新米経理必見!3分でわかる業務手順 第8回「役員報酬」
役員報酬とは、取締役や監査役をはじめとした役員に対し支払われる報酬のことを示します。従業員に支払われる給与は、毎月変動することが認められている一方、役員報酬は一定のルール内でしか変更することができません。今記事では、役員報酬の改定ルールについて見ていきます。
役員報酬の決め方

役員報酬の設定、変更は、株主総会の決議事項になります。通常、決算日から3カ月以内で開催される定時株主総会で、翌年分の役員報酬を決議することになります。期中に役員報酬の改定を行う場合は、臨時の株主総会を開く必要があります。なお、株主総会実施後には、株主総会議事録を作成、保管することが会社法で要請されています。株主総会議事録がないと、役員報酬の設定、変更の効力が認められない場合があるため、注意しましょう。過去の役員報酬設定・変更時に株主総会議事録を作成していない場合は、バックデートで同書類を作成しておくといいでしょう。
なお、役員報酬には、定期同額給与という基本的なルールがあります。1年間、同額の給与でなければならないというルールです。役員報酬を検討するにあたり、重要な基本的ルールですので、このタイミングで押さえておきましょう。
役員報酬が変更できるのは原則、期首から3カ月以内
役員報酬は原則として、定期同額給与ルールが存在し、1年間同額の金額である必要があることを紹介しました。具体的には、役員報酬を変更する場合には、期首から3カ月以内に株主総会決議を行った上で、変更する必要があります。
役員報酬を期首から3カ月経過後に変更した場合のデメリット
一方、役員報酬を期首から3カ月経過以降に変更した場合はどのようなデメリットがあるのでしょうか。具体的には税金納付額に影響します。
役員報酬は通常、全額が損金(費用とニアイコール)となりますが、期中に変更を行った場合、変更額については、損金として認められません。役員報酬を増額したケースと減額したケースをそれぞれ見ていきましょう。
■役員報酬を増額したケース
例:期首の役員報酬は月40万円、期首から5カ月目に役員報酬を月90万円に増額(翌月以降同額)
この場合、増額した金額50万円の8カ月分、計400万円が損金として認められないことになります。税率が40%の場合、160万円(400万円*40%)、納税金額が増えるかたちです。
■役員報酬を減額したケース
例:期首の役員報酬は月40万円、期首から5カ月目に役員報酬を月10万円に減額(翌月以降同額)
役員報酬を減額した場合は、減額後の役員報酬がベースになり、当該金額が損金に算入できる限度額になります。よって、変更前の月40万円のうち、月30万円*4カ月分の計120万円が損金として認められないことになります。税率が40%の場合、48万円(120万円*40%)、納税金額が増えるかたちです。
例外的に役員報酬を変更できることも
ここまで、役員報酬を期中に変更すると、役員報酬が一部損金に算入されず、税金的デメリットがあることを紹介してきました。一方、例外的に期中に役員報酬を変更しても、役員報酬を全額損金に算入することができる方法が幾つか存在します。
①業績連動給与
業績連動給与とは、役員報酬の金額を、会社の業績と連動させる制度です。算定の基礎となる数値は、会社の利益や株価、売上高が例として挙げられ、いずれも客観的な指標です。要件を満たせば全額損金に算入できるため、経営層へのインセンティブの意味も込めて、制度設計する会社も多いです。
②事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、役員に対して報酬や賞与を、所定時期に所定の金額を支払う届出を税務署を行い、当該支払いを行うことを言います。この支払いが行われるのは専ら、役員に賞与を支給するケースが多いです。他には非常勤役員に対し、半年に一回、役員報酬をまとめて支給する際にも用いられます。
③業績悪化事由に伴う場合
期中に会社の業績が悪化した場合、資金繰り等の影響から、役員報酬の額を止むを得ず減額することもあると思います。その場合、期中に減額しても、役員報酬を全額、損金に算入することができます。
なお、業績悪化事由は、国税庁が以下のように定義しています。若干抽象的な表現になっているため自社の状況が、当該事由に該当するか否かは顧問税理士や税務署に相談するようにしましょう。
- 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
- 業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
④期中に役員の昇格、降格があった場合
期中に一般従業員の役員昇格や、はたまた役員から一般従業員の降格に伴い発生する役員報酬の変更は、適切な理由があるとされ、役員報酬が全額損金として算入されます。
おわりに
ここまで役員報酬の改定ルールについてお話してきました。冒頭でお話しした内容に戻りますが、原則、役員報酬は期首から3カ月以内しか変更することができません。この原則ルール以外の方法で役員報酬を変更するときは、要件が一部複雑なため、国税局のホームページや、顧問税理士に確認しながら慎重に手続きを進めましょう。
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バックオフィス複業マンの経理実務コラム

著者: 篠原泰之
バックオフィス複業マン
1990年生まれ。東京都出身。スタートアップで経営管理業務に従事する傍ら、管理部門構築支援や事業計画策定、執筆活動など、財務経理を軸に幅広く活動している。日商簿記1級保有。