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【“旅する女性タックスアドバイザー” 世界の税金問題】第7回/フランス人には理解できない源泉徴収制度

人気連載第7弾! 東京、ニューヨーク、香港と渡り歩いた”旅するタックスアドバイザー”マリアが、実際に直面した税金に悩めるクライアントとのエピソードをご紹介。今回は、フランス人が日本に来て初めて知る、源泉徴収制度についてのお話です。

フランスにはない源泉徴収制度

こんにちは、旅するタックスアドバイザーのマリアです。皆さん、所得税の源泉徴収制度は、主要国ならどこにでもあると思っていましたか? なんとフランスにはありません。今回は、日本の源泉徴収制度に驚いた、フランス人クライアントのお話をしたいと思います。

どこをきりとっても絵になるパリの街並み

Photo by Pexels

源泉徴収とは、
個人に対して給与等を支払う会社等が、その支払いの際にあらかじめ所得税を差し引いて、個人に代わって納税をする
というものです。

会社勤めのサラリーマンであれば、毎月の給与から所得税が差し引かれているのが見て取れると思います。それは会社が個人に代わって、毎月税務署に納税をしてくれているからです。

また、現在の日本のシステムでは、
年間の給与等の総額が2千万円以下の方であって、かつ一定の要件を満たす場合には、確定申告書を提出する必要がない
と、定められています。

さて、今回のクライアントは、フランスのコンサルティング会社から、日本支社へ転籍をしてきた女性。

日本に住む彼と結婚をするために、自ら希望して日本にやってきたのです。
この事情から駐在ではなく、あくまで日本支社の社員になるという立て付けでやってきました。

日本での税金も社会保険もすべて、彼女はこれから負担していきます。
その覚悟で日本にやってきたのです、素敵な話ですね。

パリのシンボル、エッフェル塔

Photo by StockSnap

彼女のように日本へ来た個人へ、日本の税制を紹介するのが、私たち個人税部門の仕事。

「日本は1~12月が課税年です。この一年間を単位として、期間中の所得に対して所得税や住民税の計算をします。確定申告は翌年3月15日までです。もし申告が必要となる場合には、私たちがサポートします!」

日本へ着いて数日後の彼女に私たちのオフィスに来てもらい、上記のような説明をしました。
淡々とした説明です。決しておもしろい話ではありません……。

しかし彼女は、私たちが次に発したこの言葉に反応をしたのです。

「日本にはTax Withholding(源泉徴収)という制度があります。毎月給料から、所得税が計算されて徴収されるのです」

「え、それじゃあ、毎月もらう給与はアフタータックスってこと?」

彼女の質問は続きます。

「一年の給与は年が終わらないとわからないのに、どうやって税金の計算をするの?」
「引かれすぎてしまったら、どうすればいいの?」
「年に一度、タックスリターン(確定申告)で払いたいんだけど、それは選べるの?」
「税率は? 給料をこれくらいもらうはずなんだけど、手取りはどれくらいになるの?」

彼女は、強制的に税金が引かれていくというコンセプトがなかなか消化できていませんでした。
少なくとも最初は、確定申告をする選択肢と並ぶひとつのオプションとして、源泉徴収制度があると思っていたようです。
さらに彼女の場合、年収は2千万円を超えることが見込まれていたため、確定申告もしなければなりません。

「フランスにはない制度だから、質問が多くてごめんなさいね」

源泉徴収制度のルーツ

ナポレオンが建造させた凱旋門

Photo by NakNakNak

源泉徴収、そもそもの起源はナポレオン戦争の時代にさかのぼります。
戦費を調達しようとしたイギリスが税の徴収を素早く行うために、富裕層に対して導入したというものです。

この目的は大いに成功し、ナチスドイツの統治下で制度として完成したといわれています。
日本においても源泉徴収制度の導入は1940年、まさしく戦費の確保を目的として行われたものでした。

そんな源泉徴収制度、今では世界のほぼすべての国で導入されています。
ほぼすべての国で導入されているのですが、主要国においてもなお導入していない国があります。

それは、シンガポール、香港、そしてフランス。

シンガポールと香港においては「低税率国である上に、小さな政府を目指しているから」という明確な理由があります。
源泉徴収事務には、実は多大なコストがかかります。税務行政を国としてきちんと回すためには、大きな政府へ矢印を向けていかなければいけません。

そしてフランスは、税率が低いわけでも、小さな政府でもないのに、EU諸国の中で唯一、源泉徴収がない国です。
源泉徴収制度のきっかけがナポレオン戦争だったというのに、彼の祖国であるフランスにおいて、この制度がないというのは、とても皮肉めいていますね。

税金を一年に一度、一括で支払うのではなく、毎月給与から天引きしていくことによる利点はいくつかあります。

国側から見ると、これは安定的な税収を確保できるということ。歳入の予測もつきやすくなります。

個人側から見ても、多額な納税額を一括納入する必要がないという、キャッシュフローベネフィットが大いにあります。
加えて一定の条件を満たす会社勤めの方であれば、確定申告をすることなく税金が清算される(年末調整)という、とても便利な制度でもあります。

その一方で、必ずしもいいとは言い切れない点もいくつかあります。

税金が天引きされてしまうことは、国民の「主体的な納税」という意思を阻害してしまうのではないかという意見が、まずあります。

確かに年末調整だけで税金の清算をしていると、確定申告のように自分の1年の所得や控除を振り返るきっかけがあまりなく、税制改正等に興味をもたなくなってしまうかもしれません。

さらに源泉徴収を毎月されてしまうと節税がしづらくなり、個人事業主やフリーランス等、天引きではなく確定申告で税金を清算する人のほうが節税がしやすくなっているともいえます。

もちろん、会社勤めの方であっても任意的に確定申告を行い、節税のために控除の申告をすることは可能です。しかし、どれだけ積極的に自分の納税申告に興味をもつのかは、源泉徴収大国である日本だと、なかなか難しいところがあります。

そんなフランスでも・・・

夕暮れどきのパリ

Photo by skeeze

そんな源泉徴収制度ですが、なんとフランスにおいて、2019年1月から開始されることがわかっています。
実は依然から制度導入が検討されていましたが、先延ばしに先延ばし、ついに再来年からの開始となることが明らかになったのです。

これまで一年に一度、税金を納めていたのが、毎月ちょこちょこと税天引きされるようになる。
あなたは、どちらのキャッシュフローがお好きですか?

今回のケースの結論:「源泉徴収、要は先に払うか後に払うかの違い。ただし節税しづらくなるかも?」

著者: ワタナベマリア

旅するタックスアドバイザー

慶應義塾大学法学部卒業。香港在住の税金アドバイザー。過去に東京とニューヨークで国際税務の仕事を行う。世界中を旅する会社人に各国の税制のアドバイスを行う中で、制度比較から見えてくる税金のおもしろさを広めようと執筆を始める。好きな税目は消費税。

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