第1回、第2回では6つの国家資格と医師資格についてコスト・リターン分析を行い、その上で超過収入という考え方を取り上げました。第3回では、超過収入に基づいてコスト・リターン分析を実施します。
6.コスト・リターン分析(超過収入ベース)
(1)投資利益率法
まずは手取りの超過収入(生涯収入ベース)に基づく投資利益率法にて分析を行います。なお、以降についても、額面(税引前)ではなく手取(税引後)の金額を対象としています。
投資利益率(%)=利益(超過収入-コスト)÷コスト×100
* 超過収入は手取(税引後)生涯収入
社労士の超過収入がマイナスとなっていることから税理士と入れ替わっていますが、それ以外は純粋な生涯収入ベースの利益率と順位に変動はありません。しかし、利益率を比べると、会計士、弁護士はおおむね半分、司法書士は1/4、行政書士は1/8、そして税理士は1/9にそれぞれ減少しています。また医師についても半分に減少しています。
大きく下がったとはいえ、それでも会計士、弁護士、司法書士はまだまだ魅力的な数値に見えます。また利益率こそ低いものの、絶対値で見た場合の医師資格は投資額3,500万円に対して1億8千万円のリターンがあり、こちらも悪い数値ではありません。
それ以降の順位に目を向けると、行政書士、税理士の利益率はそれほど悪くないのですが、やはり上位と比べると見劣りします。またコスト控除後の絶対値で見ると行政書士2,300万円、税理士1,700万円のリターンにとどまり、40年かけて得られると考えるとやや物足りないかもしれません。
社労士については生涯収入ベースの超過収入がマイナスになっていることから分かる通り、投資案件として好ましくないものとなります。あくまで平均に基づく推定値ではありますが、それでもこういった数字を頭の片隅に入れた上で将来について検討するのが望ましいのではないでしょうか。
(2)回収期間法
次に年収ベースでの超過収入に基づく回収期間を見ていきます。
回収期間(年)=コスト÷超過収入(年収)
回収期間が短いほどかかったコストを早く回収することができ、したがって数字が小さいほど評価が高いことは見てきたとおりです。上位の会計士、弁護士は2年弱、司法書士は3年強でコストを回収できることになります。
中位以降では超過収入が大きい税理士が順位を上げて4位となり、行政書士は一つ順位を落として5位となっています。この2つはコストの回収に5年程度かかることになります。一方、社労士については超過収入が少ないため手取ベースでの回収期間は36年以上の長期に渡ることが分かります。
社労士の回収期間36年という数字はかなり驚きです。ここで想定している労働年数は44年間ですが、その8割を資格取得に費やしたコストの回収にかける必要があることになります。
社労士ほどではありませんが、税理士の5.0年、行政書士の5.7年も長い印象です。特に税理士については資格取得までの期間が長くかかった上、さらに投下したコストを回収するだけで5年間が必要となると、一般的に費用を回収できるのは30歳過ぎとなります。もちろん成功すれば数千万円の年収も可能でしょうが、上記の推定値を見ると、これらの仕事は早期に大きな収入を求める、FIRE(Financial Independence, Retire Early 経済的自立と早期退職)を目指すといった人ではなく、長期的に安定して続けることでリターンを得るようなケースが適切かもしれません。