確定申告を控え、医療費控除の準備を進めている方も多いでしょう。妊娠・出産費用も控除対象となるが、2022年の不妊治療保険適用や2023年の出産育児一時金増額、マイナポータル連携によるデジタル申告など、近年制度は大きく変化している。そこで、2026年現在の最新ルールに基づき、何が控除対象で何が対象外か、賢く還付金を受け取るための判断基準をまとめてみた。
医療費控除の概要(最新版)
医療費控除は、その年の1月1日から12月31日までの間に自己または自己と「生計を一」にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合に、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができる制度。この「一定額」とは、原則として年間10万円だが、その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額となる。ただし、医療費控除の医療費は「一般に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする」との規定もされている。
また2026年現在の確定申告では、マイナンバーカードを利用した「マイナポータル連携」が一般的。病院や薬局での支払いデータが自動で取得され、e-Taxに反映されるため、集計の手間が劇的に減っている。
控除の対象となる医療費は、以下の通り非常に幅広いのが特徴。
①医師等による診療または治療の対価
②治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価
③あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価、
④保健師、看護師、准看護師又は特に依頼した人による療養上の世話の対価、
⑤医師等による診療、治療、施術又は分べんの介助を受けるために直接必要な通院費、医師等の送迎費、入院の際の部屋代や食事代の費用、コルセットなどの医療用器具等の購入代やその賃借料
といったものが含まれる。
ただし、②はドラッグストアで購入する風邪薬などは医療費控除の対象に含まれるが、ビタミン剤などの病気の予防や健康増進のために用いられるものは含まれない。③は施術と言っても単に疲れを癒したり、体調を整えるといった治療に直接関係のないもの、⑤は医師等による診療等を受けるための通院費であっても原則、タクシー、自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場の料金等は含まれないのが基本。
②は、もし年間の医療費が10万円に届かない場合でも、特定の医薬品(スイッチOTC医薬品など)の購入額が世帯で合算して年間1.2万円を超えれば、「セルフメディケーション税制」を利用して節税できる可能性がある。このセルフメディケーション税制は、ドラッグストアで購入した薬(妊娠検査薬は対象外だが、風邪薬や頭痛薬など)が対象となる。ただし、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制は選択制であり、併用はできないため、どちらが有利か計算することが重要。
また、病人の付添いを頼んだ場合の家政婦が療養上の世話をする対価や、家族や親類縁者に付添いを頼んで付添料の名目での支払い、治療費や所定料金以外の心付けなども医療費控除の対象外だ。
なお、各種保険による補填や自治体等の助成金がある場合は、その金額は医療費から差し引く必要がある。
不妊治療は結果に伴わず控除対象(保険適用後の注意点)
まず妊娠の兆候があると、その有無を確認するため検査が必要となるが、病院で調べてもらうものであれば、費用は医療費控除の対象となる。一方、近年では病院へ行く前にドラッグストアで妊娠検査薬を購入して調べる人も多いが、この費用は検査後に病院に行って妊娠が確定した場合でも、医師による診療等の対価ではないため医療費控除の対象に含めることはできない。
なお、以前は数百万円かかることもあったが、現在は保険適用により負担が軽減されている人工授精や体外受精の費用に関しては、結果に伴わず医療費控除の対象とされているので、妊娠しなかった場合でも翌年の控除対象に含めて差し支えない。さらに2022年4月からは、人工授精や体外受精などが公的医療保険の対象となった。これにより窓口負担が原則3割に軽減され、「高額療養費制度」も適用される。確定申告の際は、保険適用後の自己負担分や先進医療の費用を合算できるが、後日払い戻された高額療養費は医療費から差し引いて計算する必要がある。
非侵襲性出生前遺伝学的検査は控除対象外
妊娠が判明し、住んでいる市区町村に妊娠届出を行うと「母子健康手帳」が交付され、病院での定期健診(妊婦健康診断)が始まるが、医師による診療等の対価として支払われる妊婦の定期検診の費用は医療費控除の対象となる。
また、自治体により内容の違いはあるものの、母子健康手帳の交付とともに健診費用の助成が受けられる「妊婦健康診査受診票」(妊婦健康診査受診票、妊婦超音波検査受診票、妊婦子宮頸がん検診受診票)などを配布しているが、この交付(補助)を受けた場合には、実際に支払った金額のみが控除の対象とされる。なお、出産後の健診費用についても、単なる健康診断にすぎないものを除き医療費控除の対象に含まれる。
めざましい医学の発達により、母体血を用いて母体の血液中に存在する胎児由来のDNA及び母体由来のDNAに含まれる遺伝情報を解析することで、各染色体に由来するDNA断片の量の差異を求め、それらの比較から胎児の特定の染色体数的異常の診断に結びつける「非侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)」が実施されており、これを受ける妊婦が増えている。この費用は、胎児の染色体の数的異常を調べる“診断の一種”であり、またこの検査を行った結果、染色体の数的異常が発見されたとしても、現時点ではそれが治療につながらないとされていることから、妊婦や胎児の治療に先だって行われる診療等とは言えないため、現時点(2026年現在)では医療費控除の対象外とされている。10万円を超える高額な検査になることも多いため、誤って確定申告に含めないよう注意が必要。
マタニティエクササイズは医療費控除対象外
妊娠5カ月以降になると安定期に入り、このころは体重管理にも気を配る必要が出てくることから、マタニティエクササイズでの適度な運動をしたり、出産後の育児の仕方を学ぶための「妊婦(両親)学級」や妊婦の精神的不安を和らげる効果があるだけでなく、適切な指導の下に正しい腹式呼吸の方法を会得すれば、安産も期待できるといわれる「無痛分娩講座」などに参加する者も少なくない。しかし、このような費用も医師による診療等の対価として支払われるものではなく、また、医師による診療等を受けるため直接必要な費用でもないため控除対象とはならない。たとえ病院内で実施されていても、健康増進や学習のための費用は対象外であることを覚えておきましょう。
通常の交通手段では、こんな場合タクシーを利用すべき
出産直前になると、出産のため実家に帰省する妊婦も少なくないが、このときに掛かった旅費や交通費は、基本的には医療費控除の対象にはならない。というのも、医療費控除の対象となる費用は「病院、診療所、老人保健施設または助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価のうち、病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」及び「医師等による診療等を受けるための通院費のうち、その診療等を受けるため直接必要なもので、かつ、通常必要なもの」とされているからだ。
ただし、自宅等で陣痛が始まり電車、バスなどの通常の交通手段による入院が困難なためタクシーを利用した場合などは、タクシー代は控除対象となる。2026年現在は、領収書をスマートフォンのカメラで撮影してデジタル管理する人も多いが、タクシー利用時は「日時・区間・理由」をメモに残しておくと、万が一税務署から問い合わせがあった場合にもスムーズに対応できる。
出前や外食は控除対象外
出産時の入院費用については、一般的な病気やケガの場合と基本的には変わらない。したがって、自己都合による差額ベット代や自分で用意した寝具・洗面道具などの身の回りの品、テレビ・冷蔵庫の賃借料は控除対象にはならない。
一方、病室のシーツ・カバーの洗濯費用等は、入院費用に含まれていれば基本的には控除対象となる。通常出される病院での食事についても当然に控除対象となるが、出前や外食した場合、付添人の食事代は控除の対象にはならない。



