OECD加盟国が進めるBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを踏まえ、移転価格税制が見直されました。特許やブランドなどの無形資産の格安譲渡を防ぐため、企業が算定した無形資産の譲渡価格が適切でないと認められる場合には、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)などにより、事後的に取引価格を修正できる規定(所得相応性基準)が導入されました。
BEPSが想定した問題取引
従来からグローバルに活動する国際的大企業がグループ全体の税負担を軽減する目的で、自社が保有する特許やブランドなどの無形資産を軽課税国に所在する海外子会社等へ格安で譲渡し、当該無形資産による利益を海外子会社に溜め込む、という租税回避が国際的に問題となっていました。
以下の図は、こうした問題取引のイメージ図です。
この図において、日本の親会社は、多額の研究開発費を投下し、価値ある無形資産を開発したとします。そして、親会社は、この無形資産を軽課税国に所在する子会社に譲渡するにあたり、無形資産の価値を低く見積もり、【取引価格1】という廉価で譲渡しました。
無形資産の譲渡を受けた子会社は、当該無形資産を利用した製品を販売し、【所得100】を獲得し、この所得は子会社に留保されているとします。
この場合、子会社への無形資産の譲渡対価である【取引価格1】は明らかに低額といえるでしょう。もし、日本の親会社が適切な対価を収受しなければ、日本での課税機会を喪失することとなり、価値ある無形資産が海外に流出してしまうことになります。
そこで、こうした租税回避に対処すべく、31年度税制改正において、「所得相応性基準」の導入、およびその価格算定方法として「ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)」が盛り込まれました。
この税制改正は、BEPSプロジェクトでの勧告を受けて改正されたOECD移転価格ガイドライン等を踏まえたものです。
「DCF法」を独立企業間価格算定方法に追加
独立企業間価格の算定方法として、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)が新たに追加されました。DCF法とは、無形資産から得られるであろうキャッシュフローを予測し、そのキャッシュフローを一定の割引率で割り引いた現在価値を用いて無形資産の価値を計算する方法です。
DCF法は、OECD移転価格ガイドラインにおいて、比較対象取引が特定できない無形資産取引等に対する算定方法として有用性が認められています。
具体的な計算方法等について、今後の情報に注目する必要があります。
「所得相応性基準」の導入
「所得相応性基準」とは、評価が困難な無形資産(Hard-To-Value-Intangibles:HTVI)について、当初の価格設定に用いた予測と一定期間経過後の実績値に一定以上の乖離がある場合、その実績値に基づいて無形資産の取引価格を再評価する手法をいいます。
所得相応性基準は低税率国にある国外関連者に無形資産を低価格で譲渡し、その後に無形資産の価値が大幅に上がったとしてロイヤリティ収入等を低税率国の国外関連者に集中させるといった租税回避を防止することを目的としています。
図1において、海外子会社への無形資産の譲渡価格である【取引価格1】は、その後の子会社の実績値から見ると明らかに低額といえるでしょう。よって、この所得相応性基準を使うと、事後的に【取引価格1】を修正できることになります。
このように、所得相応性基準の導入により、無形資産の低額譲渡に対して税務調査で指摘を受けるケースが増加すると見込まれるため、独立企業間価格の算定の基礎となる予測と実績値に大きな差異が生じないよう、独立企業間価格を慎重に算定していくことが重要となります。