最高裁平成7年7月5日大法廷決定(民集49巻7号1789頁)は、民法上、父親が死亡した際の嫡出子と非嫡出子の相続分に差があることについては合憲としていましたが、最高裁平成25年9月4日大法廷判決(民集67巻6号1320頁)は、当該規定について法の下の平等を定めた憲法14条1項に遅くとも平成13年7月の時点では反するに至っていたとして、違憲判断を下しました。これは、いわゆる妾の子に関する法律問題です。今回はこの「妾」に着目してみます。
妻と妾

明治3年の「新律綱領」(布告第944)では妻と妾を同等の二等親と定めていたため、「妾」の存在が公認されていたともいえそうです。
もっとも、その10年後の明治13年には、刑法(太政官第36号布告)で「妾」に関する条項が消えています。
その後、これを受けて、明治15年7月8日、内務省は「刑法ノ改定ハ戸籍上ニ関係無之」という指令を発し、刑法施行前に入籍した妾は「総テ従前ノ通取扱」とされたため、従前の取扱いすなわち、妾は当面公認されることとなったのです(村上一博「明治前期における妾と裁判」法律論叢〔明治大学〕71号3頁(1998))。
戸籍法において「妾」の文字が消えるのは、明治31年になってのことです。
このような関係はいわば内縁関係といわれることがありますが、重婚が禁止されていることからすれば、内縁と呼ぶことも必ずしも適当ではないと思われます。
「二号さん」
さて、所得税法上の寡婦控除にいわゆる未婚のシングルマザーが入っていないという点が長らく議論されてきたことをご存じの方も多いと思われますが、ついに令和2年度税制改正において改正がなされました(令和2年3月27日成立)。すなわち、この度の改正において、所得税法2条《定義》1項31号に新たに「ひとり親」が定義され、同法81条により「ひとり親控除」が創設されることとなりました。ひとり親控除では、35万円の所得控除がなされます。
このような議論の中で、非公式にではありますが、「お妾さん」がいる場合はどうするのかという問題提起がなされることがあります。このことを考えると、現在でも所得税法上の議論においては、この「妾」議論が浮上するのです。
いわゆる妾と呼ばれる(男性の場合は「男妾」とも呼ばれます。)ことのある当該パートナーについては、「二号さん」と呼ぶことがあります。
これは、おそらく、正妻が「一号」であって、その次のパートナーという意味で「二号」という表現が用いられているのではないかと推測されます。その次が「三号」というようにです。
しかしよく考えてみると、あまり「一号さん」という表現は使わないように思われます。
おそらく、正妻を「一号」などと呼ぶ必要はなく、当たり前の存在だからなのでしょうか。
第1項と第2項
法律に目を転じてみると、法令には原則として、各条の中の第2項以下の各項の頭に、その順番に応じて、「2」、「3」、「4」…というように、算用数字が振られています。
例えば、寡婦控除を定める改正後所得税法80条《寡婦控除》を見てみましょう。なお、令和2年度税制改正を受けて、従来の所得税法81条《寡婦(寡夫)控除》は改正され、所得税法80条《寡婦控除》とされました(婚姻歴の有無や性別に関わらず、要件を充足する場合には「ひとり親控除」が適用されることから、「寡夫」については寡婦控除の対象から除かれています。)。
第八十条 居住者が寡婦である場合には、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から二十七万円を控除する。
2 前項の規定による控除は、寡婦控除という。
これは、「項番号」と呼ばれるものですが、法令をみると、なぜか、第1項だけは「1」という算用数字が項の頭に振られていません。
転じて第2項には「2」という番号が付されているのです。
第1項は当たり前の存在であって、第2項以下についてのみ区別をすれば事足りるとの考え方から、「1」という算用数字だけが省略されているのでしょうか。まるで、「二号さん」と同じ考え方であるように…。
なぜ、この項番号は、第2項以下にだけ振られていて、第1項には「1」を付けないのでしょうか。
これについては、項というものは単なる法技術的な工夫であって、その実質は、1つの規定の中の文章の「区切り」に過ぎないため、すなわち、項番号は、分かればよいのであって、第2項以下さえ示しておけば第1項については何も区切りを設ける必要に乏しいと説明されることがあります(林修三『法令用語の常識〔第3版〕』153頁(日本評論社1975))。
つまり、ある規定をただ区切るだけということは、第1項も第2項も本来一つの規定ということですから、本妻とは別の存在である妾の「二号さん」とは異なる意味なのでしょう。
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