人気連載第25弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた税制コンサルタントMariaが、あらゆる国の税に関するエピソードをご紹介。今回は中国は香港から深センへ。ハイテク企業が集まる中国の経済特区には、税制優遇等を通してハイスキル人材が集まる仕組みがありました。
ハイテク企業が集まる深セン
中国は深センに行ってきました!
これまで香港から深センへの移動は、地下鉄やバスで45分程度かかっていました。
しかし2018年9月に高速鉄道が開通し、なんと、たったの14分で行くことができるようになったのです!この近さを利用して、香港に住み深センで働く、またはその逆を行っている人も多いのではないかと思います。
ちなみに香港は中国の一部(一国二制度の下)ですが、深センへ行く際には出入国の手続きが必要となります。香港側で高速鉄道に乗る前に手続きをして、いざ乗車です!
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深センは、アジア随一のハイテク企業密集地です。WeChatで有名なTencent(テンセント)や、何かとニュースを賑わせているHuawei(ファーウェイ)の本社があるばかりでなく、さまざまなハイテク企業やスタートアップが密集しています。
深センの成長の勢いはすさまじく、人口は1400万人に届くと言われています。人口密集はスタートアップやビジネスアイディアがどんどん生まれるための条件の一つと言えるため(お金、人材、アイディアが近くに集まる)、深センの成長はまだまだ続きそうです。
深センで現金を使おうなんて……筆者の大失敗
そんな深セン市内には、QRコード決済(WeChat PayやAlipay)のみで運営されている店舗も多く、無人コンビニや無人ホテル等も続々と登場しています。道端の商店や出店なども、QRコードで決済をしているのです。現金で勘定をしているお店なんて、ほとんどないのではないでしょうか。
そんな深センで大人気のコーヒーチェーン、Luckin Coffeeに行ってきました。
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Luckin Coffeeは、“スターバックスを駆逐する”ために2017年に北京で起業されました。とても新しいコーヒーチェーン……と思いきや、すでに中国国内に4260店舗(2019年11月時点)も展開しています! スターバックスのようなおいしいコーヒーを、スターバックスよりも安価で、という戦略が大成功しているのです。
さて、そんなLuckin Coffeeも例外なく、キャッシュレス決済を採用しています。アプリを使用して事前注文し、店頭受取りかどこかへ配達かを選択します。アプリ内の決済はWeChat PayやAlipay等を通じて行われます。レジ業務がないため、店舗ごとの店員さんの数も最低限です。
コーヒーを買おうと意気揚々とLuckin Coffeeへ行った私たちは、現地で“アプリ注文”の仕組みについて知りました。私たちが行った店舗には、なんとバリスタのお兄さん1人しかいませんでした……キャッシュレス決済は、店舗運営を効率的にするのですね。
さて、定員さんにオーダーをしながらアプリ登録をし、コーヒーを買おうとしたのですが……なんと決済がうまくいきません。私たちのWeChat Payは香港のクレジットカードと連結しており、国際クレジットカードを受け付けていないお店だとうまく決済ができなかった様子。
しかし、すでにコーヒーは作ってもらっていました。どうしよう……と困った私たちは、最終手段の現金をバリスタのお兄さんに渡しました。しかし丁度の金額の紙幣はなく、おつりが発生してしまいます。と、ここで問題が。Luckin Coffeeの店舗には現金が一切なかったのです。
困ったバリスタのお兄さんでしたが、ショッピングモール内を走り回って現金を探してきてくれて、無事に私たちはおつりを受け取ることができました。とても優しいお兄さんでよかった……と思う反面、深センにおいて現金を使うことはもはや大変なんだな、ととても驚きました。
グレイターベイエリア構想と、人材を集めるための税制優遇策
さて、そんな深センの成長を支えるのはまぎれもなく人材です。
テクノロジー分野における高度スキル人材がアメリカのシリコンバレーや中東のイスラエルに集まるのと同じように、深センには世界中のエリートが集まり始めています。
これは、中国政府が世界中から人材を集める努力をしている成果でもあります。その努力のうちの一つが、税制優遇策です。
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“グレイターベイエリア構想”という単語を、ニュースで耳にすることも多いのではないでしょうか。これは中国政府が、香港・マカオ・広東省とともに政策として実行しているものです。世界に台頭しているベイエリア(サンフランシスコ等)に匹敵するベイエリアを中国につくり、さらなる経済発展に繋げようという政策です。
その政策のうちの一つが、人材の確保です。ハイスキルな外国人労働者を確保するための政策として、中国政府は、大幅な所得税の優遇措置を布いています。この優遇措置が適用されると、所得税率は実質15%程度に低減されます。中国における所得税率の最高税率が45%であることを鑑みると、これは大きな優遇政策です。
中国政府の公示を見ると、広東省の広州市、深圳市、珠海市、仏山市、恵州市、東莞市、中山市、江門市、肇慶市の9都市において、該当する個人が納税した所得税額が課税所得額の15%を超過した部分に対して、財政補助金を支給するとされています。
15%という税率は、強く香港を意識したものと考えられます。香港における所得税率は2%~17%の累進税率か、又は15%の比例税率を適用したもののうち、税額が低くなる方を採用すると定められています。つまり、どんなに高くても15%なのです。
香港における低い税率は、まぎれもなく高所得・高スキル人材を魅了しています。実際に筆者のまわりにも、香港の税率による恩恵を享受するために香港に住んでいるという人がたくさんいます。
このように世界中のエリートたちが深センの目と鼻の先に集まっているのに、これまでその層が深セン企業に流れ込まなかった理由のうちの一つが、税負担だと考えられます。
香港と深センは通勤圏内ですが、深セン企業に勤めると、中国において役務提供しているため、中国において所得税を納税する義務が発生します。香港企業に勤めているのであれば、どんなに高くても15%だった所得税が、深センにある企業に転職すると45%に跳ね上がってしまう……となると、高所得・高スキル人材にとって魅力的な選択肢とは言えませんね。
そこで発動された今回の税制優遇策。外国人高度スキル人材であると納税者側から申請をし、その申請が許可されると、支払った税額のうち税率15%を超えた部分の額が補填されるというものです。
実際の申請や手続き面での課題があるとも言われていますが、日本人であっても申請できるので、今後、海外転職を検討している方は、参考にしてみてはいかがでしょうか。
細かな要件等については、KPMG税理士法人のチャイナタックスアラートに分かりやすくまとまっていますので、ぜひ参考にしてみてください。
KPMG税理士法人 チャイナタックスアラート(中国税務速報)第18回、2019年6月
今回の結論:現金で払うのが恥ずかしいだなんて……おばさんになった気分です!!(おばさんなのですが)
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