安倍晋三前首相の突然の退任劇は、永田町を大きく揺るがしました。菅首相にはコロナ対策の継続性などを求める声が多い反面、安倍首相の周辺で問題視されてきた政治問題の解決が有耶無耶になるのではないかという懸念の声も聞こえてきます。例えば、安倍政権で問題視された桜を見る会について、菅政権は来年以降の同会の開催中止を発表しましたが、これについては種々の評価がありましょう。さて、桜を見る会は、現代の茶会ともいえそうですが、今回はそうした茶会に目を向けてみましょう。
信長流、茶会の政治利用

歴史を振り返ると、織田信長や豊臣秀吉は茶会を政治利用していたことが想起されます。例えば、信長が行った茶会等の政治利用は、「御茶湯御政道(おんちゃのゆごせいどう)」と呼ばれ(これは、後述の秀吉の手紙の表現がその元となっている言い方です。)、茶会は、信長にとって政治の一つの手段だったことが窺われます。
すなわち、信長は、茶会を開くことのできる者を信長の指定した者に限定することとしたのです。その時、指定されたのは、柴田勝家、丹羽勝秀、明智光秀、羽柴秀吉だけでした。
後年、織田信長の葬儀の際、豊臣秀吉(羽柴秀吉)が織田信孝の臣下に送った手紙に、「我等は被免置、茶湯を可仕と被仰出候事、今生後生難忘存候」とあり、「私に茶会を開くことを許可せられたことは、今生来世まで忘れることはできない」と喜んだと、回顧しています。
信長が、茶の湯の隆盛に与えた影響は大きいと言われ、信長は、当時、政財界の中心にいて茶人でもあった茶湯の天下三宗匠と呼ばれた今井宗久、津田宗及、千利休を茶頭として重用しています。そして、名物茶道具を持つ事、茶会を開く事が出来るという事が武将たちの誉れになっていったわけです。
鎌倉幕府が、元寇の際に国防に当たった大名たちに土地という褒美を与えることが出来なかったことで反発を買ったことを知っていた信長は、土地に代わる褒美として名物茶道具を進呈するようになりました。
名物茶道具の適正な評価額は?
実はこの話は、現代の財産評価に興味深い示唆を与えてくれます。
なぜなら、この御茶湯御政道という政策の背景に、信長が堺の名物茶道具を買い占めたという背景があるからです。すなわち、信長は、名物茶道具を買い占めることによって、市場価値で茶道具を評価できないようにした上で、恣意的な評価額をつけることによって褒美とされた茶道具にありがたみを持たせたというわけです。
このような場合に、個々の茶道具の適正な評価額はいくらとなるのでしょうか。
市場に出回っていないとなると、かかる資産を占有者が手放しても良いと思われる価額こそが「交換価値」であるといえましょう。そうであるとすれば、その「交換価値」で当該資産を評価しなければならないのでしょうか。
相続税法22条《評価の原則》は「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」として、時価評価を原則としていますが、ここでの「時価」とは、一般的に「客観的な交換価値」をいうと解されており、すなわち「不特定多数の独立当事者間の自由な取引において通常成立すると認められる価額を意味する」と理解されています(東京高裁平成7年12月13日判決(行集46巻12号1143頁)、金子宏『租税法〔第23版〕』714頁(弘文堂2019))。
そうした中で、市場性の無い財産の評価については、例えば画一的に財産評価基本通達による評価を行うべきかなど、租税訴訟に発展することもしばしばです。
御茶湯御政道は、私たちに、財産評価とはいかなるものかを考えさせるものであるといえましょう。
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