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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~ふるさと納税訴訟に見る「税」の意義 税か寄附か~

ふるさと納税制度は、返礼品の充実ぶりも相まって、近年盛んに利用される制度となっています。同制度については、日本人に寄附文化を根付かせるものと評価する向きも多い一方、地方自治体間の返礼品合戦を引き起こしたことについて批判的な声が聞こえてくることもしばしばです。今回は、最高裁の判断が下され多くの注目を集めている泉佐野市ふるさと納税訴訟(最高裁令和2年6月30日第三小法廷判決)に焦点を当ててみたいと思います。

国と泉佐野市の対立

ふるさと納税の近時の成長ぶりには著しいものがあり、平成26年度を境に、その利用件数は右肩上がりとなっています(次表参照)。

出典:総務省 ふるさと納税ポータルサイト

そうした中で、寄附に対して商品券や高額な家電といった返礼品を送ることで多額な寄附を募る自治体が現れ、ふるさと納税を管轄する総務省と意見の対立が生じてきました。

とりわけ返礼品の豪華さで話題になった泉佐野市(大阪府)のキャンペーン「泉佐野史上 最大で最後の大キャンペーン!」などは数百億円規模に上るものであったことからマスコミにも大きく取り上げられ、国との対立が鮮明になりました。

従来の制度においては、返礼品額の上限や内容についての制限が存在しなかったため、商品券等を返礼品とすることも違法なものでは無かったことから巻き起こった騒動といえるでしょう。

国の対応と最高裁判決

そこで、国(総務省)は、平成27年に、返礼品の額につき寄附額の30%までとするなどの縛りを設け、そのルールに反する自治体を同制度の対象から除外するとして(地方法37の2②、314の7②)、返礼品に関して大幅な見直しを加え対応を図ることとしました。

その指定から外された泉佐野市(大阪府)が、その取消しを求めて国を提訴した事案としていわゆる泉佐野市ふるさと納税訴訟最高裁令和2年6月30日第三小法廷判決(裁判所HP)は、泉佐野市側の勝訴となり大きな注目を集めています(なお、総務大臣はかかる最高裁の判断を踏まえ、令和2年7月3日付けで、泉佐野市ほか和歌山県高野町及び佐賀県みやき町をふるさと納税の対象となる団体として指定しています。)。

この訴訟にはいくつかの論点がありますが、今回は、ふるさと納税制度において納税者が各自治体に支払う金員が、果たして「税」なのか、それとも「寄附金」なのかという点を考えてみましょう。ここでは、宮崎裕子裁判長の補足意見を見ておきたいと思います。

「ふるさと納税制度は,『ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し,若しくは応援する気持ちを伝え,又は税の使いみちを自らの意思で決めることを可能とすることを趣旨として創設された制度』であることは本件告示の中でも触れられているとおりであるが,『ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し,若しくは応援する気持ちを伝え』という部分は,この制度に基づいて地方団体が受け取るものは寄附金であることを前提としたものとして理解できるのに対して,『税の使いみちを自らの意思で決めることを可能とすること』という部分は,この制度に基づいて地方団体が受け取るものは実質的には税であることを前提として,一定の限度で税の配分を納税者の意思で決められるようにするというものであるから,前者の趣旨とは前提を異にしていることになる。」
「もし地方団体が受け取るものが税なのであれば,地方団体がその対価やお礼を納税者に渡す(返礼品を提供する)などということは,税の概念に反しており,それを適法とする根拠が法律に定められていない限り,税の執行機関の行為としては違法のそしりを免れないことは明らかであろう。他方で,地方団体が受け取るものは寄附金であるとなれば,地方団体が寄附者に対して返礼品を提供したとしても,返礼品は,提供を受けた個人の収入金額と認識すべきものにはなるが,納税の対価でも納税のお礼でもなく,直ちに違法の問題を生じさせることにはならない。」

税の本質論―非対価性―

宮崎裕子裁判長が「もし地方団体が受け取るものが税なのであれば、地方団体がその対価やお礼を納税者に渡す(返礼品を提供する)などということは、税の概念に反しており」とされる部分の理解は、税の本質論を通説の立場から論じたものといえるでしょう。

もっとも、ここにいう「税」とは何でしょうか?

我が国の租税法において「税」とは何かを定義した条文はなく、しばしば議論がなされるところです(旭川市国民健康保険料事件最高裁平成18年3月1日大法廷判決・民集60巻2号587頁や、ガーンジー島事件東京高裁平成19年10月25日判決・訟月54巻10号2419頁など。酒井克彦「ファルクラム精選租税判例解析:旭川市国民健康保険料事件」も参照。)

そうした中で、「税」とは、①公共サービスの提供に必要な資金調達を目的とするものであって(公益性)、②権力的課徴金の性質を有し(権力性)、③特別の給付に対する反対給付としての性質を有しないもの(非対価性)と通説的に理解されています。

さて、ふるさと納税制度が「税の使いみちを自らの意思で決めることを可能とする」制度である以上、地方団体に支出する金員について「税」の性質を帯びていることを完全に否定することは難しいようにも思われますが、そうであるとすると、税に対して返礼を認めていたことは、非対価性という租税の本質の観点から問題があったのではないかという声が聞こえてくるでしょう。

これに対して、ふるさと納税制度では、これを「税」とは捉えずに、あくまでも「寄附」として理解してきました。寄附金であれば、寄附をしてくれたことに対してのお礼として返礼品を贈る行為には問題がないという整理になりましょう。

返礼品の存在が認められてきた背景や、法改正によって「返礼品の提供を法令上正面から適法なものとして容認」したことは、少なくとも、国は上記金員を「寄附金」として捉えている証左といえそうです。

このように、ふるさと納税制度は、税としての性質を完全には否定できない下地の上に、寄附金であるからこそ認め得る返礼品たる存在を認めていたことに、制度上の不安定さがあったといえるのではないでしょうか。

もっとも、過去の議論をひとまず置いて、法によって返礼品の存在が真正面から認められた今後にのみ焦点を当てれば、納税者が地方団体に支出する金員は「税」ではなく「寄附金」であるとの理解を法律解釈として導き出せることになるのかもしれません。

しかし、そうであるとすると、今度は「ふるさと納税」という呼称とのミスマッチが存在しているようにも思われてなりません。もっとも「ふるさと納税」は法令上の文言ではなくあくまでも通例的な呼称に過ぎませんから、目くじらを立てる程のことではないという意見もあり得ましょう。

税か寄附か

ふるさと納税制度の意義として、日本人に寄附文化を根付かせるものと評価する向きも多いことは初めに述べたとおりですが、これに対して、欧米諸国には寄附文化が根付いている地域も多く、これには宗教観の相違もあると思われます。

さて、この点に関して、古くは、ユダヤ人やキリスト教徒等が宗教組織を支援するため支払う「十分の一の税」が税か寄附かという議論がありました。

『旧約聖書』の「レビ記」や「申命記」では、全ての農作物の10%が神のものであると説かれており、教皇庁はこれを根拠として十分の一税を徴収したと言われています。

これについて納税としての義務を課したものと捉えることもできるように思われますが、フルドリッヒ・ツヴィングリ(Huldrych Zwingli)が宗教改革でこれを否定し、自発的に捧げられる自由献金を主張したように、寄附としての性格を有するものもあったようです。

人類の長い歴史を見ても、「税」と「寄附」の境目の判断は悩ましいですね。


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著者: 酒井克彦

中央大学法科大学院教授/法学博士

中央大学法科大学院教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』、『クローズアップ事業承継税制』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔3訂版〕』、『裁判例からみる税務調査』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ改正相続法の税務』、『キャッチアップ外国人労働者の税務』、『キャッチアップ保険の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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