上野動物公園のパンダに子供が生まれました。ただでさえパンダの雌が妊娠できる状態にあるのは1年間にわずか2日しかないという難しいタイミングの中、双子ということもあって大変注目を集める明るいニュースです。さて、今日、「パンダ」と言えば白黒模様でお馴染みの「ジャイアントパンダ」を指しますが、かつて「パンダ」とは「レッサーパンダ」のことを意味していたことをご存知の方も多いでしょう。今回はこうした自然科学上の概念と租税法の交差点を考えます。

「パンダ」は何科か?
レッサーパンダがヨーロッパで正式に発表された1825年以降、ジャイアントパンダが見つかる1869年までは、レッサーパンダが唯一の「パンダ」でした。1869年にジャイアントパンダが見つかった際、頭骨の形や歯の本数、足の形状や生態からレッサーパンダと同じ仲間と思われたため、「ジャイアントパンダ」と名付けられました。今となっては「パンダ」=「ジャイアントパンダ」ですが、「ジャイアントパンダ」に比較して小さいという意味合いで「レッサーパンダ」と呼ばれるようになったというわけです。
このように動物の分類を巡っては、生物学上さまざまな方法により定義がなされているわけですが、ジャイアントパンダが何科なのかについては議論があったようです。例えば、上野動物園の公式サイトでは次のように説明されています。
食肉目クマ科に分類されています。これまで、ジャイアントパンダを何の仲間に分類するかについて、さまざまな議論がされてきました。歯、骨、内臓などを調べると共通の特徴が食肉目のアライグマ科にもクマ科にもみられますが、どちらも決定的に一致するものではなく、ジャイアントパンダ科として独立させるべきだ、という意見もありました。その後、DNAの検査結果などから、現在はクマのなかまであるとされています。
他方、レッサーパンダも、時代や方法によってアライグマ科、クマ科、レッサーパンダ科と様々な説があり現在も確定していないようですが、 (財)日本動物園水族館協会の分類では現在はレッサーパンダ科となっているということです(鯖江市西山動物園公式HPより)。
バリケン事件
筆者は動物学者ではないので詳しい議論はこの辺りにしたいと思いますが、自然科学分野における分類が租税法解釈に影響を及ぼすこともあり、かような場面では、自然科学領域での議論を避けて通ることもできず大変悩ましい問題に直面します。以下では、「バリケン事件」と「スコッチライト事件」という、関税定率法別表関税率表を巡る有名な事件を見てみましょう。
「バリケン」と呼ばれる鳥が、関税定率法における別表関税率表にいう「あひる」に含まれるか否かが争われた事件として、神戸地裁平成6年9月28日判決(訟月42巻7号1615頁)があります(同事件については、酒井克彦「
原告納税者は、「バリケン」がノバリケンを原種とするガンカモ科の鳥であり、他方、「あひる」は、マガモを原種とするガンカモ科の鳥であり、両者は鳥類学的には別種のものであることから、関税定率法の適用上も、「バリケン」を「あひる」に含めるべきではないと主張したのですが、神戸地裁は、「確かに、鳥類学上の分類ではバリケンとあひるは別種であるが、そのことから直ちに関税定率法及びその別表の適用において、異なる取り扱いをしなければならないものではない。」として、納税者の主張を排斥しました。
神戸地裁は、関税法上明文の規定がない「あひる」の意義は、関税率表の制定趣旨に照らした合理的解釈に基づいて判断されるべきとし、「関税法が、海外からの輸入品と競合する国内産業の保護を目的として輸入品に関税を課しており、これは、本件では、国内の家禽飼育業者の保護を目的とする課税であることを考えると、『あひる』の範囲についても、家禽業者の保護という右立法趣旨を踏まえて解釈されねばならない。」とした上で、自然科学分野における分類を離れたところでの判断を展開しているように見受けられます。