国税当局は富裕層の海外資産への監視を強化しています。そのための強力なツールとなるのが世界各国の金融口座情報を各国の税務当局間で自動的に交換するCRS(共通報告基準)と呼ばれる制度です。この制度の活用により、これまで解明が難しいと言われていた海外が絡む資産隠しの発覚が相次いでいます。

CRS情報をもとに海外資産の相続税申告漏れを把握
以下は2019年7月3日付けの日本経済新聞の記事です。報道によると、国税当局はCRS情報を活用し海外資産の相続税の申告漏れを把握しました。
租税回避や脱税防止 海外口座情報交換が効果
国際的な脱税や租税回避を防ぐために約100カ国・地域の税務当局が金融口座の情報交換を行う新制度が効果を示し始めた。日本居住者が海外に保有する口座情報の蓄積が進み、国税当局はこれをもとにした税務調査に取り組む。新制度を活用し、海外資産がからむ相続税の申告漏れを指摘した事例も出ている。
相続税申告漏れ指摘も
国税庁は2日までに、CRSで得られた情報を端緒として、親族から遺産を相続した女性の約4千万円の相続税申告漏れを指摘したことを初めて明らかにした。女性は相続に際して、親族に海外資産があることを知らないまま相続税を申告。東京国税局はCRSで得られた海外の口座情報をもとに税務調査を実施した。親族が海外に預金と不動産を持っていることが分かり、同国税局は申告漏れを指摘し、約2千万円を追徴課税した。
関係者によると、他にもCRS情報を端緒とした複数の税務調査に着手しているとみられる。ある国税局幹部は「現在は調査先を選定している段階。本格的な調査は今年の7月以降になるだろう」と話した。
CRSで交換される情報は、主として預金、有価証券、資産性のある保険等に係る収入(利子、配当等の年間受取総額等)と12月31日時点の残高となっています。
CRSによって入手した情報を活用することにより、これまで申告されてこなかった海外保有の金融資産や、そこから生じる収益(利子、配当等)を把握することができます。
海外への資産隠しの把握に力を入れる国税当局にとって、CRSはまさに「宝の山」といえるでしょう。
海外資産申告漏れで初の告発事案
今年の7月末には「国外財産調書」の提出を怠ったとして国外財産調書法違反容疑で初めて刑事告発された事件が報道されました。
以下は2019年7月3日付けの日本経済新聞の記事です。
海外預金 未報告の疑い 7300万円分で初告発
所得税約8300万円を脱税し、海外の口座などに7300万円の預金があったのに国外財産調書を提出しなかったとして、大阪国税局が家具輸入販売仲介会社のN代表取締役を所得税法違反と国外送金等調書法違反の疑いで京都地検に告発したことが29日、分かった。
国外財産調書の提出制度が始まった2014年1月以降、制度に絡む告発は全国で初めて。
同制度は年末時点で5千万円を超える国外財産を保有する国内居住者に対し、財産の種類や金額などを記した国外財産調書の提出を義務付けている。税務当局が把握しにくい海外資産の課税逃れを防ぐのが狙い。
関係者によると、15年1月~17年12月、タイ在住で知人の日本人男性名義の口座に売り上げを入金したり、男性名義で日本国内の家具業者と業務契約を結んだりして、約2億1500万円の所得を申告せず所得税を免れた疑いが持たれている。脱税した金は男性名義の口座からN代表が現金で運び出し、日本国内の口座に預けていた。
さらに、売り上げの一部を入金していた香港の自身名義の口座などに17年12月末時点で7300万円の預金があったが、国外財産調書を提出しなかった疑いがある。
国税局は故意に提出しなかったと判断したとみられる。
国外財産調書は、経済のグローバル化に伴って海外に多額の資産を持つ富裕層が増加したことを背景に平成24年の税制改正で導入された制度であり、年末の時点で海外に5千万円を超える財産を持つ人が提出の対象となります。
国外財産調書の不提出や虚偽記載があった場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることがありますが、これまでは刑事罰は適用されてきませんでした。
今回、こうした刑事告発事件が報道されたことにより、海外資産隠しに対する一定の牽制効果が期待できるものと思われます。
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