税理士法人とおやまの公認会計士の遠山伊織氏は、有限監査法人トーマツでのIPO支援を経て、税理士法人にて後継者として活躍する実力派会計人。お客様や事務所の仲間から信頼される素敵なお人柄や、これまでのキャリア、後継者として社内で意識をしていることについてお話を伺いました。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 村松)

会計士を志したきっかけは何でしょうか。

遠山:父である遠山秀幸が公認会計士として事務所経営をしていて、小さい頃から、お父さん格好いい、という憧れはありました。とにかく父が仕事に対して楽しそうにしていたことも大きかったと思います。最終的には高校生の時に将来を考えた際に決意しました。

―合格後はトーマツに入所されたのですよね。

遠山: はい。厳しい環境で人より早く成長したいと考えていました。IPO支援のお客様には、稟議や勤怠管理がちゃんとしていない、ワンマン社長の組織であるといった会社がよくあります。そういった会社が、上場に向けて、いろいろな仕組みを導入するお手伝いをしていました。

―IPOとなると、代表と現場の考え方のずれがネックになることも多いと思います。業務の中で、難しかったことなどはありましたか?

遠山:これには今でも深く心に刻まれている経験があります。ある企業が基幹システムを導入して、見積もりから、受注、発注、納品後の料金回収まで、一貫できるシステムを導入しようという動きがあり、これに何千万円も投資をしていました。

しかし、実際に導入してみると、現場にとってとても使い勝手の悪いシステムだった。そこで追加でお金と時間を掛けて、そこからまた1回、2回と仕様変更しましたが、そうしていくうちに管理部門と現場の空気も気まずくなっていきました。信頼関係が崩れて、溝ができていったのです。結局、このシステム導入は頓挫してしまいました。

今振り返ってみると、その頃はシステム導入について、承認フローがきちんと組めていれば上手くいくと思っていました。しかし実際には、承認フロー以前に現場と管理部門がきちんとコミュニケーションを取れていることが必要だったのです。誰でも、自分の仕事の段取りを十分な説明を受けないまま変更されたら嫌ですからね。この経験から、事前に十分な説明をすることと、丁寧に段取りをすることを意識しています。何か新しいことを始める際にトップダウンで決定をしても、現場まで落ちていきません。まず現場の苦労を聞き、ねぎらって、同じ目線で考えることが大切だと痛感しました。

税理士法人とおやまでのキャリア

修了考査に合格されたあと、すぐに税理士法人とおやまへ入られました。お父様からどのように継承していくかは視野に入れていらっしゃいましたか?

遠山:父の年齢もありますし、引継ぎにかかる時間を逆算して考えると、修了考査のあとがちょうどいいタイミングでした。ただ、いきなり代表の息子が入ってきたとなると、それまで事務所にいた方たちは戸惑うと思います。私も入所するにあたって「怖い」という気持ちもありましたが、事務所の方たちとコミュニケーションを取りながら、徐々に仲間に入れていただきました。

―監査法人から事務所に入られてからの業務で、ご苦労されたことはありましたか?

遠山:苦労したことといえば、初めは経営者と目線が合わなかったことでしょうか。サラリーマンとしてしか働いたことがなかったので、経営者の視点や思考に付いていけない。何かが噛み合わない感じがありました。
監査法人にいた頃も、「売上は前年比20%増だけれども、粗利は前年比とほぼ同等です。なぜなら人件費が上がったからです。」といった分析はやっていました。しかし、経営者にとっては前期比較をしただけでは十分ではない。お客様はその背景にある経営課題をどのように解決するか常に悩んでいます。 「これが増えました。これが減りました。今月は以上です。」ではなくて、「人が採用できればまだ売上は伸ばせそうですか。」とか「離職者が増えている理由はなんでしょうか。」という話をするようになるとだんだん盛り上がるようになりました。

―そのような経営者の視点は、どのように身につけていったのでしょうか?

遠山:まずは聞かれた質問に対して誠実に対応すること。そして信頼関係が生まれたら、経営者の方と一緒にお酒を飲む場面も増えます。そのときに会社を立ち上げたときの話や、最近のできごと、悩みについてお聞きしました。そうしているうちに経営者の目線で物事を見られるようになりますし、自分の中の引き出しが増えるので「他の経営者はどうしているの?」といった質問にも答えられます。百戦錬磨の経営者の方とたくさんお話しする中で、自分の成長を実感できることがこの仕事の醍醐味だと思います。

―目の前のお客様と向き合って仕事をされていたのですね。それは、所内での人間関係にも共通するものなのではと感じました。

遠山:そうですね。入った時点で、周りは大先輩ばかり。公認会計士の資格を持っているとはいえ税理士としては素人だったので、「皆が当然知っていること」を知らないのです。その上、知識だけの仕事ではないので、本人のキャラクターや生き方が問われる部分が多い。お客様に信頼されていなければ、事務所の仲間にもなかなか認めてもらえません。
弊所はワンフロアなので、電話でのやり取りが他の所員に聞こえます。最初は冷や汗をかきながら対応をしていましたが、だんだんお客様と電話で世間話ができるぐらいの関係になってきた頃から成長を認めてもらえるようになりました。あとは、消費税改正の際にお客様がメニューや請求書の変更をスムーズにできるように情報をまとめ、セミナーを開催するなど、行動を通して事務所の仲間に認めてもらえるように真剣に向き合いました。

―信頼の積み重ねについて、もう少し詳しくお伺いしたいです。所内で信頼を得るために重要なことは何だと感じていらっしゃいますか?

遠山:まずは仲間を尊敬し、信頼することではないかと思います。事務所の仲間は、経営者の期待に応えるため日々研鑽を積んでいるベテラン揃いです。先ほどの電話の話ですと、事務所の仲間は、お客様にとって「先生」という外部の人ではなく、ある意味身内のように、悩みごとや最近のトラブルについて親身になって話をしているのです。経営者の気持ちに寄り添いながら話を深く聴き、課題を引き出すような質問をし、経営判断に必要な材料を整理しています。

仲間の電話を聞いているだけでも大変勉強になりますが、私がそのまま真似をしたからといってその人のように上手くいくものでもありません。一人ひとりが個性を活かして、それぞれの仕事のスタイルを作っています。事務所の仲間が個々のキャラクターを活かして実力を発揮できるよう、環境を整えることは後継者としての自分の役割です。

―今回の新型コロナウイルスの流行がありましたが、状況はいかがでしたか?

遠山:本当に大変なときだからこそ、チームとして結束していたと思います。また、目的の共有や、風通しの良さの重要性も実感しました。

コロナを受けて、飲食業のお客様はもちろん大打撃。売上が大幅に減少して、事務所にも「このままだと潰れてしまう」といった悲痛な電話も多く掛かってきました。国は救済措置として助成金や納税猶予といった制度をどんどん打ち出しましたが、改正も多く、情報が錯綜する状況だったのです。その一方で国内の感染者は日々増えていて、弊社も40人以上在籍しているので、いつ感染者が出てもおかしくはない。

それでも、このとき事務所の仲間は皆、同じ思いで働いていました。お客様からこれだけ「助けてくれ」と頼られている中で、絶対に事務所を閉められない。それだけは回避しなくてはならないという目的が共有できた。すると、こういう危機感を前に、自然と風通しも良くなりました。良いアイデアが次々に出て、決まったことには皆協力しました。リモートワークのための準備も、分担しながら数週間で行えたのです。チームとしてしっかり機能しているということが嬉しかったですね。

経営についてと今後のビジョン

法人としての今後の目標やビジョンなどもお伺いしたいです。

遠山:これは所長である私の父も目指していますが、お客様にとって経営に必要な情報が集まっているハブのような存在でありたいと思っています。常に新しい情報を得て、吟味した上で、お客様へご紹介するようにしています。中小企業のお客様がアクセスできる情報には限度がありますよね。しかし、我々は1人で何社も担当をしているので、様々な業種や組織、タイプの違う経営者と日々接しています。そうすると、情報がどんどん集約されてくるのです。会計×ITといった新しい分野についての情報も、常に取り入れて、もちろん、自社でも実際に使ってみます。使ったうえでの失敗談も、お客様にとっては貴重な情報になります。失敗をしないに越したことはないのですが、そういう意味で、新しいことにチャレンジする価値はあるかと思います。

ただし、この変化に対応する力も、その前提には組織のメンバーとの信頼関係が必要です。チャレンジしてみようというフットワークの軽い仲間がいると、スピード感を持って新しいツールを取り入れられます。そして、もしこのシステムは無理だと担当者が感じたら、すぐに正直に言ってもらって傷口を最小限にする。風通しのいい組織風土、社内の雰囲気でありたいし、私自身も話しかけられやすい人でありたいです。

―御社のモットーである「志は高く、腰は低く」というところにも繋がりそうですね。

遠山:これは、本来はお客様に対して腰を低く、丁寧に対応しようということだと考えています。しかし今回のコロナ禍の中で、このモットーは社内においても大切だと感じました。それぞれが「先生」と呼ばれる仕事ですが、社内では仲間です。それぞれの得意分野や持ち味を活かして、互いに腰を低く。そうすると、相手を尊重しながら切磋琢磨できるのではないでしょうか。

―会計業界の今後やご自身の今後について、改めてどうお考えでしょうか。

遠山:父にとって、この事務所は「生きた証」、言わば分身のようなものです。何年後になるか分かりませんが、所長が引退する日が来たとき、安心して引退できる環境を作るというのが、自分の中で目標になっています。

そのためには、やはり事務所の仲間が個性を発揮しながら、安心して長く働ける職場を作ること。そうすれば、コロナのように緊急事態に見舞われても、空中分解せずに乗り越えられるはずです。
会計業界の未来がどうなるかというのは、正直よく分からないのです。未来はこうなるというのは、例えば今回のコロナにしても、分からなかったではないですか。これだけ急速なスピードでリモートワークやWEB会議が広がるということは想像もしていませんでした。
けれども、変化に対応する力、その前提にある組織の中のメンバーとの信頼関係。これを大事にしている。皆が個性を発揮できるような環境を整えていますというメッセージを発信し続けることが、何より大事だと思っています。

―最後に、KaikeiZineの読者へメッセージをお願いします。

今、一緒にチャレンジしてくれる仲間を募っています。この記事を読んで、一緒にやりたいと思って頂ける方がいたら、その方の個性を尊重した事務所にしていきたいのです。歩合制ですので、やった分だけ報われる仕組み作りも今後一層進化させていきたいと思っています。興味を持ってくださる方には、ぜひご応募いただきたいですね。

 

【編集後記】
後継者であるということを背負いながらチャレンジを続けている遠山先生だからこそのメッセージだと感じました。ありがとうございました!

税理士法人とおやま

●設立

1985年4月

●所在地

東京都新宿区高田馬場1丁目31−18 高田馬場センタービル 6F

●モットー

志は高く、腰は低く

●企業URL

http://www.to-yama.com/

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