「本物か、それとも、本物を似せたものか」という議論はよくありますが、その際、後者には「風(ふう)」がつけられることがよくあります。消費税における軽減税率の問題が論じられる際、「本みりん」と「みりん風調味料」の例が出されることがありますが、今回はそうした「風」にスポットを当ててみましょう。
〇〇風

「風」について、辞書には、「それらしいようす。ふり。」とか、「名詞に付いて、そういう様式である、そういう外見である、その傾向がある、などの意を表す。」として、「地中海風の料理」「アララギ風の短歌」「役人風の男」などが例示されています。このことについては、以前、このコラムでも取り上げたことがあるので、お読みになった読者もいらっしゃるかもしれません【酒井克彦の「税金」についての公開雑談~税理士活動に関する表示の信憑性~】。
さて、この「風」は、消費税にも影響があります。
消費税増税に当たって、軽減税率の区別に関心が寄せられている中、おそらく、租税専門家ではなくても、この手の議論に疑問を覚える向きも多いのではないでしょうか。
8%なのか10%なのかの区別の例としてよく挙げられる話題の一つに、「みりん」と「みりん風調味料」の違いがあります。前者には10 %、後者には8%の税率が適用されるというややこしさは、たびたび話題となりました。
酒類か否かの判断
みりんは「本みりん」と称され、酒税法に則った原材料で作られ、原料はもち米、米麹、醸造アルコール、糖類などです。これに対して、「みりん風調味料」は糖類、米、米麹、酸味料、調味料などから作られるものを指します。
これらの違いで注意したいのは、酒類であるかどうかです。
酒類に分類されるかはアルコール度数で決められますが、アルコール度数が「1%以上」なら酒類に分類されることとなっています。
すなわち、本みりんのアルコール度数は約14%ですから酒類に属すということになり、軽減税率の対象から除かれるというわけです。
「日本版インボイス制度」と「インボイス制度」
我が国の消費税は、現在、いわゆる日本版インボイス制度という計算方法で、納付すべき消費税の額を計算することとされています。
これは、消費税法導入の際に、お手本にしていたヨーロッパ型のインボイス制度を採用することに、事務負担やレジスターの設置問題など、一定の抵抗があったことから、これらの批判を回避するために設けられた措置です。
すなわち、厳格なインボイスの発給義務を事業者に課すことを避け、その代わりに1年間の帳簿をベースに仕入金額等を算定して、これの合計額に消費税率を乗じたものが、本来、商品等を購入した時に受け取ったインボイスを足し合わせたものと見立てて、仕入税額控除を計算する仕組みを採用しているのです。
そもそもこれは、日本版インボイス制度とはいっても、発給を受けたインボイスを計算しているものではないですから、「インボイス」制度ではないのです。いわば、「インボイス風」制度と言っても良いでしょう。
このインボイス風制度では、本来の仕入額とは異なる金額が計算されることがあります。事業者自らが作成する帳簿の精度に大きく依存する仕組みであるから、本来のインボイス制度の下で計算する仕入れ税額とは異なり、やや正確性を欠いたものとなっているといわざるを得ません。
インボイス制度の導入
しかしながら、このようなインボイス風制度は令和5年までで終焉を迎え、同年10月からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)に移行することになっています。
インボイス制度となれば、インボイス風制度の下で許されていた不正確な仕入税額控除は認められなくなるのです。
したがって、今後はこれまでとは異なり、より正確な計算がなされることになるでしょう。そうした意味では、インボイス「風」制度からインボイス制度になるということは、場合によっては、消費税の負担金額が増えるかもしれないことに留意する必要もありましょう。
まるで、みりん風調味料が本みりんよりも税負担が軽いように。
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