新連載!その手があったか 酒井威津善の【儲けのヒント】をスタートします。新しい事業を考える(もしくは既存事業を見直す)上で、ポイントとなるのが「これまでにない切り口」をどうやって見つけるか、です。そこで、この切り口を見つけるための様々な発想方法についてご紹介していきます。第1回は、「キーワード」です。

キーワードとは何か

起業や新規事業の立ち上げに関するご相談で、ときおり「特に内容は決めていない」「とにかく今の事業とは別の業種にしたい」といったお話を受けることがあります。そうしたときによくご提案しているのがこの「キーワード」を使った発想です。

ご承知のとおり、ビジネスは、「どこで(Where)」「だれに(Who)」「何を(What)」「どのように(How)」「いくらで(How much)」の5つの要素で構成されています。この中で最初に決めるべきは「どこで」。いわゆる「事業ドメイン」です。ここが決まらなければ、「だれに」、「何を」が決まらず、さらに「どのように」など他の項目が決まらないからです。

では、事業ドメインはどのように決めるのか。一般的なセオリーだとよく「市場」から考えるのですが、お勧めしていません。

例えば、宿泊(市場)。市場から考えると、「ホテル」や「旅館」といったカテゴリーが思い浮かびます。ところが、実際の利用者(ユーザー)は、その抱えている状況や持っている価値観によって、立地や価格、オプションといった視点で宿泊先を選んでいます。急遽、出張が決まった。できれば相手先の企業に近いところがいい、価格は出張手当で収まるところがいい、といった具合です。

利用者は「ビジネスホテル」や「シティホテル」という市場から選ぶことはほとんどありません。極端な話に聞こえるかもしれませんが、「近いところ」「手当内で収まる」のであれば、いわゆるホテルでなくてもいい。それが利用者の観点です。同様に「ランチ」は飲食店で昼時に提供される「お昼の定食」とは限らず、利用者にとってはお昼を満たしてくれるのであれば、「コンビニのおにぎり」や「手作りのお弁当」でもよいのです。

「宿泊」という市場ではなく「出張」、「ランチ」ではなく「お昼に食べるもの」といった利用者の利用シーンから事業ドメインになりそうな言葉を選び出す。それが「キーワード」です。

2つのカテゴリーとドリルダウン

キーワードには「個人」「企業(団体)」の2つのカテゴリーがあります。
どのようなビジネスであっても利用者(ユーザー)となるのはこのいずれかに収まるからです。いわゆるBtoB、BtoCのことですね。まずは、比較的イメージしやすい「個人」にまつわるキーワードからご紹介します。

「個人」にまつわる利用シーンは、日常か非日常の2つしかありません。いわゆる「ライフスタイル」と「ライフイベント」です。ライフスタイルはいわゆる「毎日の生活」のこと、ライフイベントは人生において1度、多くても2、3度しか遭遇しない「非日常的な出来事」です。それぞれ、次の図のように細分化することができます。

1つ1つの言葉の意味は割愛します。

重要なことは、これらのカテゴリーをさらに「ドリルダウン(掘り下げ)」し、事業ドメインになる「キーワード」を探し出すこと。なお、掘り下げる際の補助線となるのが「利用シーン」です。

例えば、「仕事」におけるシーン。例えば、海外の取引先から英文の契約書が届いた。客先でトラブルになった。営業のプレゼンでうまく行かなかった。提案書がわかりづらいと言われた、などが思い浮かび、仕事から「英文の契約書」「営業のプレゼン」といったキーワードが導くことができます。さらに、「英文契約書の作成やチェック」といったキーワードへ掘り下げることもできます。

こうしてドリルダウンを進めていくことで、キーワードがさらに先鋭化され、結果、これまでにない、より独自性の高い「事業ドメイン」を選び出すことにつながっていくのです。

利用シーンから導き出した好例

北海道砂川市にある有限会社いわた書店が提供する一万円選書(http://iwatasyoten.my.coocan.jp/99_blank.html)という画期的なサービスをご存知でしょうか。忙して本屋に行く暇がない、いつも同じような本を選んでしまう、どんな本を読めばいいかわからないといった読者のために、1万円分の本を代わりに選ぶというサービスです。テレビなどでも大きく取り上げられ、現在の受付は年数回の抽選式になるほどの成功ぶりです。

このサービスを一言で言い換えると、「書籍購入代行サービス」です。「本が選べない」「本を買う暇がない」という利用シーンから、「購入代行」というこれまでになかったキーワードを選びだした見事な切り口です。

「書店市場」「出版市場」というからの発想では、到底こうした画期的なアイデアにたどり着けないのはおわかりいただけると思います。提供者側の概念である「市場」ではなく、読者が書店を利用する際(利用シーン)から掘り下げて、そこから事業ドメインになりそうな「キーワード」を選び出す。今、新しいビジネスを検討しているのであれば、新たな切り口の発想方法としてぜひ、使ってみてください。


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