国税庁は、2018年6月までの1年間に実施した所得税の税務調査の結果を公表しました。国税庁では富裕層の調査に注力しており、「海外取引を行う富裕層」については、1件当たりの申告漏れ金額は3,119万円と3千万円超の高額にのぼることが判明しました。海外を舞台とした租税回避が行われている実態が浮き彫りとなっています。

富裕層に対する調査の状況
国税庁では、「富裕層」「海外投資等を行っている個人」「無申告者」「インターネット取引を行っている個人」などに対して積極的な調査を行っています。
有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人などの「富裕層」に対しては、5,219件(前年比124.6%)の調査を実施。670億円の申告漏れが指摘され、追徴税額は177億円と前年度比で4割増えました。また、1件当たりの追徴税額は339万円で、所得税の実地調査全体の1件当たりの追徴税額178万円の約1.9倍となっています。

富裕層の中で、特に「海外投資等を行っている富裕層」に対しては、平成29事務年度において862件(前年比161.7%)の調査を実施しており、1件当たりの申告漏れ金額は3,119万円と特に高額となりました。

こうした状況を受け、国税庁では、海外投資を行っている個人や海外資産を保有している個人などに対して、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約等に基づく情報交換制度のほか、平成30年9月に初回交換が行われたCRS情報(共通報告基準に基づく非居住者金融口座情報)などを積極的に活用して調査に取り組むとしています。
調査事例紹介
【事例1:外国親会社からの経済的利益の申告漏れ】
法定調書の情報から、個人Aは、外国親会社から株式を無償で取得できる権利を付与されていたにもかかわらず、その経済的利益が申告に反映されていなかったことから、調査が行われた。
調査の結果、個人Aは、外国親会社からの経済的利益を申告していなかったほか、保有していた株式を国内外の証券会社で売却して得た利益や、海外の銀行で資産運用して得た配当などの多額の申告漏れが発覚した。
また、年末において、5,000万円超の国外財産を有していたにもかかわらず、国外財産調書を提出していなかったことから、罰則として加算税が5%加重された。
【事例2:仮想通貨取引による利益の申告漏れ】
個人Bは、仮想通貨取引による利益について自主的に修正申告書を提出していたが、部内資料等から修正申告書の内容を大きく上回る仮想通貨取引による利益を得ていることが想定されたため、調査が行われた。
調査の結果、個人Bは、会社員として勤務するかたわら、多数の仮想通貨取引所に本人及び妻名義の取引口座を開設し、自身で開発した仮想通貨の自動売買プログラムを使用して多額の利益を得ていた事実が把握された。
Bは、インターネット情報で、仮想通貨取引の利益は申告する必要があることを知り、本人名義のうち、一部の仮想通貨取引の利益は修正申告したが、妻名義などで行った仮想通貨取引による利益は修正申告書に含めていなかった。
【事例3:民泊収入の申告漏れ】
会社員Cは、毎年、給与所得と少額又は赤字の不動産所得を申告していたが、部内資料等から「民泊」による収入を得ていることが想定されたため調査が行われた。
調査の結果、Cは、複数の自己所有物件や賃借物件を国外の民泊仲介業者のウェブサイトにアップし、宿泊者を募集していた。宿泊料は国外の民泊仲介業者経由で受け取っていたが、一部しか申告していなかった。