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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~桐のタンス~

かつて、物品税法の下では、婚礼家具など高級収納家具を奢侈品と認定しており、製造工場からの蔵出し価格に20%の物品税を課していた時代がありました。家具物品税は、製造工場蔵出し価格について、昭和22年から25年まで30%、26年に20%の物品税が継続していました。さて、こうした婚礼家具の代表的なものに桐タンスがありますが、今回はかかる物品を巡る課税関係を考えます。

桐タンスの税制措置

新潟県加茂の桐タンス産地製造業者は、田中角栄が内閣総理大臣になった時、桐タンスに20%もの課税をすることに対して不公平だとして交渉に及んだといいます。すなわち、家具業界は20人以下の中小零細企業群であり、担税力が弱く、品質の高級化を阻害し、日常生活必需品の供給が困難で、工芸品の製造を継続できなくなるとして業界団体として訴えた結果、税制措置が設けられたともいわれています(以下も含めて山本工業株式会社HP参照)。

戦前の箱物家具は桐タンスがその主たる物産でしたが、戦後の日本経済が成長過程に入ると結婚ブームを背景に、婚礼家具など消費者ニーズが多様化し、個性化が目立ってきたといいます。すなわち、家具の表面に対し、紫檀、チーク、桜、楢、ケヤキ、花梨など、多様な顧客の要望に応じていかなければならない消費構造になっていたのです。

そのため、多様な表面材を使用して内装に桐材の質的良さを生かし、桐製家具としての内容を充実した家具が求められているのが一般的家具市場であったわけですが、そのような折に、中小企業近代化計画として、「桐製家具」に対する税制措置が設けられたといいます。

桐の使用割合と税務当局の調査

ここでは、詳細は割愛しますが、当時の自民党税調は、税制改正大綱を審議している中において、桐の使用割合等を基準とし、一定の桐製タンスについて非課税とする方向を示しました。

もっとも、ここでは条件がついており、税務当局の発遣する通達に基づき、工場蔵出し価格がタンス一本につき5万円を超える場合で、桐材積が所定の基準値の条件に満たない場合には、出荷価格の20%の物品税が課税されることになっていたといいます。

そうした中で、家具製造メーカーの一部が、基準に満たない製品を、基準を満たした製品として売り出し、20%の物品税を逃れたとして、税務当局がそれらを摘発したそうです。

すなわち、基準値以上の桐材を使用しているという生産者の原価計算が疑わしい場合、税務署はレントゲン透視撮影により可否判断を行ったといいます。

もっとも、このような物品税問題は消費税制度の導入により解消されたといえましょう。

母から引き継ぐ桐タンス

他方で、所得税法上の取扱いはどうでしょうか。

桐のタンスは家具ですから、一般的には、「生活に通常必要な動産」(所法9①九)に該当することになるでしょう。

さて、ここで、娘の結婚に当たって、母親から娘へと高品質の桐タンスが引き継がれた(贈与がなされた)場合の課税関係を考えてみましょう。なお、かかる桐タンスの価値が取得後に上昇している場合を考えます。

まず、かかる桐タンスについては所得税法60条《贈与等により取得した資産の取得費等》により取得原価が引き継がれることになるため、その贈与時に母親に対して譲渡所得(桐タンスの保有期間中の値上がり益)が課税されることはありません。

贈与を受けた娘も、「個人からの贈与」になるため所得税は非課税とされます(所法9①一六。ただし、桐タンスが110万円(贈与税の基礎控除額)を超えるような超高級品であれば、娘には贈与税が発生します。)。

さて、仮に、かかる桐タンスを引き継いだ娘が、後に第三者にこれを譲渡したときには、母親が取得した際の取得原価が娘に引き継がれることになりますから、その時点で譲渡所得が計算されるように思われますが(所法60)、いずれにしても、桐タンスは「生活に通常必要な動産」であるため、娘から第三者への譲渡による所得は非課税とされることになるでしょう。

しかしながら、東京高裁平成25年11月21日判決(税資263号順号12339)は、所得税法60条が譲渡所得の金額の計算についての簿価の引継ぎを規定しているのであるから、非課税規定か否かの問題はその譲渡所得の計算規定がある限り無視されるとしています。

「譲渡所得の金額の計算規定があるから、非課税とされるべきものが非課税にならない」という理屈がどうして通用するのかは判然としませんが、同判決はそのような立場に立って判示しているのです。

その理屈からすれば、桐タンスが「生活に通常必要な動産」に該当してその譲渡による所得が非課税とされるものであるとしても、母親から譲り受けた資産の取得原価を引き継ぐという規定がある限り、本来非課税に該当するものであっても、かかる桐タンスの譲渡には譲渡所得が課税されるということになるわけです。

疑問が残る判決であるといわざるを得ません。


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著者: 酒井克彦

中央大学法科大学院教授/法学博士

中央大学法科大学院教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』、『クローズアップ事業承継税制』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔3訂版〕』、『裁判例からみる税務調査』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ改正相続法の税務』、『キャッチアップ外国人労働者の税務』、『キャッチアップ保険の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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