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IPO担当者必見!内部統制構築の奥義【第1回】どこから何をすればよいのか?

この連載では、IPOを目指すJ-SOX導入プロジェクトを担当される方々が、具体的にどのようなアクションをとればよいかを説明します。
IPOを目指す際に、最も苦労する作業といわれるJ-SOX導入。ここでは「J-SOX導入プロジェクト」を担当される実務家の方が「何をすれば良いのか」、「どのように進めれば良いのか」といった具体的なイメージを描けるよう、実際のゴールとなる「成果物」に焦点を当てて話を進めたいと思います。

IPOを達成した会社の中で「J-SOX対応プロジェクト」の負担は軽かったという感想で終わる会社は極めて少ないのではないでしょうか。

今回はこれからIPOを目指される方々に向けて、最も苦労するといわれるJ-SOX導入について、具体的に「何をすれば良いのか?」をお話ししたいと思います。

一般的に、J-SOXの説明は、制度の話が多いと思います。

制度の正確な説明に焦点が当たると、実務家の視点からは、「結局、何をすれば良いのか」が分からないまま終わってしまいます。分厚い教科書を渡されて、「どこを覚えたらいいですか?」と聞いたときに「全部」と答えられると手が止まります。具体的に、「まずは全体像となる、この図を覚えましょう」といわれると第一歩が踏み出しやすくなります。正確に理解するというゴールセッティングからは「全部」という回答はその通りですが、短期でプロジェクトを終了させなければならない、「具体的なアクション」を知りたい実務家の方への説明としてはあまり親切ではない回答となってしまいます。

ここでは「J-SOX導入プロジェクト」を担当される実務家の方が、具体的に「何をすれば良いのか」、「どのように進めれば良いのか」のイメージを持っていただくことを目的として、実際のゴールとなる「成果物」に焦点を当てて話を進めたいと思います。

複数回の連載となりますので、毎回、「一論点」で記載したいと思います。

J-SOX対応とは何か

J-SOX対応とは内部統制を構築する作業です。構築された内部統制は、第三者である監査法人により、①適切に設計されているか、②適切に運用されているかを確認してもらうことが必要となるため、第三者が検証可能な成果物(SOX文書)を作成していくことが求められます。

内部統制を「SOX文書」としてアウトプットし、「SOX文書」通りに実務が行われているかも検証対象となるため、業務フローがあいまいな状態が許容されないだけでなく、会社を構成するメンバー全員が関係者になってしまうためJ-SOX対応はとても大変な作業となります。

実務レベルでの実施内容をざっくり捉えますと「内部統制の整備」、「整備した内部統制の文書化」、「文書化した内部統制のテスト」の「3つの作業」を実施することとなります。

なぜJ-SOX対応が必要なのか

J-SOX対応は、金融商品取引法が求める制度規制への対応です。金融商品取引法が求める「内部統制報告書の提出義務」に対応が義務となるため、IPOを目指す会社は避けることができないプロジェクトとなっています。

J-SOX導入プロジェクトで最初にやること

J-SOX導入プロジェクトで最初にやること、それは、「3点セットを作る」です。

これは、「J-SOX対応とは何か」で記載しました「3つの作業」のうち、「整備した内部統制の文書化」にあたります。IPOを目指す会社において、J-SOX導入プロジェクトの最終的な成果物がこの「3点セット」となります。J-SOX導入プロジェクトにアサインされた場合、J-SOXにかかる多くの情報を集めながらも、まずは成果物となる「3点セット」の完成に向けた手を打っていくことが重要です。

3点セットとは何か?

「3点セット」とは、「業務記述書」、「フローチャート」、「リスク・コントロール・マトリックス」の3つの文書をいいます。実務ではSOX文書の「3点セット」という表現がよく利用されます。「フローチャート」は「業務記述書」の内容をフロー図にまとめたものとなりますので、実際は「業務記述書」、「リスク・コントロール・マトリックス」の2つが完成できれば実質的に3点セットの作成が完了します。それぞれの簡単な説明と成果物のイメージは以下です。

「業務記述書」:業務のプロセスを文書にしたもの
「フローチャート」:業務のプロセスを図で書いたもの
「リスク・コントロール・マトリックス」:財務報告に虚偽の記載が発生するリスクとそれに対応する統制をマトリックス上に整理したもの

※各イメージ図は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」(企業会計審議会)より引用

 

すでにJ-SOX導入が完了している上場会社等においても、J-SOX導入時の「3点セット」作成には相当な労力と時間を費やしています。

日本にJ-SOXが導入された2008年は、過去事例がないこともあり、米国のSOX等を参考に試行錯誤の中でプロジェクトを進める状況でした。現在は事例も相応に蓄積され2008年に直面した論点の多くは解消されていますが、依然J-SOXを導入する会社に大きな影響と負担を与える全社プロジェクトである点に変わりはありません。

「3点セット」の作成が大変な理由

理由①:基準に専門用語が多く、具体的なアクションが分からない

J-SOX導入は「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準」という基準に対応できるように、会社の内部統制の整備を進めるプロジェクトとなります。この基準は、ボリューム、専門用語がともに多いため、理解することがとても難しいです。

また、J-SOXの基準は、多くの会社を想定した汎用的な記載となっているため、表現が抽象的とならざるを得ず、基準を自社に当てはめた場合、成果物となる「3点セット」に何を記載すればよいのかのという判断に実務担当者を悩ませることが通常となります。「識別されたリスクの大きさ、発生可能性、頻度等を分析し、当該目標への影響を評価する」との記載があったときに、どのようなものを「リスク」と識別し、どのように「影響を評価」すべきなのかという実務上の成果物への落とし込みの判断がとても難しいのです。

 

理由②:対応可能な人材がなかなか見つからない

J-SOX導入プロジェクトは「スポット」かつ「特殊」という性質があります。2008年に一斉に国内上場会社に導入されましたが、その後については、J-SOX導入プロジェクトの絶対数は圧倒的に少ない状況のため、J-SOX導入経験を持つ人材がそもそも少ないという背景があります。

社内にノウハウを持つ人材がいることは稀であり、恒常的に必要となる業務でもないことから社外リソースを一時的に調達という対応が一般的となります。(J-SOXのノウハウを有する公認会計士等が社内に在籍している場合でも、連結決算等、難易度の高い日常業務に従事しているケースが多く、スポットプロジェクトへの対応工数確保が難しい状態が一般的です。)

また、J-SOXの導入プロジェクトは会社の内部統制(業務フロー)に直接的に影響を与えるため、設計の仕方を失敗すると恒常的な業務効率の悪化を招く場合もあり、経営の観点からも軽視できないプロジェクトという側面もあります。

結果、社外からリソースを調達する場合、J-SOX導入に対応できる人材の絶対数自体が少ない上に、会社の業務効率に気を配り、社風、カルチャーにもマッチする人材を探し出すことはかなり大変な作業となります。

日本国内における法人の数は200万社以上存在すると言われているのに対して、J-SOX対応が求められる上場会社数はわずか3,800社程度です。割合、絶対数からもわかる通り、J-SOX導入の経験者は非常に少なく、情報の保有者が少ないため人選に難航するという点が2つ目の理由です。

 

理由③:監査法人の厳しいチェック

J-SOX対応においては、監査法人という外部の第三者チェックを受けます。自分たちがいくら「これで大丈夫」と思っても、監査法人から「不十分」といわれてしまうと再度検討しなければなりません(監査法人の意見は報告書として公表されるため対応が必要となる)。

よって、J-SOX導入プロジェクトのゴールは、単に「内部統制を構築する」でなく、「監査法人から重要な指摘のない内部統制を構築する」となります。

多くの方にとっては、監査法人は過去にコミュニケーションしたことのない、「不気味な組織」に見えるのではないでしょうか。接する機会の少ない交渉相手から、経験したことのない「内部統制基準」という世界の中で「こちらが問題です、改善してください」と指摘が来ます。個人では解決できない組織レベルの問題提起を受ける場合もあり、多くの関係者を巻き込む大きな対応を求められることも少なくないため、精神的にも負担がかかることがあります。

この点、「3点セット」の作成作業が大変となる最も大きな理由かもしれません。

最後に

J-SOX導入プロジェクトにアサインされた場合、まずは「3点セット」の作成に着手してください。「3点セット」を完成させるというゴールの逆算から、ノウハウを有する必要な人材を社内、社外から選定することが早期完了に向けたポイントになると思います。

J-SOX対応を通じた内部統制の構築は、これまで属人的に完結していた作業に対して相互チェックを追加する等の対応が必要となります。結果、従前の業務フローよりも作業工数が増加することがあります。

J-SOX対応は内部統制を追加するのであるから「業務効率は落ちて当たり前」のような半ば諦めの感覚が一般化されている印象もありますが、この点、「業務効率を落とさず」、かつ「効果的な内部統制をセットすることはできないか」という視点で、多くのアイデアを出し合い、創意工夫の中で「業務効率を落とさず」、かつ「効果的な内部統制をセットする」ことを目指してJ-SOX導入を果たして頂けたらと思います。


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著者: 坂林 弘文

公認会計士、税理士 日本公認会計士協会東京会・税務第一委員会・元副委員長

慶應義塾大学経済学部卒業。金融機関、外資系コンサルティングファーム、新日本有限責任監査法人金融部(公的機関出向経験あり)を経て坂林公認会計士事務所を設立。上場会社、上場準備会社等への内部統制構築支援業務(J-SOX支援業務)を実施。

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