近年、ネットオークションなどで収入を得ている者が増えており、国税当局も目を光らせています。こうしたネットオークションでは、収益が計上漏れとなっているケースが多く見られ、その場合にはネットオークションによる収益が誰に帰属するかが議論となることがあります。今回は、収益が法人に帰属するとされた事例と、個人に帰属するとされた事例を紹介します。

「実質所得者課税の原則」とは

所得の帰属を判断するにあたっては、「実質所得者課税の原則」という重要な考え方があります。これは、取引の名義が誰であるかに関わらず、形式と実質が異なるときには、実質に従って所得の帰属を判定するというもので、法人税法や所得税法などで定められています(法人税法第11条、所得税法12条)。

以下の事例でも、この「実質所得者課税の原則」に基づいて所得の帰属者が判断されています。

事例1 収益は法人に帰属すると判断された事例(平成30年6月28日裁決)

【事例の概要】

本事例は、ネットオークション事業に係る売上について、法人に帰属するとして法人税の課税処分を受けたのに対し、当該事業の主体は法人(以下「A社」)の従業員であるから、収益はA社には帰属しないとして争った事案である。

 

【審判所の判断】

審判所は、事業収益の帰属者が誰であるかは、当該事業の遂行に際して行われる法律行為の名義だけでなく、①事業の経緯、②業務の遂行状況、③業務に係る費用の支払状況及び④請求人の認識などの事実関係を総合勘案して、当該事業の主体は誰であるかにより判断するとしました。

本件の事実関係は次の通りである。

  • ・落札者に対して出品者として表示されるのは、A社の従業員名義であった。
  • ・A社の従業員がA社の事務所において本件業務の事務及び落札商品の発送を行っていた。
  • ・落札商品のほとんどは、A社が調達し、A社の仕入に計上していた商品であった。
  • ・本件業務に従事する従業員の給与は、A社から支払われていた
  • ・本件業務は、代表者の目の届く範囲で行われていたことは明らかであり、A社の代表者には、本件業務で収益を得ていたとの認識があった。

以上の事実関係から、審判所は、本件業務はA社の業務の一環として行われたものとみるのが相当であり、本件業務の事業主体はA社である。よって、本件業務に係る収益はA社に帰属すると判断しました。

事例2 収益は法人の代表者個人に帰属すると判断された事例(平成29年3月14日裁決)

【事例の概要】

本事例は、知人からカーナビを仕入れ、ネット上のオークションサイトを利用して販売する事業について、事業を行った個人(以下「B」)に帰属するとして所得税等の課税処分を受けたのに対し、当該事業から生じた所得は、Bが代表者である法人(以下「C社」)に帰属するとして争った事例である。

 

【審判所の判断】

本事例の事実関係は以下の通りである。

  • ・Bは、知人から仕入れた大量のカーナビを居宅の敷地内の倉庫で保管し、居宅のBのパソコンを用い、交際相手の名義IDのを利用してオークションサイトに出品し、落札された商品の配送手続も居宅近くの郵便局を通じて行っていた。このように、仕入れから販売に至る一連の事務は、居宅というBの個人の領域で行われていた
  • ・落札者からの商品代金が入金される口座の名義はC法人ではなくB個人の名義であった。
  • ・C社は無申告であり、法人としての実体を有していたといえるのかも疑わしかった。
  • ・操作画面上の出品者としてC社の名称とBの氏名を併記しており、商品に貼付する送り状の依頼主として、C社の所在地を記載し、C社の名称及びBの氏名を併記していた。

以上の事実関係から、審判所は、本件事業に係るBの行為は法人の代表者としての行為ではなく個人としての行為であり、本件事業から生ずる収益を享受する者は、B個人であると判断した。なお、送り状等の記載については、形式的なものにすぎないとした。

コメント

最近では、ネットビジネスに対する調査も積極的に行われており、特に無申告者に対する調査には重点が置かれています。

調査で無申告が発覚した場合には、収入の帰属の問題が生じることがありますが、その場合には「実質所得者課税の原則」に従い、取引の実態を総合的に勘案して判断することとなります。

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