仮想通貨取引において、2019年3月までの過去数年間で、少なくとも50人および30社が総額約100億円の申告漏れを指摘されていたことが新聞報道で明らかとなりました。これから税務調査の最盛期を迎えるにあたり、国税局では専門のプロジェクトチームを設置するなど情報収集体制を強化しています。

■新聞報道

仮想通貨取引により所得が生じた場合、原則「雑所得」として確定申告しなければなりません。しかしながら、現実的には、正しく申告されていないケースも多く、申告漏れの発覚が相次いいでいます。以下は、2019年6月5日の朝日新聞の記事の一部です。

仮想通貨100億円申告漏れ 50人と30社 国税局指摘

仮想通貨(暗号資産)の取引にからみ、今年3月までの数年間に全国で少なくとも50人と30社が総額約100億円の申告漏れを国税当局から指摘されたことがわかった。2017年末に主要通貨「ビットコイン」の相場が年初の約20倍に高騰しており、このころに多額の売却益を得たのに税務申告しなかったり、実際よりも少なく申告したりしたケースが相次いだとみられる。

関係者によると、東京国税局の電子商取引を担当する調査部門が昨年、都内の複数の仮想通貨交換業者(取引所)から顧客らの取引データの任意提出を受けた。同部門はデータを分析し、多額の売却益を上げたと見込まれる個人や法人をリストアップ。札幌から熊本まで全11国税局と沖縄国税事務所が、この取引データや独自に集めた情報に基づき税務調査し、個人・法人を合わせて少なくとも80件、総額約100億円の申告漏れを指摘した模様だ。

このうち70億円以上は、親族や知人名義の口座で取引したり、実際の取引記録を残しているのに故意に売却益を少なく見せかけたりしたとして、重加算税対象の「所得隠し」と判断された。高額・悪質なものについては脱税容疑での告発も検討しているとみられる。[…]

■仮想通貨取引 所得隠し事例

暗号資産取引所得隠し 9億円 コイン架空仕入

独自の暗号資産(仮想通貨)を販売していたE社が、東京国税局などから2017年5月期までの2年間で約9億円の所得隠しを指摘されたことがわかった。同社は、米国の会社から仕入れた暗号資産の代金を経費に計上していたが、同国税局は、米国の会社は実体のないペーパーカンパニーで、架空仕入にあたると判断した。
今回の暗号資産取引は、実質的に企業や個人が独自の暗号資産を発行・販売して資金を集めるICO(新規仮想通貨公開)と言えるが、ICOを巡る所得隠しが明らかとなるのは初めて。暗号資産は匿名性が高く、取引実態の不透明さが指摘されており、同国税局は取引記録をデータベース化するなどして監視を強めている。[…]
(2019年6月6日 日本経済新聞)

仮想通貨換金所得隠し 無登録業者2億円 国税指摘

無登録で仮想通貨の換金を代行するF社が、東京国税局の税務調査で2018年5月期に約2億円の所得隠しを指摘されていたことが関係者の話で分かった。同社は、個人が相対取引で購入した仮想通貨をブローカー経由で受け取り、金融庁に登録する正規の交換業者で換金。換金額の数%を手数料として得ていたが、一部しか申告していなかった。仮想通貨を巡る換金代行業者の税逃れが明らかになるのは初めて。

個人が税逃れに利用か

換金を依頼した個人は、一連の取引の「秘匿性」に目を付けたものとみられ、利益を適正に申告していない可能性が高い。今回の税務調査では、無登録の換金代行業者を利用した個人の税逃れの構図も浮かび上がった形だ。
関係者によると、同社は17年8月に設立され、個人が相対取引で購入した仮想通貨を複数のブローカー経由で受け取り、正規の交換業者に作った同社名義の口座で換金。同社とブローカーは、換金額の1〜5%の手数料を山分けしていた。
同国税局は、ブローカーについても数人から事情を聞いており、手数料収入の申告がなければ税務調査に乗り出す見通し。[…]
(2019年3月9日 読売新聞)

■各国税局に専門のプロジェクトチームを設置

国税庁は、こうした税逃れを防止するため、全国の国税局に専門のプロジェクトチーム(PT)を設置し、情報収集の体制を強化すると発表しています。

今年の税制改正で、一定の条件の下、国税当局は多額の利益を得た顧客などの情報を事業者に照会することが可能となりました(2020年1月施行)。各国税局に設置されたPTでは、この制度を活用して仮想通貨の交換業者などから情報を入手し、多額の申告漏れの把握に活かしていく見通しです。