10年後、今ある職業の47%がなくなるー2014年にオクスフォード大学のオズボーン准教授が論文でこう発表すると、そのセンセーショナルな言葉に世界が反応した。この論文のタイトルは『雇用の未来—コンピューター化によって仕事は失われるのか』。702の職種について、コンピューターに人間の仕事が奪われる確率を試算したものだ。その中には、税務申告書代行者や簿記、会計、監査の事務員といった記述もある。果たして税理士の仕事は、AIに奪われるのか。後編である今回は、今後税理士に求められる資質とは何かを探っていく。

税理士の「なくなる」仕事
前回述べた通り、AIの台頭によりクラウド会計ソフトはさらに進化し、RPAを導入できる場面が増えることによって税理士の業務はさらに効率的になっていく。現時点でも、クラウド会計ソフトで行える業務の例を挙げてみよう。
- ・水道光熱費や家賃など、定常的な支払
- ・レジとの連動による日々の売上計上
- ・ICカードとの連動による交通費の自動計上
- ・給与計算ソフトとの連動
つまり、記帳代行など定型業務はクラウド会計ソフトが得意とする分野なのである。
また、将来的にはAIとRPAを組み合わせて伝票から取引内容を読み取り、勘定科目を判別する仕分け作業も可能になるかもしれない。
税理士の「なくならない」仕事
AIに奪われない税理士業務としてよく言われるのは、税理士の営業力、人間力が必要になるコンサルティング業務だろう。オズボーン准教授の論文でも、会計業務の中でも管理会計といった会社の経営へ参与するような仕事はAIに代替されにくいとされている。
クライアントとコミュニケーションを取りながら信頼関係を築き、経営について相談される。事業計画・経営計画についてアドバイスをする。AIにできないコミュニケーションは、人間である税理士にしかできない仕事であると言える。
交渉という面でいえば、調査官との交渉力が必要となる対税務調査も、AIだけでは乗り切れない。というのも、AIを駆使したクラウド会計システムでは全て経費として処理されてしまう。通常ならとても経費として落とせない個人的な飲食代も、クラウド会計システムで領収書を読み込めば交際費になってしまうのだ。クラウド会計だけに任せられないのは明白である。
また、故意でなく経費にされてしまう、ということは、悪意を持って粉飾などの不正会計を行うこともできる。こうした不正会計の抑止力となるのは、AIではなく生身の人間である税理士だろう。
今後税理士に求められる資質とは
記帳代行といった単純業務がAIに替わられる中、税理士に求められる資質とは何か?それは人から信頼される誠実さや人としての魅力、そして顧客のニーズを引き出し、キャッチするコミュニケーション能力だろう。
会計処理は全ての企業で同じように行われるものではなく幅も広い。細かい原価計算が必要な企業や、会計処理を財務諸表として銀行からの融資を得たい企業――。顧客である企業が自社のどのような部分を見たいと思っているのかをしっかり把握することによって、その会社が求める会計処理が可能になる。これにはAIにはない力、コミュニケーション能力が欠かせない。
また、これまで税理士の中心業務であった申告書の作成代行は、AIが担う部分も大きくなると予想される。しかしAIを「仕事を奪うもの」として距離を置いてしまうのはもったいない。単純な記帳代行をAIに任せ、その分の時間でコンサルティング業務を行う方が効率的だ。
企業の財政状況のプロである税理士へ、相談したいと考えている中小企業の経営者は多い。経営をかじ取りするための頼れるパートナーとして、事業の根幹に関わる部分にまでアドバイスできるコミュニケーション力と経験、そして当然のことながら豊富な知識を持つこと。
常に税理士としてブラッシュアップし続けるために、今こそAIによる業務効率化を導入して、他の同業者との差異化を図るチャンスの時ととらえてみてはどうだろうか。
———————————————————————————————————————
◆KaikeiZineメルマガのご購読(無料)はこちらから!
http://go.kaikeizine.jp/l/805303/2019-12-26/kp7rn
おすすめ記事やセミナー情報などお届けします
———————————————————————————————————————