近年、中国等に設立した子会社を清算して、他の国に拠点を移転するケースが見られます。子会社を清算する場合、子会社が負担しきれない費用や損失が発生し、親会社がやむを得ず負担する場合があります。子会社を整理する場合の親会社による損失負担については、損失負担することについて「相当の理由」がある場合には、寄附金に該当しないとされています。
≪ケース≫
当社では中国に子会社を設立し、製造拠点としてきましたが、人件費の高騰などにより経営が悪化したため、中国子会社を清算し撤退することとしました。清算にあたり、中国子会社が弁済しきれない債務等については、親会社である当社が負担せざるを得ないと考えております。こうした親会社の負担は損金の額に算入されるのでしょうか。
「子会社等を整理する場合の損失負担等」の取り扱い
最近では、中国での生産コストの上昇により、中国に設立した製造拠点を閉鎖し、ベトナム等へ工場を移転するケースが増えています。
子会社を整理し撤退する場合には、従業員への退職金の支払い、取引先に対する債務の弁済、解散費用等が発生します。子会社がこれらの諸費用や債務を弁済しきれない場合、最終的に日本の親会社が負担せざるを得なくなります。
問題は、親会社の負担額が損金に算入されるかどうかです。子会社が負担しきれない費用や債務がある場合に親会社がその損失負担等をしなければ、今後より大きな損失を蒙ることが社会通念上明らかであり、損失負担等をすることについて相当な理由があると認められるときは、親会社の負担額は寄附金には該当しないこととされています(法基通9-4-1)。
親会社と子会社はそれぞれ別個の法人ですので、仮に子会社が経営危機に瀕して解散等をした場合であっても、親会社としては、その出資額が回収できないにとどまり、それ以上に新たな損失負担をする必要はないという考え方もあります。しかしながら、親会社が株主有限責任を根拠に、親会社としての責任を放棄するようなことは社会的にも許されることではないでしょう。親会社が子会社の整理のために行う債権の放棄、債務の引受けその他の損失負担については、一概にこれを単純な贈与と決めつけ、常に寄附金として処理することは、実態に即さないといえます。
そこで、この通達において、親会社が損失負担をした場合において、それが今後より大きな損失の生ずることを回避するためにやむを得ず行われたものであり、かつ、そのことが社会通念上も妥当なものとして是認されるような事情にあるときは、税務上も寄附金として取り扱わないことが明らかにされています。
留意点
実務上、法人税基本通達9-4-1の適用を巡って、税務当局と争いになるケースも見受けられます。
対策としては、まず、親会社が支援をした場合の親会社の損失負担額と、支援を行わなかった場合に蒙るであろう損失の見込額を数値化し、親会社の支援が合理的であることを示すことが考えられます。
また、支援を決定したときの議事録や会議資料、決裁文書なども、税務調査では検討されるため、それらの記載内容が法人税基本通達の要件に合致するものとなっているか、確認する必要があるといえます。