中小企業の経営支援をしている税理士法人HOP。創業20年目を迎えようとしている法人を束ねる代表税理士の小川氏は、自身を“中小企業の「かかりつけ医」のような存在”と語る。今や、4万人の保有者を超える資格「相続診断士」を創設した相続の第一人者である小川氏が、コロナ禍の今、新たに挑戦したいこととは…?中小企業の”笑顔経営”にこだわり続ける理由と共に、今後のビジョンに迫ります。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)

血の繋がらない“二段ベッドのお兄ちゃん”と両親の絆が税理士の道へと進ませる

まず、税理士を目指されたきっかけについて教えてください。

小川:今現在、中小企業の支援をしていますが、こういった仕事をしたいと思うきっかけは、中小企業を経営していた父と母にあります。

私は岐阜県岐阜市の出身で、父と母が営んでいたのは従業員数50人くらいの建築業。もちろん人の問題やお金の問題では苦労していたと思いますが、私は両親から、社会の中における中小企業の役割を学ぶことができました。父と母は、人に頼まれれば少年院に行くか保護観察処分かというの子も「ウチで働きなよ。」と住み込みで雇うような義侠心のある人たち。だから実家では、預かった若い人たちと家族が一緒に朝ごはんを食べて、母親がお弁当を持たせて、また帰ってくれば一緒にごはんを食べ、大きなお風呂へみんなで入って…。小学生の頃は、全く血の繋がっていないお兄ちゃんと二段ベッドで寝ていました。従業員として雇いながらも、再教育のような役割も担っていたのです。

そういった地域に根付いた中小企業をサポートしたい、というお気持ちが生まれたのですね。

小川:そうですね。母が2年前に亡くなったのですが、そのときに弔辞を読んでくれたのが先ほどお話しした二段ベッドで一緒に寝ていた方でした。その方は弔辞で

「41年前に岐阜に来てから、住み込みで就職をして、正直3年我慢したらどこかに行こうと思っていました。しかし自分のことをわが子のように愛情を注いでくれた奥さん。長いこと甘えてしまい、気づいたら40年以上の月日が経っていました。奥さんのおかげで、私は良い人生を送れました。」

とおっしゃっていました。私の実家に来た方は、もともと家庭環境に恵まれていなかった方も多かったようです。だから父や母が本当の親のように接していると、とても素直に心を開いてくれるのです。

当時の父や母の姿はもちろん、亡くなってもなお慕われている様子を目の当たりにして、「中小企業というものは人づくりなのだ。」と実感しました。そして、それをサポートできる税理士という職業を選んだのも「自分も両親と同じように、人の役に立ちたい。」という思いがあったからです。

航空機リース事件の税務訴訟に勝訴するも、中小企業支援をしたいと独立を決意

小川:大学卒業後は、川崎市にある10人くらいの会計事務所へ就職し、税理士の勉強は入所してから始めました。

その後、平成4年にJALやANAなどの航空会社へ飛行機をリースする会社へ転職しました。レバレッジドリースという仕組みで10社程度の投資家を募り組合を作って、航空機賃貸事業を行います。リース料が収入、減価償却費や借入金の利子などが経費として計上できます。その数字を作る業務を任されていました。

こちらで印象に残った仕事はありましたか?

小川:初めは法人向けでしたが、これを個人向けにも販売できないかということになり、個人向けにオペレーティングリースという商品を開発し、500人ほどに投資していただいていました。ただ、それが税務調査で否認されて、不動産所得で申告していたものを、ある税務署から雑所得だと更正処分を受けました。最初は一人だったのですが、その後200人に更正処分が下りました。大手新聞の一面に、租税回避事件として大きく載りました。

しかし、所得税法には、航空機の賃貸事業から生じる所得は不動産所得だと所得税法第26条に書いてあります。それなのに雑所得だといわれても、投資家の方も販売会社としても譲れません。ですので、その200人の税務調査、異議申し立て(現在の再調査の請求)、不服審査を地裁、高裁で4年間、弁護士さん9人と税理士4人のチームで行いました。毎日税務調査の立ち合いです。最後は名古屋高裁で勝って、50億円還付されました。4年間の戦いが終わって勝ったときには、本当にホッとしましたよ。税務の裁判は、国の勝訴が90%以上。ほとんど納税者は勝てない中での勝利でした。この裁判を乗り越えて、税務調査に強くなりました。また、戦いのプロである弁護士さんの仕事ぶりを間近で見て、多くのことを学ぶことができました。

ただこの時に痛感したのは、税理士は個人に与えられた資格であって、勤務先の社員としてはお客様の税金の相談に乗れないということ。それもあって、独立しようと思うようになりました。裁判の途中の平成13年から個人事務所を立ち上げましたが、平成17年に勝訴が決まって、本格的に自分の事務所を始めました。独立して、現在20年です。

“笑顔相続の道先案内人”として「相続診断士」の資格を創設

中小企業のサポートをされる中小企業部門の他に、相続部門にも力を入れていらっしゃいます。何かきっかけがあったのでしょうか。

小川:2002年の開業のときは、父や母のこともあって中小企業の支援をしようと思っていました。その後、相続の仕事も増えたのですが、仕事を終えるたびに引っかかるものがありました。中小企業の支援はこちらが頑張れば頑張るほど感謝されるのですが、相続に関してはご家族の中などで揉めてしまうことがあります。

そこで始めたのが、「相続診断士」という資格です。士業だけでフォローするには限界を感じていたので、生命保険会社や不動産会社、他の士業の方とチームを作って相続についての知識を広めていこうと考えました。現在9年経って、生命保険会社、不動産会社の方を中心に4万2千人を超える方にこの資格を取得して頂いています。こういった資格と仕組みを通して、お客様が相続で笑顔になれる場面を増やしていければと考えています。

この資格が広まり税理士法人HOPは相続の事務所と捉えていらっしゃる方もいます。しかし、事務所の中では「笑顔経営部門」と「笑顔相続部門」に分かれていて、2つを柱としています。中小企業経営者のお金と人の悩みに寄り添って、経営者と従業員を笑顔にすること。そして、「争続(あらそうぞく)」をなくし、笑顔の相続を増やして、家族を笑顔にすること。この2つが大切な当法人の理念です。

中小企業のさらなるサポートとして、「成長企業診断」を行っていらっしゃいます。どのようなサポートを行うのでしょうか。

小川:先ほどの2つに加えて、最近できた「成長企業コンサル部門」で行っている業務です。中小企業の本当の意味でのコンサルは、現状の把握が第一なのです。中小企業には、売り上げが作れない、お金が残らない、採用できない、社員育成できない、といった様々なお悩みがあります。そのお悩みを的確にサポートするために、成長企業診断という診断システムを作りました。「顧客満足度(売上、利益)」「事業継続性(キャッシュ、後継者や幹部の育成)」「経営のしくみ(ビジョン、理念、中長期の事業計画、月次決算、予実管理)」「従業員満足度(給料や有給休暇、残業代が支払われているか)」「コンプライアンス(人事系、会社法系の事項)」の5つの診断分野で会社を点数化して、その会社の課題を明確にしています。

このツールを使って、実際にどのような効果がありますか。

小川:中小企業には、お金や人の様々な悩みがあります。そんな時に研修を入れたり、人事評価のシステムを入れたりしますが、ステージと症状に薬が合っていないケースをよく見かけます。小学生に大学生の参考書を渡したり、インフルエンザなのに風邪薬を飲んでしまったり、薬は良いものなのですが、処方が間違っているというケースです。中小企業には、症状をきちんと診断して、処方箋を書いてくれる医者がいないのです。

そういった中小企業の弱点は、成長企業診断を行うとよく分かります。理念はあるものの中長期の事業計画が無かったり、月次決算からの予実管理が出来ていないと、「経営のしくみ」の点数がとても悪いのです。それが分かれば「社長の会社が今伸び悩んでいる原因はこれです。まず最初に、理念と関連付けて中長期事業計画を立て、月次決算をしっかりと確認していくことが最優先事項です。」と伝えられます。経営者が3年後こうなる、5年後こうなると道筋をつけられるので、経営者も変わるし、従業員も変わっていきます。

経営者として意識していること

ご自身も経営者として、意識されていることは何でしょうか。

小川:経営というのは、未来を描いて決断していくことだと思います。今は士業が夢のない業界と言われていますが、それを変えたいと思っています。そのためには、お客様が本当に喜んでくれるサービスを提供したいです。仕組みを作って、経営者の課題を明確にしてあげること。そして改善までサポートしてあげること。これにより、中小企業はもっとよくなります。そしてそれができるのが士業です。

ところが現状は、手間仕事と情報だけでお金を頂いている事務所がほとんど。それでは、顧問料もどんどん安くなりますし、お客様にも喜んでいただけません。中小企業の方から「うちの顧問事務所は提案がない。」という声を聞くと、私はもったいないと思ってしまいます。せっかく苦労して税理士試験に合格したのなら、価値あるコンサルを提供すべきなのです。他の士業も同じような価値を提供できたら、中小企業はもっと良くなります。士業は、10年後になくなる職業なんて言われますが、そんなことはありません。魅力ある職業ですし、きちんと報酬ももらえると分かれば、若くて優秀な方も増えるでしょう。

今後の展望

今後の展望について、お聞かせください。

小川:今後10年の展望でいえば、相続診断協会を10万人規模にすること、そして成長企業診断を1万社に受けていただくことです。今後はこの2つに力を入れていきたいです。

そして、中小企業が成長するためには、専門家のアドバイスが非常に重要です。その専門家がアドバイスをせず、手間仕事ばかりやっている現状は日本の将来にとっても決してプラスにはなりません。診断システムも作りましたので、コンサルできる人を増やしていきたいですね。当法人の規模を大きくしていきたいという気持ちもありますが、それよりも日本全国という規模でコンサルができる人を増やし、日本中の中小企業を元気にする仕組みができたらいいと思っています。

 

【編集後記】
顧客のみならず、業界全体の貢献も行っている小川先生。これからも周囲には笑顔になる人が増えると感じました。小川先生、ありがとうございました。

税理士法人HOP

●設立
平成14年4月2日

●所在地

東京都中央区日本橋人形町2-13-9 FORECAST人形町7階

●理念

「HOP・SMILE・HAPPY」

皆様の「幸せ」を応援し、実現するグループです。

●企業URL
https://group-hop.com/

 

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