さきごろ公表された平成30年度相続税調査の事績を見ていくと、課税当局は相続税調査においても「簡易な接触」を増やし、調査件数を増やしていることが分かった。相続税の基礎控除引下げ後、1億円以下の相続税事案への調査も積極的に行っているほか、無申告事案のチェックを強化している。

1万件を超える簡易な接触

平成27年の相続税改正により、基礎控除が従来の6割に引下げられたことから、税務署では納税者に対して「簡易な接触」を増やし、誤った申告などへの注意を呼び掛けている。

基礎控除の見直しの影響は、相続税の申告件数に顕著に表れ、平成27年分では前年より約5万8千件多い8万8057件に増加したが、それから3年後の30年分では約1万2千件増え、10万881件になっている。30年分の相続税の課税割合は8.5%まで上昇している。

このように相続税申告者の増加に伴う申告件数の大幅増加を踏まえ、国税当局では実地調査の前段階として保有する資料情報等から相続税の無申告等が想定される納税者に対し、書面照会を行うことにより自発的な期限後申告書の提出を促しているほか、調査すべき問題点が限られている事案へは電話や来署依頼による調査を実施し、効率的に納税者等に接触する、所得税や法人税でお馴染みの「簡易な接触」を積極的に行っている。

30事務年度では1万332件(前事務年度比7.7%減)に簡易な接触を行い、申告漏れなどの非違違及び回答があった件数は56.9%当たる5878件(うち申告漏れ等件数2287件(同2667件))となっている。前事務年度に比べて件数が落ちているのは、前事務年度は基礎控除額引下げが行われた初年となる申告が中心だったため、計算誤りが多かったが、今回は改正の周知などが広くいきわたったことから正しい申告が増えていると推察される。

しかし、一方で、税務署からの「お尋ね文書」に対し、虚偽の回答をしていたが、国税当局が資料情報等から聞き取り調査や金融機関調査を実施した結果、現金などを隠ぺいしていたケースも少なくなく、国税当局では、今後も相続税の課税対象者と思われる相続人に対しての簡易な接触は多く行っていくこととしている。

引用:平成30事務年度における相続税の調査等の状況 報道資料より

申告漏れ財産の3分の1以上を「現金・預貯金等」占める

30事務年度における相続税の実地調査件数は、同28年に発生した相続を中心に、各種法定調書や租税条約に基づく情報交換制度等から収集した海外資産の保有等に関する情報等などにより、過少申告が疑われる事案や申告義務があるのに無申告が想定される1万2463件(前事務年度比0.9%減)へ実施している。

このうち申告漏れなどの非違があったものは85.7%にあたる1万684件(同1.5%増)で、その申告漏れ課税価格は3538億円(同0.4%増)にのぼり、加算税を含め708億円(同9.6%減)を追徴している。1件当たりでみると、申告漏れ課税価格は2838万円(同1.3%増)、追徴税額は568万円(同8.8%減)となっており、このうち申告漏れ課税価格は、28事務年度以降3年連続して増加している。

      

引用:平成30事務年度における相続税の調査等の状況 報道資料より

申告漏れ相続財産の金額の内訳をみると、最も多いのが「現金・預貯金等」の1268億円(構成比36.5%)と全体の3分の1以上を占め、以下、「土地」422億円(同12.2%)、「有価証券」388億円(同11.2%)、「家屋」69億円(同2%)で、「その他」が1327億円(同38.1%)となっている。「その他」には、事業用資産や生命保険金、退職金などが含まれている。

一方、申告漏れ額が高額もしくは故意に申告を除外していたなどより国税当局が重加算税を賦課した件数は、非違事案のうち16.5%にあたる1762件(同17.2%増)と前事務年度に比べ大幅に増えて、申告漏れ課税価格のうち重加算税賦課対象額は589億円(同2.4%増)に達している。

無申告事案の追徴税額100億円超える

国税庁が相続税調査で目を光らせているのが、「無申告事案」と「海外資産関係」。相続人自身が相続税申告の対象であることがわからず申告をしていないケースのほか、申告義務があることを知りながら申告しない無申告者もいる。このため、国税当局では、被相続人の生前の資産状況なども確認して、無申告と思われる相続人へ積極的に調査を展開している。

30事務年度も1380件(対前事務年度比13.5%増)に実地調査を行っているが、このうち申告漏れ課税価格が1億円以下であったもの(是認含む)への調査件数は約4分の3に当たる1027件を占めている。ちなみに、27事務年度以前は400件程度だったが、28事務年度以後は「605件→913件→1027件」と倍以上の件数まで増えている。

1380件実施された調査の結果、統計を開始後最多となる1232件(同20.2増%)から申告漏れを把握し、その申告漏れ課税価格は1148億円(同16.3%増)と3年連続で増加となるとともに、24事業年度以来の1千億円超えを記録。また、加算税19億円を含めた追徴税額も101億円(同15%増)と100億円を突破し過去最高を更新している。申告漏れ割合は前事務年度に比べ5%も上昇となる89.2%と調査した約10件に9件で申告漏れを把握したこととなり、1件当たりの申告漏れ課税価格は8320万円(同2.5%増)。

無申告事案における相続財産の種類をみると、「現金・預貯金」が42.5%と4割を超え、相続税調査全体の3割強に比べて高いのが特徴だ。

引用:平成30事務年度における相続税の調査等の状況 報道資料より

CRS等の積極活用で、海外資産の申告漏れを把握

納税者の資産運用の国際化に伴い海外資産が増えているが、相続人の中には海外であれば税務署も容易に把握できないだろうと考えて申告から除外等するケースも依然として少なくない。

このため、国税当局では海外資産関連の資料収集等の充実に向けて力を入れるなど取り組みを強化している。具体的には、職員を対象国へ出張させたり、被相続人が生前提出していた「国外財産調書」や金融機関などを通じて100万円を超える国外への送金や国外からの送金などを受領したりする際に金融機関へ提出する告知書に基づき金融機関が作成する「国外送金等調書」などのほか、納税者の取引などの税に関する情報を2国間の税務当局で互いに提供する「租税条約等に基づく情報交換制度」を利用して優良な情報を入手している。また近年ではCRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)を有効活用しており、30事務年度は外国税務当局から74万件の同情報の提供を受けている。

これらの各種資料情報から、30事務年度も1202件(対前事務年度比6.5%増)について調査が実施され、144件(同7.5%増)から59億円(同15.8%減)の申告漏れ課税価格を把握しており、調査件数及び申告漏れ件数ともに6年連続で増加傾向にあるとともに、過去10年間で最多を記録している。1件当たりの申告漏れ課税価格では、4064万円(同21.7%減)となっている。

引用:平成30事務年度における相続税の調査等の状況 報道資料より

海外資産関連事案に係る財産別非違件数をみると、海外資産でも「現金・預貯金等」が最も多く、地域別非違件数では、全体の約半数を「北米」が占めており、以下、「アジア」、「欧州」、「オセアニア」の順となっている。

これまでは、他人事だった相続税の申告だが、現在では土地等を持っているだけで申告義務を負うようになった。国政当局では、適正・公平な課税に向けて厳しく目を光らせていることを頭に入れておきたい。

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