租税回避地とは、法人税や所得税などの税率がゼロか極めて低い国や地域のことをいい、「タックスヘイブン」とも呼ばれています。租税回避地を巧みに利用し税負担を免れる企業が後を絶たないことから、税務当局も情報交換制度などを活用し、実態の解明に努めています。

租税回避地(タックスヘイブン)としては、香港、シンガポール、ケイマン諸島、英領バージン諸島、バミューダ諸島、ガンジー島、ジャージー島などがよく知られています。こうしたタックスヘイブンにペーパーカンパニーを作り、利益を日本から税金のかからないタックスヘイブン国に移転するといった租税回避が社会的な問題となっています。
以下の事案は、2019年11月4日の朝日新聞で報道されたもので、タックスヘイブン国に設けたペーパーカンパニーを使った租税回避が「外国税務当局との情報交換」により明らかとなった事案です。
新聞報道事例
使途秘匿2.7億円 制裁課税
高額薄膜大手 会長親族らに還流
光学薄膜装置メーカーであるⅩ社が国税局の税務調査を受け、租税回避地の会社を使って約2億7千万円を会長の親族や同社幹部に還流させていたと指摘されたことがわかった。香港の税務当局の協力で資金の流れが分かったが、同社が最終的な支払先を明かさなかったため、「使途秘匿金」として制裁課税を受けたという。
租税回避地を経由 国税指摘
同社や関係者によると、同社は租税回避地のマーシャル諸島共和国に登記された会社と取引契約を結び、2012~15年に販売手数料の名目で約2億7千万円を支出。
だがこの会社は営業実態のないペーパー会社で、香港の金融機関の口座を使っていたため、その後の資金の流れが分からなくなっていた。
国税局は、香港の税務当局に租税条約に基づく情報交換を要請。口座の入出金の明細などが開示され、Ⅹ社の会長の親族や同社幹部らの口座に資金が流れたことを把握したとみられる。
同社は税務調査に対し、売り上げの多くを占める中国での営業活動や受注工作に資金を使ったと説明したが、具体的な支払先は「領収書をもらっていない」「ビジネスに支障が出る」などとして明かさなかったという。
国税局は、マーシャル諸島のペーパー会社への支出は経費とは認められず、仮装隠蔽(いんぺい)を伴う所得隠しにあたると指摘。さらに支出額の40%を追徴する使途秘匿金課税の対象にした。[…]
進展するタックスヘイブン国との情報交換
この事例は、香港の金融機関の口座に販売手数料が送金されたことから、香港の税務当局に口座の入出金情報等の提供を要請し、香港当局から開示された情報をもとにタックスヘイブン国に支払われた資金の流れを解明した事例です。
今回活用された情報交換制度では、調査に必要な情報の収集・提供を外国税務当局に個別に要請することができ、具体的に次のような情報が入手可能とされています。
・海外法人の決算書及び申告書
・海外法人の登記情報、
・契約書やインボイス等の書類
・海外の銀行預金口座情報
・海外法人における経理処理が分かる書類
・外国税務当局の調査官が、海外法人の取引担当者からヒアリングした内容
多くのタックスヘイブン国とは「情報交換協定」を締結しているため、上記のような幅広い情報を国税当局は入手することができます。
さらに、昨年9月からは、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税や租税回避に対処するために、世界各国の金融口座情報を各国の税務当局間で自動的に交換するCRS(共通報告基準)と呼ばれる制度がスタートしました。CRSで交換される情報は、主として預金、有価証券、資産性のある保険等に係る収入(利子、配当等の年間受取総額等)と12月31日時点の残高となっています。
このCRSにはタックスヘイブン国の多くが参加しており、今後、タックスヘイブン国から収集した情報により不透明な取引の実態解明が進むものと思われます。
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