現在、東証一部上場企業のファイナンス部門において10人の部下を束ねるグループマネージャーの吉田悠人氏。彼のこれまでのキャリアは総合電機メーカーの法人営業として勤めながら米国公認会計士(USCPA)を取得。その後、監査法人に転職。異例の飛び級で昇格をしていったというまさに出世街道を突き進んだ実力派会計人だ。しかし、経理職として現職に転職をした際、入社3か月が過ぎた頃に一度休職をすることになった。過去の経験を踏まえて、”経験者が転職をしても、できないことは正直に伝えることが大事”だと吉田氏は語る。現在、国際資格の専門校・アビタスにてUSCPAの講師やコーチングも務める吉田氏のこれまでのキャリア、そして組織の中で自分らしく活躍するための重要となるポイントについて話を伺った。(取材・撮影:レックスアドバイザーズ 市川)

総合電機メーカーの法人営業をしながらUSCPAを取得。監査法人の道へ

資格取得の経緯を教えて下さい。

吉田:大学を卒業して、新卒で就職したのは日立製作所のIT部門の営業職でした。営業とマーケティングを兼ねるような仕事で、日立のITプラットフォーム製品を販売代理店を通じて拡販していくというものでした。日立製作所に入った理由は、日本を代表するメーカーであり、グローバルなビジネスに携われると思ったからです。私は文学部英文科の出身で、もともと英語が好き。カナダやオーストラリアに留学していたこともあります。グローバルに仕事をしたいと思って選びました。

ここでは5年3カ月間勤めましたが、ITプラットフォームプロダクト領域では低価格が売りの外資系のITメーカーが強く、日立はどちらかというと弱小メーカー。こちらが売り込む販売代理店先も、安く仕入れて高く売りたいので、何もしなければ日立の製品は一向に取り扱ってもらえない。もちろん私は営業ですから、製品自体を変えることはできません。その中で、どう自社の製品を取り扱ってもらうかというと、営業担当としてやることはただ一つ。自分を売り込むことです。顧客である商社やSIerの人とつながりを強くするために飲みにいくこともありました。その結果「日立の製品は高いけど品質は間違いがないから取り扱うよ」と言ってもらえることや、そのときに「吉田くんに発注するから」と言ってもらえることが大きな喜びでした。製品を売ると同時に「自分」も売り込めたと感じられました。

順調にキャリアを築かれていった印象ですが、6年目で退職されたのはなぜですか。

吉田:営業としての5年3カ月のうち、4年目から本格的にUSCPAの勉強を始めました。そのきっかけは、もっと経営目線で視座の高い景色を見てみたいと思ったからです。

当時、日立は10兆円規模の売上の会社。しかし、私の普段の営業としての一件当たりの売上は、100万円、高くても1千万円ほど。それらをかき集めて、毎月の成績が決まるといったものです。しかし日立の上層部の方たちは、10兆円規模の売上を見ながら意思決定をしている。私も、その世界を見てみたいと思いました。しかし日立の中にいながらそこまで行くには時間がかかりすぎます。

もっと数字を元に意思決定をしたり、投資家に今期の利益について語れるようになるためには、数字を構造的に理解していないといけない。そう考えて、会計分野を勉強しようと思うようになりました。そして、元々得意だった英語も活かしたいと考え米国公認会計士(USCPA)の資格を目指すことにしたのです。

法人営業から監査法人のコンサルタントに。刺激的な日々を過ごす

その後、EY新日本監査法人にご入社されたのですね。

吉田:本格的に勉強を開始してから1年強でUSCPAに合格後、日立の営業から転職をすべきか半年ほど悩みに悩みましたが、USCPAの資格勉強に取り組む中で「会計」の勉強が純粋におもしろかったので、会計の世界に一度どっぷりつかってみようと決意し、EY新日本監査法人に転職をしました。EYでは、会計アドバイザリー部門で、IFRSの導入支援コンサル、M&Aの会計周りのサポート。あとは、PMIという、買収した会社をタイムリーに連結財務諸表に組み込むための統合プロセスの構築に関わって外部アドバイザーとして支援していました。

前職の営業から、仕事の内容は一変しましたね。

吉田:仕事の内容は、とても変わりました。しかし、仕事として一番大事な部分は一緒です。社内外で関わる人のかゆいところに手の届く人が認められるし、好かれるし、次のミッションももらえる。そのための商材が異なるだけで、EYの仕事でも営業で身に付けた力を応用させていました。

ただ、そうは言っても会計については新人。入所直後にアサインされたIFRS導入支援プロジェクトで担当したある会社が、経理部に監査法人出身者ばかりを集めていました。元営業担当の私がそういったベテラン会計士に向けて、専門家の顔をして情報を届けなければならないという辛さはありました。しかし未経験で転職をしたのだから、知識・経験においてゼロからのスタートになることは分かり切っていたこと。プライドを捨てて学びに徹しました。そうしてがむしゃらに勉強することで、この時期に会計専門家として大きく成長することができました。

他にも、上場会社がイタリアの会社を買収した際は、ミーティングのファシリ―テーションからプレゼンまで得意の英語を活かして全部やりきりました。EYでの仕事は本当に大変でしたが、多くの成功体験を積んで自信を身に着けることができました。

そのように充実していた監査法人時代ですが、3年弱で転職されているのですね。

吉田:有難いことに2年7カ月の中で、当時は異例だった飛び級で昇格をしていきました。元々興味のあった海外にあるEYとの人材交流のプログラムにもノミネートしていただき、まさに順風満帆でした。ただ、海外に行けるのは嬉しい反面、トレー二―としてなのです。私は当時30歳も超えており、バリューを発揮しにいくというよりは、学ばせてもらうというポジションに少し悩ましい気持ちがありました。

その頃、リクルート社にいた友人から「リクルートに興味はないか。」と誘われました。話だけ聞いてみようと、軽い気持ちで友人には当時のグループマネージャーと会う場も設けてもらいました。食事をしながらカジュアルな雰囲気で面談をさせて頂いたのですが、その後すぐに部長と面接を設定して頂き、とんとん拍子で話が進みました。(笑)

驚きましたが、実際に話を聞いてみると、私の英語力や、海外とのリレーションシップを築くための対人能力を活かせる場だと感じましたし、挑戦できる社風も魅力的。実務的なオファー内容も、IFRSに基づく連結決算の実務を担当するグループと、M&Aなど会計のプロジェクト周りをメインでやるグループを兼務させてもらえるとのことでした。友人の後押しもあり、2018年リクルート社に転職することになりました。

即戦力プレッシャーを感じ入社3ヶ月過ぎた頃に休職。等身大でいることの大切さに気づく

リクルート社に入社されてみて、いかがでしたか。

吉田:今考えればその後の私の成長にも繋がるのですが、実は入社してからの3カ月で初めての挫折を味わいました。

配属先のリクルートホールディングスには、本当に優秀な、専門性の高い方たちが社内外から集まっています。しかもリクルートらしいソフトスキルもある。ものすごい会社だと思いました。その中で、自分は即戦力として入社しているというプレッシャーが大きく、空回りしているような感覚がありました。

“期待をされて入社をしているわけだから早く結果を出さなきゃ”と、とにかく会議では的を射ていなくても発言をする、分からないことも知ったようなふりをする。上司に困っていることはないかと聞かれた際にも「大丈夫です」と<できる人>を演じてしまう…

そんな日々を続けていたところ、入社3カ月を過ぎた頃から頭痛がやまなくなったのです。病院でも相談をして一度休職をすることにしました。休職期間としては、2週間くらいだったのですが、自分の中では大きな出来事でした。

周りからは、「最低な評価を自分で下すような3カ月ではないよ」と言われるのですが、「評価をされて入社している」というプレッシャーを感じて、自分で勝手に気負ってしまったのだと思います。しかしこの期間を境に、自分のやれることをやればいい、得意なところにエッジを効かせればいいというマインドに切り替えることができ、元営業マンとしてのフットワークを活かして等身大の自分で仕事に向かえるようになりました。

中途入社=即戦力ではない。焦らず目の前のことに集中を

休職を経て、ご自身の中でその後の仕事での対応は変化がありましたか?

吉田:私自身が一回挫折を経験しているので、転職してきた人には自分と同じ経験をさせないよう「焦らなくていいですよ」と声を掛けるようになりました。周囲からも、雰囲気が柔らかくなったねと言われることが増えて、変われたように思いました。

そうはいっても転職者本人は、やはり評価をされて入社をしたのだから、すぐに結果を出さなきゃいけないと思うことでしょう。

でも、本当に焦る必要はないのです。できないことはできないと腹をくくって人に頼ってみる。すぐに評価してもらえると思わず、焦らず目の前のことをコツコツと行う。なるべく多くの人たちとコミュニケーションをとり自分を理解してもらう。そして、プライドを捨てて学びに徹する中で自分ができることを見つけ、広げていけばいいのです。

これは評価する側も同じぐらい理解をしてサポートをしなければなりません。メンバーの意見をよく聞き、”上司が威圧的な雰囲気で自分の意見を言えない”と思われないような、心理的安全性がある職場にするべきだと思います。そのために自分自身も仕事を背負いすぎず、部下や周囲に頼ることも必要になってきます。

一人でできる仕事なんて、ごく僅かです。いい仕事をするにはより多くの人とお互い助け合える関係性を築き上げることが不可欠。私自身、そのためにホスピタリティをもって、譲り合い、助け合い、気持ちよく仕事ができるようにしていきたいと思っています。

【編集後記】

転職時を経て、本当の意味で成長することができたとお話されていた吉田先生。自分に厳しくも、ほかの人に優しくできるのは挫折を経ての成長だったのですね。吉田先生、ありがとうございました!

吉田 悠人

株式会社リクルートホールディングス 経理統括部 グローバル経理統制グループ
グループマネージャー

2010年4月:株式会社日立製作所に入社、IT事業の営業職に従事

2015年7月:新日本有限責任監査法人に入所。IFRS導入支援業務、PMIサポート業務等に従事

2018年2月:株式会社リクルート入社。株式会社リクルートホールディングスに出向し、IFRSに基づく連結決算、国内外の子会社管理、連結決算早期化、連結会計システムリプレース、会計ガバナンス、M&A等幅広い業務に従事。2020年4月よりグループマネージャー就任(現職)

2019年1月:国際資格の専門校、株式会社アビタスと業務委託契約を結び、USCPAの講師業に従事 (現職)

 


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