近年、法人や個人事業者に加えサラリーマンなどの副業としてメジャーなものとなったネット通販、ネット広告、ネットオークションといったインターネット取引。国税当局では、サイバー税務署の設置などにより、無申告者や故意に申告漏れをしている者へ目を光らせている。2017年6月までの1年間で、なんと1件あたり1千万円超の申告漏れを把握している。

ネット取引の現状

インターネット取引は、「店舗を持つ必要がないことからその分経費がかからず利益率も高い」「サラリーマンや主婦等でも気軽に始められ、参加できる」、「ネットゲームなどのアイテムなどもネットオークションで売買できる」などの利点があり、その取引形態や取引件数は日々進化・活発化している。さらにスマートフォンやタブレット端末の普及などの追い風も加わり、最近では手軽に個人間でネット取引を行うことができるようになった。野村総合研究所によると、国内の電子商取引(EC)市場規模は平成25年度に10兆2千億円だった市場規模は、平成30年度には20兆円を超えると予想している。

一方、インターネット取引に関しては、1)電子商取引には国境などが存在しないことから、事業者の海外進出が促進されるなど、ネットワークを通じて取引が広域化、国際化、2)取引の匿名性が高い、3)データの消去が容易であるほか、電子的な取引情報等は把握・確認が困難といったことなどから、その実態を把握しにくいといった背景がある。

国税当局は「サイバー税務署」を設置し対応

インターネットの普及が進むにつれて、その特性から税務申告の世界でも、単純ミスや勘違いばかりではなく、故意に申告を除外または過少に行う傾向が強まるとともに、ネット取引だから「税務署にはバレナイ」と、何の根拠もない考えから無申告を決め込む者も増えた。

国税当局では、このような状況は適正・公平な課税を著しく乱すとして体制の整備に着手した。具体的には、平成11年ごろまでは国税局・税務署へ設置されている「情報技術専門官」を中心に調査・処理を行うほか、セクションごとの取引の解明及び処理を行っていた。

しかし、事案の増加に伴い効率的な対処が必要不可欠として、電子商取引を先端に横断的なチームの設置が検討され、平成12年2月17日に東京国税局に初めて電子商取引を行っている事業者及び電子商取引関連業者に対する税務調査・情報収集を専門的に行う「電子商取引専門調査チーム(PROTECT:Professional Team for E-Commerce Taxation)」(通称・サイバー税務署)が新設され、翌年1月には全国の国税局・国税事務所に配備が完了した。同チームのメンバーは、電子商取引が個人・法人を問わないため、局内からは課税部の所得・法人・資料調査の各課や調査部を中心に査察部や税務署などからもエキスパートを招集。ネット取引に関する情報収集及び調査を展開している。なお、監視は24時間体制で行われている。

調査対象は当初、電子商取引業者、プロバイダー、電子商取引関連事業者、バーチャル・カンパニー等の電子商取引関連事業者が中心だったが、その後はインターネットを定期的に検索・記録した取引情報やプロバイダーを通じて収集した取引当事者に関する情報を、国税当局が持つ申告情報と照合して的確に対象を選定している。また、ネットオークションの場合、例えば、ヤフーオークションならヤフーに、楽天オークションなら楽天といったオークション主催社に落札金額の数パーセントを「システム利用手数料」を支払うことになることから、この手数料の支払状況を確認して対象者を把握する。さらに、疑わしい出品者がいる場合は、実際に商品を購入して取引相手やお金の振込先などの一連の流れをつきとめる“おとり方式”や、「『ネットオークションで儲けている』というタレコミやネットオークションに頻繁に出品している者のブログ等のチェックも有力な端緒となる」(国税OB)なども行い実態解明を図っている。

ネット取引を6区分で管理

国税当局では、インターネット取引を①ネット通販、②コンテンツ配信、③ネットオークション、④ネット広告、⑤ネットトレード、⑥その他のネット取引の6つに区分している。具体的には、ネット通販は、事業主が商品を販売するためのホームページを開設し、消費者から直接受注する販売方法(オンラインショッピング)による取引で、コンテンツ配信は、インターネットを利用して行われる電子化された音楽、静止画、動画、書籍、情報等のダウンロード取引又は配信提供に係る取引、ネットオークションは、インターネットを利用して行われるオークション取引。そして、ネット広告は、ホームページ、電子メール、検索エンジンの検索結果画面等を利用して行われる広告関連取引、ネットトレードは、インターネットを利用して行われる株、商品先物又は外国為替等の取引が該当し、その他のネット取引には、ホームページ上に企業サイトを貼り、リンクからの経由による商品購入者数などに応じて企業から報酬を受けるアフィリエイトや出会い系サイトの運営など、1から5に該当しない取引が含まれている。

6区分の取引の1件あたりの申告漏れ所得金額を直近5年間(別表1)でみると、やはり取引額が多額となる場合が多い「ネットトレード」が高く、個人事業主も多く含まれている「ネット通販」は規模的には小さいことが伺える。

28事務年度は234億円の申告漏れ所得を把握

インターネット取引を行う個人に対する調査は年間2千件前後実施されており、直近の平成28事務年度(28年7月~29年6月)の事績をみると、1956件の調査を行い234億円の申告漏れを把握し43億円を追徴している。1件あたりで見ると、申告漏れ所得金額は1197万円でその追徴税額は加算税を含めて221万円。所得税調査全体の平均申告漏れ所得金額(918万円)と比べても1.3倍、追徴税額では1.4倍に達している。

また、調査件数を取引区分別でみると、「ネット通販」が32.1%と約3分の1を占め、以下、「ネットオークション」21.1%、「ネットトレード」17.7%、「その他のネット取引」14.7%、「ネット広告」12.6%となっている。

事例から見るネット取引の実態

国税当局が明らかにしている不正事例を見ると、その時代のインターネット取引の状況が浮かび上がってくる。例えば15年くらい前では、ホームページで商品の販売を行い郵便局の口座へ代金を振り込ませ、その売上を除外していたベビー用品専門店や休業を装いインターネット上で通信販売を行っていた化学肥料会社のケースが把握されるなど、あくまでも事業の一環としてインターネット取引を行いながら、その分を申告除外していたケースなど個人事業者が多く把握されていた。その後は、インターネット上にメールサイトを開設して会員制の広告メールの送信を行っていながら、運営上の責任者及び広告料受領口座などの名義を配偶者にして形式上、経営者を配偶者とし多額の所得を得ていたにも関わらず無申告だった者や、ホームページ上に企業サイトを張ってリンクからの経由による商品購入者数等に応じて報酬を受けるシステム(アフィリエイト)や「キャッシュバック付ネット販売」に係る所得を申告していないケースなどが多くなり、現在ではネットオークションによる所得の申告漏れも増えている。
そして、直近の28事務年度も以下のような悪質事案を把握している。

事例1<知人の認証ID、母親名義の銀行口座でネットオークションに出品>
インターネット取引を行う際に知人の認証IDを借りて骨董品をネットオークションに出品するとともに、落札され振り込まれる決済口座についても母親名義の銀行口座を利用。6年間で約6100万円を申告していなかった。この為、所得税分として重加算税を含め約1600万円を、また消費税3年分として加算税を含め約300万円が追徴されている。

事例2<ネットゲーム上のアイテム販売で6千万円超を無申告>
金沢国税局管内のサラリーマンのケースでは、インターネットゲーム上で取得したアイテムをネットオークションに出品し5年間で得た約6200万円所得を全く申告せずにいたことが調査により明らかになり、重加算税を含めて所得税約1700万円、消費税4年分として約300万円を追徴している。

早いもので平成29年もあと少し。年が明ければ29年分所得税確定申告があっという間に始まる。国税当局では近年、「海外取引事案」、「無申告事案」とともに「インターネット取引事案」を所得税調査の重点項目として取り上げて事務量を投下し不正の把握に努めている。調査が入れば数年間は遡って調査が行われ追徴されるので、決して金額は低くない。くれぐれも課税対象となる者は、甘い考えは捨ててしっかり申告・納税を行う必要がある。