国税当局が海外取引や国外財産の情報を収集するための重要なツールの一つが「租税条約に基づく情報交換」です。国税庁は「平成30年事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」を公表しました。前年より情報交換件数は増加しており、国税当局による国外情報の蓄積は着々と進んでいるものと思われます。

「情報交換」とは、外国の税務当局との間で、調査に必要な税に関する情報をお互いに提供し合う仕組みをいいます。税務当局は近年、この情報交換を積極的に活用し、外国の税務当局から調査に有効な情報の入手に努めています。

この情報交換を大きく分けると、①要請に基づく情報交換、②自発的情報交換、③自動的情報交換の3つに区分できます。下の図は、それぞれのイメージを示しています。

《情報交換の3類型のイメージ》

(出典)財務省資料

要請に基づく情報交換

「要請に基づく情報交換」は、国内の調査で入手できる情報だけでは事実関係を十分に解明できない場合に、必要な情報の提供を外国税務当局に要請するものです。
30年度は、国税庁から外国税務当局に情報提供を要請した件数は825件であり、28年度以降毎年増加しています。

【要請に基づく情報交換の活用事例】
内国法人の法人税調査において、X国に所在する取引先である法人Aから、内国法人の代表者の預金口座に多額の入金がある事実を把握した。この内国法人が売上を除外している疑いがあったため、X国税務当局に、法人Aの経理処理等が分かる資料の提供を要請した。X国税務当局から提供された資料を分析した結果、代表者の預金口座への入金は、法人Aに販売した商品の売上代金であることが判明した。

本件は情報交換要請がうまく機能した事例です。税務調査では、代表者の個人口座への入金について追及されると、本来は収入として計上すべきものであるにも関わらず、「以前に貸した金を返してもらったものだ」「資金が必要となったので借りたものだ」等の虚偽の回答をするケースが見られます。しかし、支払った法人側の経理処理等の情報を情報交換を使って入手することにより、事実関係が明らかとなってしまう可能性があります。

自発的情報交換

「自発的情報交換」は、国際協力の観点から、調査の過程で入手した情報で外国税務当局にとって申告漏れの把握に繋がるような有益な情報を自発的に提供するものです。

30年度に外国税務当局に提供した件数は126件であったのに対し、外国税務当局からは9,666件が提供されました。大幅な増加の理由について当局は「特定の国から大量の情報を受領した」と説明しています。

【外国税務当局に自発的に情報提供をした例】

【ケース1】内国法人は、X国に所在する法人Aから製品を輸入しているが、その代金はX国以外の第三国に所在する法人B名義の口座に送金されており、法人AがX国において申告すべき売上を除外していると想定されたため、X国の税務当局に対し、送金や取引に関する資料を提供した。

【ケース2】内国法人の代表者が、Y国に所在する法人Cから輸入した商品の仕入代金の一部を、Y国に出張した際に現金で支払っており、法人Cにおいて現金支払分の売上げの計上漏れが想定されたことから、この事実をY国の税務当局に提供した。

自発的情報交換の対象となりやすいのは、これらのケースのように不自然な取引です。
海外取引の相手先から、通常とは異なる支払先や支払方法(「第三国送金」や「現金決済」など)が求められた場合には、自社の課税上の問題はないとしても、情報交換により相手国の税務当局に通報される恐れがあるということは認識しておく必要があるでしょう。

自動的情報交換

「自動的情報交換」は、法定調書から把握した非居住者等への支払等 (利子、配当、不動産賃借料、無形資産の使用料、給与・報酬、株式の譲受対価等)についての情報を、支払国の税務当局から受領国の税務当局へ一括して送付するものです。

30年度に外国税務当局から提供された件数は、約16万2千件でした。

国税庁では、外国税務当局から提供された情報を申告内容と照合し、国外財産について申告漏れがないか等のチェックを行っています。

【自動的情報交換の活用事例】
E国の税務当局から提供された資料をもとに、日本の居住者Fの申告内容を検討したところ、E国のG銀行に預け入れた預金に係る受取利子が日本で申告されていなかったことを把握した。

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