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旅好きにおすすめ?監査法人の非常勤という生き方(後編)

前編では、監査法人における非常勤勤務の概要をご紹介してきました。後編では、非常勤という働き方のメリットやデメリット、そして、僕が旅好きな人にとっておすすめと考える点について記載していきます。

非常勤勤務のメリット

・自由

なんといっても「自由であること」、これがメリットだと思います。監査という業務内容はともかくとして、勤務先を変える、あるいは所属するチームを変えるといったことは比較的容易です。またスケジュールについても、自分の予定を優先できますし、その他、例えば、クライアントの場所が自分の家から遠いのでオファーを断るなども可能です。

依頼された業務をやるかやらないか、いつどこで、誰と一緒に働くのか、自分の意思で(ある程度)決めることができる。これはサラリーパーソンだとなかなか難しいことなのではないでしょうか。

また、組織に属していると、人間関係や間接業務など、本来の仕事と直接関係のないところでストレスが生じることは否定できないでしょう。こういったことを苦にしない人は別として、負担になってしまう場合、非常勤であればこの手の悩みからは逃れやすいと思います。もちろん完全に人間関係の悩みから解放されるなんてことはないでしょうが、少なくともかなりの程度、これらの悩みは軽減しうるのではないでしょうか。

もちろん、その裏返しではありますが、組織に所属しないということは、何かあっても自分のことは自分で守らなくてはならないとも言えます。そのためには専門技術のアップデート、営業力の向上や差別化戦略、収入の複線化や金融資産の増加など、普段からのリスクヘッジが必要となるでしょう。

・休暇

終身雇用や年功序列といった伝統的な雇用形態は変わりつつあるとはいえ、冒頭に述べたように、現在でもまとまった休みはとりづらいと感じる方はたくさんいるのではないでしょうか。監査法人で勤務していると、閑散期に2~3週間休めることもあるでしょうが、それ以上となるとさすがに難しいかもしれません。この点、非常勤という雇用形態だと、この悩みは簡単にクリアできます。

こちらも先述した通り、監査の特性上、業務の波が存在します。落ち着いている時期は、特にオファーがない状況もあり得ますので、時期によって、まとまった休みが比較的とりやすいと考えられます。そのため、人によっては2ヶ月程度、またそれ以上、仕事をしないという選択も可能ではないでしょうか。

実際に非常勤で働いている方に話を聞いていると、四半期決算の間に短期の語学留学をしたり、海外リゾートでのんびりしたり、といったケースもあるようです。プライベートを重視する僕にとって、何とも羨ましい生き方に感じられます。

・高単価

現在、東京都の最低賃金は時給1,013円となっており、僕が学生のころと比べるとかなり上昇している印象です。それでも、前述のとおり非常勤の一般的な単価は時給5千円~8千円程度であり、かなり割のいいバイトであると言って差し支えないでしょう。もちろん難易度が高いのだから単価が高いのは当然、医師の当直バイトなどはもっと高い等々、色々と意見はあるかもしれません。とはいえ平均的なバイトの時給と比べて数倍という事実は、それなりに魅力的ではないでしょうか。

この点でも、プライベートにより長く時間を割きたい場合、非常勤は効率のいい選択に思えます。労働時間あたりの収入が高いということは、すなわち少ない労働時間でもそれなりの報酬を得ることが可能ということです。

国税庁の「平成30年分 民間給与実態統計調査」によると、平成30年度の平均給与は441万円となっていますが、例えば日給5万円(6,250円×8時間)とした場合、平均給与を得るには88日程度が必要となり(5万円×88日=440万円)、これを週に換算すると、週2日程度となります。社会保険等を無視した大雑把な計算ではありますが、週2日の勤務で平均年収に届くのは、個人的には悪くないように感じます。

ちなみに僕が2年かけて世界一周をしていた頃、夫婦二人での総費用は約5百万円でした。この時は円安が進んで1ドル120円程度だったため、今だともっと抑えられます。これを一つの例とすれば、仮に独身で節約が身についている等、生活コストを安く抑えることができる場合、四半期ごとに1か月間働き、残り2か月は旅をするという生活も十分可能ではないでしょうか。

・監査経験

会計士及び会計士試験合格者の多くは監査法人での勤務経験があることを踏まえると、従来のキャリア、つまり監査業務の経験を直接的に生かせることもメリットではないでしょうか。監査法人が変わると業務マニュアルも変わるとはいえ、あくまで同じ監査業務であって、監査基準等、基本的な要求事項は変わりません。とすると、過去にやってきたことが概ねそのまま通用すると考えられます。従って事業会社の経理部門などに比べても、違和感なく始められそうです。

またマニュアル、実施手続自体がある程度明確化されているケースが多いこともメリットと感じられます。しばらく監査業務を離れていたとしても、過去の経験と明確なマニュアルがあれば、大きな苦にはならないのではないでしょうか。

非常勤勤務のデメリット

・不安定

バイトの宿命ではあるのですが、収入やスケジュールは不安定なものにならざるを得ません。直前まで次のスケジュールが見えなかったり、思ったほど仕事がなく収入を直撃したりといったケースも十分に想定されます。

こういった不確実性が苦手で落ち着かないという人にとって、当然、非常勤という雇用形態は好ましくないことになります。

またリーマンショックのような経済危機が来た場合、不安定さは増すことになるでしょう。当時は大手、中堅の監査法人でもリストラが進み、解雇の対象となった方が非常勤を希望することで競争相手が増え、さらに単価も下がったと聞きます。

この記事を書いている4月初めにおいて、今後コロナウイルスがどのように、どの程度まで経済活動に影響していくのか分かりません。ですが、景気動向が非常勤勤務に大きく影響することは否めず、興味のある方は今後の状況を注視する必要があると思います。

・スキル、キャリア

こちらもアルバイトである以上、長期的なキャリアにプラスになるか、スキルの向上が期待できるかと言われると、何とも言えないところです。非常勤である以上、契約先がキャリアを気にかけてくれる訳ではないですし、人によっては業務が物足りずスキルアップにつながらないという意見も聞きます。

とは言え、専門職である以上、こういったことは一義的に本人が考えるべきでしょうし、その人の向き合い方によっては、その先に活かすことができるような気もしますが、いかがでしょうか。

・監査業務

監査法人での業務を経て、監査が合わないと考えて退職する人の話はしばしば耳にします。こういった人は、他にメリットがあるとしても、再度監査業務に従事するのは望まないと考えるかもしれません。このあたりは、当人がどう判断するか、仕事は仕事と割り切るかどうかかと思います。

事業会社の経理部門にいて感じたのは、報酬という点から見ると、独占業務はやはり有利だということ。参入障壁が高く、寡占化すら囁かれる監査業界は、サービス提供側の価格交渉力が比較的強いように感じられます。ということは、そこで働く人も高い報酬を得やすいことは間違いのないところです。

割り切って仕事に臨むことができる人にとって、(好きではないけれど)高い報酬を得やすい監査を続けるという選択は経済合理的に思えますが、ここは個々人の価値観によるかもしれません。

・責任

任される業務や責任が比較的軽いことから、仕事とするには物足りないと感じる人もいるようです。この点も、その人次第というところがあり、物足りないとする意見がある一方、責任が軽い仕事の方がいい、という意見もあるでしょう。

確かに仕事にやりがいや大きな責任などを求める場合、一般的にアルバイトという雇用形態は合わない印象です。とはいえ、非常勤でもインチャージ(現場責任者)を担うケースもあるようですので、所属する法人や担当パートナー次第では、クリアできる可能性もあります。

 

以上、監査法人の非常勤勤務の概要、そしてメリット、デメリット及び旅好きな人にお勧めと考える点をまとめてみました。現在のような景気の先行きが不透明な状況では、正社員としての安定性はとても大きなポイントに感じられるかもしれません。ですが、今回の記事を通じ、非常勤という働き方があるということ、そして資格を活かすことで比較的自由に生きる道もあることを知ってもらえると幸いです。

著者: 石塚皓

旅人会計人

2006年に大学を卒業。事業会社へ就職し、「専門的な技術、知識を得たい」との思いで公認会計士試験の勉強を開始。2009年試験合格とともに監査法人に転職し、4年ほど国内監査業務に従事し2014年に退職。その後約2年間、夫婦で世界一周の旅を経験して帰国した旅人会計人。

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