いわゆるマイナンバー制度においては、全ての国民が1つの個人番号を持つこととされています。戸籍も同じく、国民1人につき1つの番号や登録がなされているわけですが、ここ最近、無戸籍者に関する報道や、マイナンバーの管理について疑問が呈されるような事例が報道されています。今回はマイナンバーと戸籍に注目してみましょう。

重複したマイナンバー

マイナンバー制度における個人番号の割り当てにおいて、香川県坂出市と長野市の2人の男性に、同一の個人番号が付されていた事例があります。
両市や総務省への取材によれば、マイナンバー作成の基になる住民票コードが重複していたことが原因とのことですが、2人の氏名の読み方と生年月日が同じだったことに起因するミスだったそうです。住民登録をせずに長野市に住んでいた男性が同市へ転入手続きした際に、長野市職員が誤って、坂出市の男性の住民票コードを付けたのが原因と報道されています(日本経済新聞電子版2016年2月23日11時6分)。

地方公共団体情報システム機構(東京都)や長野市によると、長野市の男性が2010年ごろに同市に転入した際、前住所地の住民票が、何らかの理由で1998年に削除されていたようです。長野市は、前住所地を「不明」として転入を受け付けたそうですが、同市職員が住民基本台帳ネットワークで男性を確認する際に、氏名の読み方と生年月日が同一だった坂出市の男性と誤認したとみられます。2人の氏名の漢字は1文字違いだったといいます(毎日新聞デジタルニュース2016年2月23日11時21分(最終更新2月23日13時28分))。

個人のアイデンティティたる戸籍

我が国の戸籍制度は極めて精巧であって、国民に対する管理が十分になされているといわれることがあります。マイナンバー制度は、戸籍や住民票との接続を可能にするからこそ悉皆的に1人に1つの番号が付される制度となっているはずなのですが、上記のようなヒューマンエラーによるミスを防げなければ制度運営に支障が出ることは言を俟たないところでしょう。

もっとも、その基礎となる戸籍自体が二重になっているというケースもないことはありません。また、その一方、無戸籍の人もいるといいます。

福岡県大野城市内で2018年10月、アパート一室に内縁の妻の遺体を遺棄したとして、死体遺棄容疑で男が逮捕された事件がありました。報道によれば、妻は「ユミコ」と名乗り、一時は仕事もしていたそうですが、県警が調べても身元を特定できなかったといいます。免許証や住民票もなく、「無戸籍状態」だったというわけです。30年連れ添った男も「今となっては、妻がどこの誰だったのか分からない」と話しているようです(2018年12月16日付け西日本新聞)。

戸籍は当然ながら、個人のアイデンティティの表象です。
二重戸籍問題にしても、二重のマイナンバーにしても、そこにおける法的問題は極めてセンシティブな問題です。戸籍や番号が個人を特定する手段であり、アイデンティティを画するものであることからすると、過誤や誤謬は最大限避けなければならないことは指摘するまでもありません。

また、上記のマイナンバー制度が、個人情報をデータ管理するものである以上、上記の二重付番が回避されることはもとより、かかるデータの管理自体が厳格になされていることが当然の前提とされています。

マイナンバー資料の杜撰な管理

しかしながら、2018年12月14日、国税庁は、東京、大阪両国税局からデータ入力を委託されていた業者が契約に反して別業者に再委託し、マイナンバーなど個人情報が含まれる約70万件の書類を流していたと発表しました(2018年12月14日付け毎日新聞デジタルニュース)。

両国税局から委託されていた会社は、両国税局が企業から提出を受けた、給与や住所、氏名、マイナンバーが記載されている源泉徴収票などのデータ入力業務を行っていたとのことですが、同社は、繁忙を理由に国内の3業者に再委託していたといいます。
再委託は個人情報保護法において制限されているのにも関わらず、同社が再委託先に流した書類70万件のうち、マイナンバーが記載されていた書類が実に55万件あったというのです。

国税庁は「納税者におわび申し上げる」としていますが、戸籍もマイナンバーも同様にセンシティブな情報であることに鑑みれば、情報管理の徹底が求められることはいうまでもありません。