国税庁が公表した平成29事務年度の「相互協議の状況」によると、相互協議事案の発生件数は206件と過去最高となりました。1件当たりに要した平均的な期間は29.9カ月、アジア諸国を始めとするOECD非加盟国との相互協議に限ってみると、40.1カ月となっておりOECD非加盟国との相互協議が長期化する傾向にあります。

相互協議とは

相互協議とは、移転価格課税等により生じた国際的な二重課税を排除するため、納税者が租税条約に基づく相互協議を申立てた場合に、我が国の税務当局が相手国の税務当局と行う協議をいいます。

我が国で移転価格課税が行われた場合、日本親会社と海外子会社は、二重課税の排除を求めて、それぞれ日本の国税庁、外国税務当局に相互協議の申立てを行います。これを受けて日本の国税庁と外国税務当局は独立企業間価格の算定方法等について協議を行います。

相互協議において合意に達した場合には、合意内容に従って、日本の国税庁は合意金額まで所得金額を減額し、外国税務当局も合意金額だけ所得金額を減額し税金を還付します。こうしたプロセスを「対応的調整」と呼んでおり、これにより二重課税が解消します。図1は相互協議のプロセスを簡単に示したものです。

なお、相互協議は、こうした移転価格課税以外にも、移転価格の事前確認、恒久的施設(PE)に関する事案、源泉所得税に関する事案においても実施されています。

 

【図1:相互協議のプロセス(我が国で移転価格課税が行われた場合)】

相互協議の発生は206件で過去最高

平成29事務年度の相互協議の発生件数は206件となり、過去最高となりました。このうち、事前確認に係る事案が全体の8割を占めています。

発生件数増加の背景には、アジア諸国を中心とするOECD非加盟国において移転価格課税が強化されていることや、事前確認制度を活用する企業が増えていることなどがあると言われています。

 

【図2:相互協議事案の発生件数の推移】

(出典:国税庁記者発表資料)

平均処理期間は29.9カ月

以下の表は、相互協議事案の平均的な処理期間を示したものです。

 

【相互協議事案の平均処理期間】

1件当たりに要した平均的な期間は、全事案ベースでは29.9カ月で、そのうち事前確認に係るものは、30.7カ月、移転価格課税その他の事案に係るものは27.7カ月となっています。

一方、OECD非加盟国・地域との相互協議事案に限ってみると、平均的な処理期間は40.1カ月となり、OECD非加盟国・地域との相互協議事案の処理が長期化していることが分かります。

OECD非加盟国・地域との協議では、その国の相互協議を行うための体制整備が不十分であったり、相互協議担当部署のスタッフの経験不足、各国独自の執行実務などが、効率的な協議を妨げる要員であると言われており、処理期間も長期化する傾向にあります。

独立企業間価格の算定方法はTNMMがトップ

処理事案における独立企業間価格の算定方法の内訳をみると、公開データから比較対象企業についての情報が入手できるため、使い勝手が良いとされるTNMM(取引単位営業利益法)が最も多く、半数以上を占めました。

 

【図3:独立企業間価格の算定方法内訳】

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