移転価格税制は海外の関連企業との取引について、第三者間で成立する価格(独立企業間価格)で行なうことを求めるものです。日本では、独立企業間価格の算定方法として6つの方法が規定されています。移転価格税制を理解するためには、独立企業間価格の算定方法の仕組みや考え方をよく知っておく必要があります。今回は算定方法の一つである「CUP法」を取り上げます。

独立企業間価格の算定方法の全体像

独立企業間価格(ALP: Arm’s Length Price)とは、独立した第三者間で行われた場合に成立すると認められる価格をいいます。

ところで、“Arm’s Length Price”がなぜ、独立企業間価格になるのでしょうか。Arm’s Length は文字通りには「腕の長さ」ということですが、ここから『腕の長さを保った距離→一定の距離を置いている→親密な関係ではない→関連者間ではない』ということになるようです。

移転価格税制では、6種類の独立企業間価格の算定方法が決められており、この中から個々の事業の状況に応じて最も適切な方法を選ぶこととされています。これを「ベストメソッドルール」と呼んでいます。

これらの算定方法のうち、①~④と⑤でアプローチの仕方が異なります。

①~④は、関連者間取引と第三間取引とを何らかの形で比較することにより独立企業間価格を求めるものです。「価格」そのものを比較するのが①、「粗利益率」を比較するのが②と③、「営業利益率」を比較するのが④となります。

⑤は、日本の会社と国外関連者の営業利益を合算し、それを合理的な基準で分割することにより独立企業間価格を求めるものです。

なお、⑥については、BEPSプロジェクトの提言を踏まえ、平成31年度の税制改正で新たに認められた方法で、無形資産の譲渡価格を算定する場合などに用いられる手法です。

独立価格比準法(CUP法:Comparable Uncontrolled Price Method)

独立価格比準法(CUP法)は、国外関連取引と比較可能な第三者間取引の価格を独立企業間価格とする方法をいいます。

すなわち、国外関連取引と比較対象取引の「価格」そのものを比較する方法です。

<図1>において、A社とB社との間の取引の独立企業間価格を算定するにあたり、第三者間の取引(比較対象取引)において同種の商品が150円で販売されていた場合には、独立企業間価格は150円と算定されます。

国外関連者との取引では、これを120円で販売していることから、独立企業間価格との差額の30円が所得移転額として課税されることとなります。

<図1>のような第三者間で行われている同種の棚卸資産取引の情報が入手できない場合であっても、<図2>のようにA社が、国外関連者に販売する商品と同種の商品を同じ条件で第三者に販売している取引があれば、この第三者との取引価格が独立企業間価格となります。

一般的には、<図2>のような企業内部の比較対象取引のほうが探しやすく比較可能性も充足しやすいといえます。

独立価格比準法は価格そのものを比較する方法ですので、独立企業間価格を算定する最も直接的な方法で、信頼性が高い方法といわれています。それゆえに、この手法を適用する場合には、商品や取引段階(小売段階か卸売段階か等)、取引数量、取引条件等において、高い類似性が求められます。

そのため、同種の棚卸資産を扱う比較対象取引を見つけることは極めて難しく、棚卸取引についてCUP法が実際に適用されるケースは少ないといえます。

一方で、金融取引(例えば、海外子会社への貸付金利)においては、金融市場の相場から、比較対象取引を見つけることができる場合があります。よって、貸付金の金利等についてはCUP法を適用できる可能性は高いと思われます。

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