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投資意思決定モデルを用いた国家資格のコスト・リターン分析(第2回)

第1回では会計士、税理士、弁護士、司法書士、行政書士及び社会保険労務士(社労士)の6資格、そして医師について、資格の取得にかかるコストや年収、生涯収入といったリターンを見た上で、投資利益率法と回収期間法に基づくコスト・リターン分析を実施しました。第2回ではさらに分析を進めていきます。

4.コスト・リターン分析

(3)割引キャッシュフロー法に基づく正味現在価値の分析

コスト・リターン分析の最後に、企業価値評価などでよく用いられる割引キャッシュフロー(DCF = Discounted Cash Flow)法に基づく正味現在価値(NPV = Net Present Value)を見ていきます。

正味現在価値=割引キャッシュフロー-コスト
* 22歳時点を現在と想定
* コストは現時点で一括して負担と仮定
* 収入とキャッシュフロー(CF)の月ズレは通常1か月程度のため、収入=CFと仮定
* 割引CFは各年度の手取年収を現在価値に割り引いた金額を合計して算出
* 各年度の年収は平均年収で一定と仮定
* 勤務年数は資格取得にかかる年数等を加味して算出
* 割引率は5%

DCF法に基づくNPVの分析では金額が高いほどリターンが大きく、投資案件として好ましいことを示します。

NPVによる評価でも会計士が1位となっており、金額にすると1億1千万円となっています。年収、生涯収入ともに2位であることに加え、資格取得までの期間が3年程度と比較的短期間であり、早いタイミングから収入を得やすいことから割引計算の影響が少なく、その結果、DCF、NPVともに1位になっています。

2位の弁護士は年収、生涯収入とも1位であるものの、ロースクールと司法修習を前提としていることから収入を得るのが比較的遅く、その分、割引計算の影響を大きく受けることでDCFは2位、またコストも高いことからNPVでも2位となっています。なお弁護士まではNPVが1億円を超えています。

3~6位については年収、生涯収入の順位と同じ結果になっていますが、割引計算がその差に影響しています。3位司法書士、4位行政書士は収入を得るタイミングが早いものの、5位税理士は逆に遅く、したがって割引計算がNPVの差を広げています。6位の社労士は割引計算の影響こそ軽微であるものの、年収、生涯収入ともに6位であることが響いています。

医師を見てみると、年収・生涯収入の高さからDCFでは会計士、弁護士を上回っています。ただし医師と会計士の差は900万円であり、割引計算前の手取生涯収入の差4700万円と比べると大きく縮まっています。これは医師の場合、大学が6年制であることに加え、卒業後2年間に渡って収入が比較的少ない研修医を経る必要があり、フルに稼げるタイミングが遅くなることから、結果として割引計算の影響を大きく受けるためです。さらに初期投資としての学費の影響を受けて、コスト控除後のNPVでは会計士と弁護士を下回っています。

DCF法に基づくNPVについては、計算にあたっていくつか前提・仮定が必要であり、その条件次第で結果が左右されるという特徴があります。上記計算では「毎年の収入=平均年収」「割引率は5%」といった仮定を置いて計算していますが、実際に毎年平均年収を得る人はほぼおらず、少なからず年功序列の影響を受けると思われます。さらに各資格で割引率が同じでいいか、そもそも5%という率自体正しいのかといった論点はあります。ただし前提条件さえ正確に設定できれば有用な指標と言えます。

参考まで、割引率を3%とした場合のNPVを記載しておきます。

割引率を5%から3%に変更した結果、例えば会計士のNPVは1億1千万円から1億6千万円へと4500万円もアップしており、割引率、そして時間価値の影響の大きさが分かります。

今回のように40年以上に渡る経済的価値を分析する場合、時間価値は無視できない要素となります。一般的に「高収入な職業」「稼げる資格」などと表現されていても、割引計算の影響を加味すると想定ほどの経済的価値はないかもしれません。

最後に、投資利益率法、回収期間法、NPVの分析、それぞれによる順位と評価結果を改めて記載しておきます。

* いずれも手取(税引後)ベース
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