も採用している源泉徴収制度は、安定的なキャッシュフローを必要としていたナチスドイツが導入した制度だったのです。

さて、カナダに話を戻します。第一次世界大戦以前のカナダは、各国が個人所得税を導入して歳入を増やしていくなか、導入を積極的に検討していませんでした。その理由は、移民政策です。

アメリカ大陸において、最北に位置するカナダ。その寒く乾燥した気候は、移民にとって魅力的なものではありません。“自由の国アメリカ”に隣接しているのも、移民が積極的にカナダを目指さない理由です。そこでカナダ政府は、個人所得税を導入しないことによって、稼労所得を得る層に魅力を訴えかけようとしたのです。なお当時のカナダの財源は、Custom and exercise tax(関税や物品税)でした。

今では高税率国だと思われているカナダが、つい最近まで個人所得税制をもっていなかったのは驚きですね。

しかし、そんなカナダも既述のとおり、1917年に個人所得税を導入します。イギリス連邦として本国の戦費調達に貢献しなければならない…というプレッシャーの元、“期間限定“という約束で制度が導入されました。

しかし戦後も、退役軍人への福利厚生や負債利子の支払いのための資金等に予算が必要となり、結局個人所得税制は暫定法から恒久法へと変化を遂げました。そして、今日に至ります。

今回の結論:トロントは寒かったですが、とっても素敵な街でした!

著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

香港在住の税制コンサルタント。過去に東京、ニューヨーク、香港にて国際税務アドバイザーの仕事を行う。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。現在は香港大学大学院で国際法及び租税法の研究中。慶應義塾大学法学部卒。

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