新型コロナウイルスの感染拡大に対処する緊急経済対策に向け、自民党内では「現金給付」か「商品券配布」で綱引きが続いている。党内では、「所得制限付きの現金給付」が有力視されているようだが、合わせて消費税を含めた減税など、踏み込んだ景気浮揚策を政府に求める声が相次いでいるという。

自民党の岸田文雄政調会長はさきごろ、安倍晋三首相から新たな経済対策の取りまとめの指示を受け、党内の取りまとめに入っている。若手を中心に消費税の減税措置や期限付き商品券の配布を求める声も上がっており、「現金給付」か「商品券配布」かの綱引きが続いている。

岸田氏は3月22日、NHKの番組で「現金給付をはじめ国民の手元に直接届く対策を講じなければならない」と国民への直接支援として現金給付を挙げた。

麻生太郎副総理兼財務相は現金の一律給付には消極的で、24日の記者会見では「一律の現金(給付)でやった場合、貯金に回らない保証があるのか」と指摘。商品券配布に意欲を見せた。二階俊博幹事長も現金給付には後ろ向きで、記者会見では「現金給付しなきゃいけないということではダメでしょ」と商品券配布を押している。

一方で、現金を押すグループからは、「商品券は時間もコストもかかる。現金給付が有力な方法だ」と真っ向から反論。現在、「現金給付」か「商品券配布」で綱引きが続いている。

自民党は週明けにも対策を取りまとめる予定だが、公明党などの意見も踏まえると、どうも、岸田氏が一押しの所得制限をかけた上での現金給付や、使途を限定した割引券などが盛り込まれる見通しが強いようだ。

消費税の減税も若手議員などを中心に声も上がっていたが、ここにきてトーンダウンしている感は否めない。岸田氏も「議論を避けるわけではないが、難しさもある」と消極的な考えを示している。

実際、期限付きで10%から8%にもどしても、消費者は減税で嬉しいが、中小企業などの事業者は、対応するだけで混乱することは必至だ。まず、レジなどの機械の対応に時間がかかり、そのコストも無視できない問題だ。昨年10月の改正消費税の施行時も、対応が間に合わない中小企業も少なくなかった。10%で設定した商品を、また8%に入力し直すだけでもかなりの時間が必要となる。

また、8%にもどしても、実は新8%と旧8%では、国税と地方税の分配率が違うため、実務処理においては、かなりの負担になることが容易に想像される。従来の消費税8%においては、国税と地方税の割合は6.3%と1.7%だったが、昨年10月からは、6.24%と1.76%になった。本税の10%部分は7.8%と2.2%に分けられている。これらを、明確に分けて記帳しており、減税になった場合は、国税と地方税のどちらを減らすのか、こうした議論の不可欠になり、実務的な処理においても計算などが複雑になってくる。

経済的に見て消費税率の一時的な引き下げは、一時的に消費支出を集中させ、景気を刺激するメリットあるものの、引き下げ前後を含めた期間に消費の振幅が生じてしまう可能性が高い。景気の押し上げで需要を集中的に増やす狙いがあるなら、消費税の減税政策もいいかもしれないが、慎重な対応が求められる。消費減税については、いったん税率を引き下げると元に戻すことが難しいのではないかとの指摘もあり、識者や専門家からは租税特別措置を利用すれば、期限を区切っての税率引き下げも可能との指摘もある。とはいうものの、前述したとおり、消費税をいじるとなると、実務的に事業者の負担が増すばかりで、中小企業に対してのダメージは新コロナウイルスとダブルでのしかかってくる。もちろん、消費税処理のミスも増えることが予想され、税率を10%に戻したときの混乱も予想される。ちなみに、税理士の任意保険である税理士職業賠償責任保険の事故として、最も保険金請求が多いのが消費税だ。税の専門家ですら消費税においては誤りが多いのだから、それを中小企業経営者にやらせようというのは酷な話だ。景気対策は期待したいが、消費税については実務に精通した専門家を含め十分な議論が必要だと言える。

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