現在、税理士が係わるM&A(合併・買収)の多くは、顧問先の事業承継に係わるものが多いが、上場企業クラスになると、事業拡大を目的に戦略的なM&Aが活発化している。最近の上場企業のM&A事情に迫った。

最近のM&Aの話題と言えば、なんといっても、ヤフーによる国内最大級のインターネット衣料通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOを子会社化し、傘下に納めた案件だ。発行済み株式の50.1%を上限に買い付け、買収額は約4千億円になる。
「Yahoo!ショッピング」など、ヤフーが運営するECサイトは現在、30~40歳代のユーザーが中心。ゾゾタウンは20歳代の若者層が中心となっている。両社が一緒になることで、EC事業の購入者数・取引高・営業利益の大幅な伸びが期待できる。両社の2019年度3月期におけるEコマース事業(物販)の取引高は1兆9517億円、ZOZOが3231憶円で、両社が一緒になることで2兆円を超えてくるほか、さまざまなシナジー効果が期待される。これにより、ヤフーはEC事業で先行するアマゾン、楽天を追撃するのが狙いだ。
こうした大手企業の戦略的なM&Aは増える傾向にあり、M&A(合併・買収)仲介サービス大手のストライク(東京・千代田区、代表取締役社長=荒井邦彦氏)が運営する「M&A Online」の集計によると、2019年第3四半期(7~9月期)のM&Aは前年同期比14件減の208件だったが、同四半期として200件を超えるのは3年連続だ。上期を含めた1~9月期でみると、合計602件で、2009年以来10年ぶりの600件台となっている。
これら件数は、全上場企業に義務づけられた上場企業の適時開示情報のうち、経営権の移転を伴うM&A(グループ内再編は除く)について集計されたもの。
注目されるのは、7~9月期のM&Aの総開示件数208件のうち、日本企業がかかわる海外案件(買収のほか、売却、日本企業がターゲットになる場合を含む)が49件と、全体の約4分の1を占めていること。M&Aをテコにグローバル展開が加速している。
取引金額が1千億円を超える大型案件は5件。1千億円超の案件は今年に入り9月末までに11件あるが、第3四半期だけでほぼ半数を占めているという。
ちなみに、日本企業によるM&Aで今年最大となったのが豪ビール大手のカールトン&ユナイテッド・ブルワーズ(CUB)を約1兆2千億円で買収するアサヒグループホールディングス(HD)の案件。酒類事業の買収としては2014年にサントリーホールディングスが米ウイスキー大手のビームを約1兆6千億円で傘下に収めたのに次ぐ規模となる。
このほか、リース大手の東京センチュリーも、約3200億円を投じて、米国の航空機リース大手、アビエーション・キャピタル・グループ(ACG)を完全子会社化。出資先の機材整備会社や航空会社との相乗効果を高めたい考えだ。
こうした上場企業の事業拡大を狙った戦略的なM&Aが、今後、益々増えていくことは確実だ。税理士が関与する中小企業においても、成長戦略を描いていく上で、上場企業を参考にM&Aを視野に入れた事業拡大も一般的になってくることが予想される。中小企業となれば、身近な相談役として期待されているのが税理士。それだけにM&A仲介会社との交渉業務だけでなく、M&Aにおける税務戦略など、専門性を活かしたサポートも手掛けていきたいところ。この分野に力を発揮できれば、収益性の高い分野にビジネス領域を拡大できる。“中小企業のM&A”をキーワードに、どういった関与の仕方があるのか、経営者ニーズを考えながら、2020年は会計事務所の事業戦略を考えていきたいところだ。
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