ヒラメとカレイの見分け方がよく話題になります。どちらの魚も、成長するにつれて片方の目がもう片方の目に寄っていくそうですが、 「ヒラメ」は、目を上に向けたときに顔が左に向くのに対し、 「カレイ」は、目を上に向けたときに顔が右に向く点で異なります。今回は、所得税法においてこの魚に着目する規定に目を向けてみましょう。
「ヒラメ上司」と「イワシ族」
さて、上記でご紹介したとおり、ヒラメにしてもカレイにしても、つまりは、上ばかり向いているのです。
ところで、サラリーマン社会には「ヒラメ上司」と呼ばれる人がいます。上司のご機嫌ばかりとって、部下職員には厳しい中間管理職を指す俗語ですが、サラリーマン社会には、ヒラメ上司のみならず、「イワシ族」もいるのです。
この「イワシ族」とは、常に群がり、自分ひとりでは何もできない烏合の衆にたむろするサラリーマンを指します。
いずれも空気を読んだり、忖度したりしてばかりいて、自らの決定的な判断力を有していないような類の人間ということでしょう。全体の流れや空気に、まるで海藻のように流される流動的なパーソナリティであるといってもよいかもしれません。
まるで、サラリーマン水族館は、竜宮城のようなところです。上ばかりをうかがうヒラメや、流れにその身を委ねるイワシが舞い踊るのですから。
変動所得
さて、所得税法には、流動的な人間に関する規定こそありませんが、「変動所得」という概念があります。
所得税法2条《定義》1項23号を受けた所得税法施行令7条の2《変動所得の範囲》は、変動所得について、次のように規定します。
「漁獲若しくはのりの採取から生ずる所得、はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝若しくは真珠(真珠貝を含む。)の養殖から生ずる所得、原稿若しくは作曲の報酬に係る所得又は著作権の使用料に係る所得とする。」
課税実務において、これらは、①漁獲による所得とは水産動物の捕獲に限られ(所基通2-30)、②自己が捕獲、採取又は養殖した水産動物又はのりに切断、塩蔵等の簡易な加工をほどこして販売することによる所得も、変動所得に含まれることになる(所基通2-31)と整理されています。
我が国の所得税は累進税率を採用しているところ、これらの変動所得は年間における収入が必ずしも安定しているわけではないことから、所得計算において一定の平準化措置を図る必要があるとして設けられているものです。
そこで、所得税法は、このような変動所得についてはいわゆる「5分5乗方式」を採用して、安定性のない変動的な所得についての税額計算上の考慮を行っているのです。
ヒラメとカレイ
もっとも、同じ上ばかりを向いている似たような魚ではあっても、ヒラメ(「ひらめ」)こそはこの変動所得に含まれるものと規定されていますが、カレイはその対象とはされていません。
ヒラメが対象となっているのにも関わらず、カレイが対象となっていないことに対して疑問も惹起され得るところです。もっとも、ヒラメの養殖が盛んなことに比べ、カレイは養殖に不向きのため、そもそも養殖がほとんどないといった理由もあるかとは思われます。
仮にこのような点が租税訴訟の争点となったとすれば、カレイについても、目的論的解釈によってヒラメと同様、変動所得の計算の対象とすることができるのでしょうか。
文理解釈のみを強調すれば、変動所得による計算ルールを所得税法施行令7条の2に規定されていないカレイに当てはめることはできないように思われますが、法律の趣旨の見地から見れば、必ずしもヒラメとカレイを別異に解釈する必要はないようにも思われます。
もっとも、ヒラメ上司のように常に上の機嫌ばかりに関心を持つ「ヒラメ裁判官」が判断するとなれば、拡張解釈による柔軟な法解釈が展開されることは期待できそうにありませんね。
——————————————————————————————
◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
https://go.career-adv.jp/l/
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします
——————————————————————————————