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改めて監査法人の責任が問われる事態へ?独ワイヤーカード破綻

ドイツ・オンライン決済サービスのワイヤーカード(Wirecard)が6月25日、経営破綻しました。破綻前から不正会計疑惑で取りざたされており、起こるべくして起こった破綻だといえます。同社がソフトバンクグループとパートナーシップで合意していたことからも注目度の高い今回の不正事件。架空の銀行口座資金を計上していたというだけに、監査法人が見抜くことができなかったのかどうか議論を呼んでいます。

19億ユーロの架空口座資金

ワイヤーカード社はドイツのフィンテック最大手で、ドイツ株価指数(DAX)主要30銘柄に選ばれた大企業です。DAX主要30銘柄とは、日経平均225社と同様に株価の指標のため選ばれている銘柄を指します。

ドイツは米中に比べスタートアップ企業に乏しく、その中で、ワイヤーカードはフィンテック企業として急成長を果たし、国を挙げて非常に期待された存在でした。そのワイヤーカードが潰れたことはドイツ経済に対し大きな衝撃を与えています。

そもそも不正が発覚したのは、同社の東南アジアの銀行口座にあるとされた19億ユーロの資金が架空であると明るみに出たことが発端。同社の監査法人のアーンスト・アンド・ヤング(EY)が2019年の財務報告書への承認を拒んだことで同社が現金の所在不明を認め、CEOの辞任・逮捕、破産申告へとつながりました。

しかしその前から疑惑の目は向けられており、英紙フィナンシャル・タイムズは2019年1月には、ワイヤーカードの社内プレゼンテーションで、「不正が疑われる資金の流れがあったことが示された」と報道。本報道を受け株価が急落しました(ブルームバーグ2019/1/31)。

銀行口座資金が実在かどうかの残高証明は、監査法人による監査の対象です。フィナンシャル・タイムズの同社に関する報道が2019年1月から行われてきたことを考えると、1年半に渡り監査の目を逃れてきたことはドイツ当局および監査法人の怠慢ではないのかと市場から疑問視されており、「ドイツの個人投資家団体SdKは26日、EYの新旧の担当者3人を刑事告発したと明らかにした」(日経新聞2020/6/27)との報道もあります。EY側は「最大限の強固な監査手続きでもこの種の不正は見つけられないだろう」としているといいます。

イギリスで加速するBIG4解体議論

監査法人が不正に加担したことが露見し、担当した監査法人自体の解散へと至ったエンロン事件以来、コンサルタントファームと監査法人が同じグループ内にいることの不合理へ厳しい目が向けられてきました。巨額のコンサル料を貰っている企業の監査を同じグループ内の監査法人が行うことで、手心が加えられないはずはないという観点からです。

イギリスではかねてより、監査法人グループのBIG4(デロイト・トウシュ・トーマツ、EY、KPMG、プライスウォーターハウスクーパース(PwC))による市場寡占と利益相反に対して懸念が示されており、コンサルタント業務との完全分離を訴える動きがありました。

報道によれば、昨年4月にはイギリス競争・市場庁がイギリス監査業界の改革に関する最終報告書を公表(日経新聞2019/4/18)。今年の2月27日にはBIG4の事業分離計画が発表され(日経新聞2020/2/28)、さらに先日7月6日には指針を公表しました(日経新聞2020/7/7)。指針の内容は、「監査部門を財務や報酬の面で、グループ内で独立運営させるのが柱だ。収益性が高いとされる経営や税務コンサルなど他部門に支えられる構造を改め、利益相反を防ぐ」というものです。着々と規制の手は強まっています。

今回のドイツ・フィンテック大手の破綻はこの議論に一層の拍車をかけることは間違いないでしょう。

影響は日本にも及ぶ?

翻って本邦では、オリンパスや東芝のような巨大粉飾決算事案が取りざたされるたびに監査法人の責任に対しての議論が巻き起こり、オリンパス・東芝の監査を担当していたEY新日本監査法人には実際に行政処分が下されました。しかし、イギリスのような完全分離を推進する動きは出ていません。

しかし、エンロン事件の際に監査を担当していたアーサー・アンダーセンが潰れたことで、海外提携先を失った朝日監査法人が現新日本監査法人の一部と共にあずさ監査法人を立ち上げたように、余波は日本にもおよび得ます。イギリスの議論が加熱すると、日本の監査法人も影響を受けることは免れないでしょう。

さらに新型コロナウイルスの影響により在宅監査が余儀なくされる昨今、監査精度を保つことには一定の困難が見込まれます。日本公認会計士協会の手塚正彦会長は、4月21日の都内で開かれた記者会見で、在宅勤務の広がりにより「感覚として監査業務の効率が2割程度落ちている」(日経新聞電子版2020/4/21)と発言しました。

今回のワイヤーカードの件では、銀行口座の残高確認という一見初歩に見える部分がなぜ見過ごされたのかについては続報が待たれるところですが、企業の不正に対する監査法人の責任問題がより一層浮き彫りになったといえそうです。


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著者: ハイタアジサイ

税務ライター

早稲田大学第一文学部卒。税務専門紙記者や会計事務所での広報などに就業しつつ、仕事の傍ら千葉商科大学会計大学院進学。公認会計士短答式試験に合格するも、パートナーの海外赴任により論文試験は一年で放棄、渡独。ドイツ生活を5年間堪能後帰国。2児の母。

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