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酒井克彦の「税金」についての公開雑談 無戸籍と課税~佐渡金山の無宿人の納税義務~

離婚した夫婦の子が出生届を出されずに「無戸籍者」になる問題については、近時の国会でも取り上げられ、法務省もその対応を検討してきました。この点、法制審議会(民法(親子法制)部会)は、民法の嫡出推定規定(民法772②)による、いわゆる「離婚後300日問題」がその一因であるとして、その見直しを議論してきました。本年(令和3年)2月9日、同部会は、民法の嫡出推定規定に例外を設けるなどの法改正の中間試案をとりまとめ、明治時代から続く嫡出推定規定の見直しの具体化が進展するものと思われます。今回は、こうした無戸籍問題と納税を考えてみましょう。

佐渡金山の水替人足

現在の我が国の戸籍は明治期に整備された戸籍をルーツにしているものですが、戸籍そのものの歴史は古く、645年の大化の改新にまで遡ります。その後、時の為政者によって様々なタイプの人民管理簿が設けられてきたわけですが、無戸籍者に関する悲しい歴史の一つに「佐渡金山の水替人足」の話を挙げることができましょう。

佐渡金山では、産出量が減り始めた江戸中期頃より、富鉱帯を求めて急速に坑内が深くなっていくと、水上輪(アルキメデスポンプ)の使用もままならなくなったことから、手操(てぐり)での水替えによる人海戦術が見直されるようになりました。


* 水上輪(アルキメデスポンプ)とは、ヨーロッパで開発された、岩盤から染み出る地下水を排出する装置で、佐渡金山でも排水に威力を発揮したものですが(佐渡市HP〔https://www.city.sado.niigata.jp/site/mine/4525.html〕参照)、坑内が地下深くなると使用できず、「手繰り」といって、手作業で桶に水を汲み、順々に汲み上げて坑外へ捨てる方法を取っていたといいます。この作業に従事する労働者を「水替人足」と呼びますが、海抜下にまで進んだ坑道からは無限に湧水が出てくるため、佐渡金山の水替人足は非常に過酷な重労働を強いられていたことで有名です。


さて、水替人足の労働時間は、隔日交替の一昼夜勤務と厳しいものでしたが、賃金は300文と高いレベルであったといわれています。しかしながら、過酷な重労働であることから、水替人足は不足し、採鉱に支障が出てきたため、江戸幕府は近隣の農村に人足割当てを行う一方、安い賃金で大量の人手を確保する方針を打ち出しました。

かかる施策により、安永7年(1778年)から、幕末までの100年間に、主に江戸や大阪などの都市から1874人の「無宿人」が佐渡に送られたそうです。

無宿人とは、故郷を捨てて江戸や大阪や長崎などの都市に集まり、戸籍から外された人たちのことをいいますが、幕府は、これを都市部の治安悪化の一因と考え、防犯対策や懲罰的意味合いを含め、彼らを捕らえて佐渡に送ったというわけです。幕府は無宿人を犯罪予備軍と捉えていたものと思われますが、その大部分は決して罪人ではなかったといわれています。

佐渡金山のパンフレットによると、苛酷な環境下での生活を強いられる中、10年の水替え作業を勤め上げれば、普通の生活に戻ることが認めらていたそうですが、劣悪な環境のもとで酷使された彼らの寿命はとても短かったといわれています(新潟県HP(佐渡地域振興局 企画振興部)〔https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/sado_kikaku/mai-report05.html〕も参照)。もっとも、中には生き延びた者もいたようです(株式会社TEM研究所編著『佐渡金山』10頁(ゴールデン佐渡2001))。

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