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酒井克彦の「税金」についての公開雑談~グルリット事件~

1933年から45年にかけて、ナチス・ドイツがヨーロッパ各地で略奪した芸術品の総数は60万点にものぼり、戦後70年以上経った今でも10万点が行方不明になっているといわれています(ドキュメンタリー映画『HITLER VERSU PICASSO AND THE OTHERS』〔クラウディオ・ポリ監督〕上映公開パンフレットより)。今回は、その略奪芸術が租税事件として登場した事案を見てみましょう。

脱税捜査で見つかった名画

2012年、ドイツの検察当局が、脱税事件捜査の一環として、同国の美術品収集家コルネリウス・グルリット氏(Rolf Nikolaus Cornelius Gurlitt)のミュンヘンのアパートから、ピカソ(Pablo Picasso)やマティス(Henri Matisse)の作品を含む1,200点を超える絵画を押収しました。このなかには、ナチス・ドイツが略奪したと疑われる作品が含まれていたと報道されています(2014年5月8日付けCNN Web News「ナチス略奪絵画を大量所有する男性が死去」)。

押収された絵画のうち、略奪品でないことが明らかなものは、2014年4月にグルリット氏に返還されていますが、略奪品の疑いのあるものについては来歴を調査し、元の持ち主やその子孫に返還されたようです。
報道によれば、グルリット氏は生前、父から相続したコレクションにナチスの略奪した作品が含まれていたとは思いも寄らなかったと述べていたといいます(前掲記事)。

ナチスは1930~40年代にかけて、「退廃的」とみなした美術品を、画廊や個人から大量に押収しています。また、ユダヤ人家庭から盗まれたり、ユダヤ人が亡命資金として二束三文で売ることを余儀なくされたりした作品も数多いのです。

さて、グルリット氏の父、ヒルデブラント・グルリット(Hildebrand Gurlitt)はユダヤ系でしたが、ヒトラーによって認可された「退廃美術」を売りさばく4人の画商の1人として、第二次世界大戦を生き延びたといいます。グルリット氏の父は、その立場を利用して、ナチス・ドイツがユダヤ人らから略奪した絵画を大量に所有していたのです。

グルリット事件

2010年9月22日、スイス・チューリッヒ発ドイツ・ミュンヘン行きの電車内で行われたドイツ税関の抜き打ち検査で、9,000ユーロの現金を所持していたグルリット氏がその出所を咎められました。
そして、2012年2月28日、脱税を疑うドイツ当局の捜査により、ミュンヘンにあるグルリット氏の自宅から、ピカソ、ルノワール(Pierre-Auguste Renoir)、マティスなど、絵画等1,280点が発見されたのです。

その価値は10億ユーロ(当時)といわれているにもかかわらず、この事実は当局からは一切発表されず、2013年11月4日、ドイツの週刊誌「フォークス」が「ナチスの財宝、70年後の大発見」とスクープし、大騒ぎになりました(木村浩之「失われた作品を求めて──ナチスによる略奪とグルリット・コレクション」artscape 2014年6月1日号: https://artscape.jp/focus/10099395_1639.html)。

これを巷間では「グルリット事件」と呼んでいます。

その後、2014年2月、オーストリア・ザルツブルグにあるグルリット別邸で238点が発見され、同年5月6日にグルリット氏が81歳で死去し、翌日全財産をスイスのベルン美術館へ寄贈する遺書が発見されました。

グルリット・コレクションは、ベルン美術館やボンにあるドイツ連邦共和国美術展示室などで展示されましたが、そこでは、前述のとおり、「退廃芸術」のレッテルを貼られたムンク(Edvard Munch)、ゴーギャン(Eugène Henri Paul Gauguin )などのほか、モネ(Claude Monet)、ルノワール、ドラクロワ(Ferdinand Victor Eugène Delacroix)の作品もあり、さらには、日本の浮世絵までも含まれていたといいます。

脱税調査が、隠されたナチスの略奪芸術の発見に貢献することもあるのには驚きですね。

著者: 酒井克彦

中央大学商学部教授 兼 法科大学院教授/法学博士

中央大学商学部教授。法学博士。現在、税務会計論・租税法などを担当。一般社団法人アコード租税総合研究所 所長、一般社団法人ファルクラム 代表理事。単著に『スタートアップ租税法〔第3版〕』、『クローズアップ保険税務』他5冊のアップシリーズ、『所得税法の論点研究』(財経詳報社)、『裁判例からみる所得税法』、『裁判例からみる法人税法〔2訂版〕』(大蔵財務協会)、『レクチャー租税法解釈入門』(弘文堂)、『プログレッシブ税務会計論Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ』(中央経済社)、『アクセス税務通達の読み方』(第一法規)、『キャッチアップ 仮想通貨の最新税務』、『キャッチアップ改正相続法の税務』(ぎょうせい)など。その他、論文多数。
■一般社団法人アコード租税総合研究所
http://accordtax.net/
■一般社団法人ファルクラム(FULCRUM)
http://fulcrumtax.net/

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