先日、ある新聞の見出しに、「『無策のツケが国民に』、感染再拡大で『突貫工事』、コロナ関連法改正案の焦点」(毎日新聞令和3年1月22日配信デジタル版)というものがありました。「突貫工事」と聞くとマイナスのイメージを抱くところですが、今回は「突貫」という言葉を考えてみましょう。
消費税増税と突貫工事
国内取引の場合には、課税資産の譲渡や貸付け及び役務の提供(以下「課税資産の譲渡等」といいます。)をした時に消費税の納税義務が成立します。ここにいう課税資産の譲渡等の時期は、原則として、資産の引渡しの時又は役務の提供の時となるところ、かかる引渡しや役務の提供時期は、取引の態様に応じて異なります。
この点、新築建物を棚卸資産として販売する場合には、原則としてその建物の引渡しの日が消費税の納税義務の成立の日となると解されます(消費税法基本通達9-1-5、9-1-6も参照)。
令和元年10月1日、消費税率が原則として8%から10%に引き上げられましたが、この前後で建物を建築して売却する不動産業者にとってみれば、なんとか、10月1日よりも前に建物を完成させて引渡しを済ませたいのと同様、購入する消費者の消費行動としても、消費税が増税される前に購入したいと考えることから、いわゆる駆込み需要が起こるのは当然といえましょう。
言うまでもなく、消費税の2%は取引対象価額が高額になればなるほど、その影響は大きくなるわけですから、建物の売買における2%は決して無視できない金額になります。例えば、5千万円の建物であれば、100万円の消費税が増額されるのですから、その影響がないはずありません。
そこで、なんとか増税前に取引を終えたいとの心理から、工期を早めるようにとの無理筋のオーダーが施主からなされることが想定されますが、これがいわゆる「突貫工事」を招来するわけです。
「突貫工事」の持つマイナスイメージ
ところで、「突貫(工事)」とは、一般的な辞書によると、「①つきつらぬくこと。つきとおすこと。②…敵の陣に突入すること。吶喊。③一気に突き進むこと。『―工事』」という意味と説明されています(新村出編著『広辞苑〔第7版〕』2104頁(岩波書店2018))。このように、急いで行う工事を「突貫工事」というわけですが、どこか安普請というマイナスイメージを含ませた用語として用いられることが多い言葉のように思われます。
例えば、上述の「『無策のツケが国民に』、感染再拡大で『突貫工事』、コロナ関連法改正案の焦点」という見出しは、突貫工事による造作を「大急ぎで作られた」という意味以上に、「間に合わせのために急いで作られた」とか、「俄作り(にわかづくり)」などという意味をも含意させて急ごしらえの出来の悪さのようなものをイメージさせる用語法ではないでしょうか。
ここでは、「突貫工事」という表現に、「急いで作ったのに、素晴らしい出来栄えである」といったような肯定的な意味を探ることはできません。そうすると、消費税増税前の突貫工事による急ごしらえの建築物の安全性を思うと心配にもなるところです。