財務をベースにしたコーチング支援を得意とする税理士法人ブラザシップはそのサービスの質の高さから、お客様との契約継続率は、税務で99%、経営(コンサルティング)支援でも98%とかなりの高水準となっています。今回は代表の松原潤氏に財務の重要性や高品質サービスを提供している組織作りなどについてお話を伺いました。(取材・撮影:レックアドバイザーズ 村松)

経営支援型の会計事務所を…ブラザシップの始まり
松原:名古屋オフィスのパートナーである加藤の父の事務所が愛知県小牧市にあり、10年程前に加藤が後を継ぎました。その事務所を税理士法人化して規模を拡大する際、加藤がパートナーとして声を掛けたのが私です。私と彼は、会計士の専門学校以来の友人でした。
しかし当時の私は、まさか自分が会計事務所を経営するとは思っていませんでした。もともと監査法人を4年で辞めてベンチャーキャピタルに転職したのも、ビジネスサイドで働きたいという強い思いがあったのです。それでもなぜ会計に戻ってきたかというと、加藤の描くビジョンがとても共感できるものだったからです。
彼は経営支援型の会計事務所を作りたいと考えていました。私は当時の一般的な会計事務所を全く知らなかったので、毎月の数字をもとにしたコンサルなど当然やっているものだと思っていました。ところが実際には、そういったことが行われていない。そんな現状の中、経営支援型の会計事務所を作ることはやりがいがあるし、社会で求められているとも感じました。
ブラザシップ(Brothership)という社名には、経営者の横に、いつどんなときでも寄り添い、その燃えるような志を理解し、共感したいという私たちの覚悟が込められています。
こうして税理士法人ブラザシップが始まりました。
特徴は、コンサルと税務申告を分けないこと
経営支援型の会計事務所としての御社の特徴を教えてください。
松原:当事務所の売上の半分くらいは、コンサルティング業務。もう半分は一般的な事務所同様の税務申告です。そして特徴的なのは、税務申告の担当者とコンサルの担当者をあえて分けていないこと。税務会計の部分は、将来無くなる仕事とも言われています。職員のことを考えても、将来性のない分野の業務のみを任せるわけにはいきません。また、お客様にとっても、相談の内容ごとに担当者を変えるのではなく、一人の職員に税務と経営の両方を相談できた方が効率もいいと考えています。
ただ、当初は税務申告とコンサルを同じ職員が担当をすることについて、同業にも、コンサルの方にも、そんなことは絶対に無理だと言われていました。
両立できないといわれていたコンサルと税務を両立できた理由は何だと思われますか。
松原:まず、財務をベースにしたコーチング支援というコンサルティングの手法を確立していること、そして効率的な業務の分担が行われていることが理由だと思います。

財務をベースにしたコーチング型コンサルティングとは
提供されているコンサルティングの具体的な内容はどのようなものでしょうか。
松原:我々は、財務をベースにしたコーチングを行っています。会計事務所業界ではMAS監査と呼ばれるものがありますが、私たちの支援はそれと異なっていると思っています。まず監査という言葉だとチェックするという意味になってしまいます。しかし、我々が目指しているのは、ティーチングではなくコーチング。だから「監査」という言葉は合いません。
私たちは、経営に関する答えは社長の中にあると思っています。答えがあるはずなのにコンサルティングが必要なのは、中小企業の経営者が財務に弱いからです。学校教育の中でもお金の話や財務・経営計画に関わる話を学ぶ機会なんてありませんよね。そして、トップのセールスマンやエンジニア、職人が独立することはあっても、経理部長が独立して会社を始めることはまずありません。
経理に明るくない社長が、会社を始めてから資金繰りや会計に向き合わなければならなくなります。さらに、経営者に一番近い立場にある会計事務所が税務申告のみに留まっていて、経営者の財務リテラシーを上げるという支援まで行っているところは稀です。つまり、社長が生まれながらに財務に弱いのではなくて、環境が整っていないのです。中小企業の社長が客観的に数字を見ながら経営できたとしたら、経営力は飛躍的に上がります。
しかし現状は、どんぶり勘定で、経験と勘と度胸といった感じで経営にあたっている。だから創業5年で6割の会社がなくなるといったことにもなります。これは社会的に深刻な課題ですし、我々にとって大きな課題です。
社長は24時間、自分の会社や店舗のことを考えていますし、さまざまなことにトライしています。だから本当は社長の中に答えがあるのです。しかし日々の業務に追われ、数字が読めなくて主観的になってしまっている。それを我々のサポートで、財務という事実に基づいた数字を元に、客観性と論理的な思考とコーチングの技術で社長から答えを引っ張ります。壁打ち相手になって、社長の思考を整理して、課題の共通認識を見つけ、アクションプランを立てて毎月追いかけていくのです。
こうした財務を元にした経営支援は、実際に成果を上げています。そして、これならどの会計事務所にもできます。答えを会計事務所側が出さなければならないと、経営のノウハウがどうしても必要になりますが、答えは社長の中にあります。それをひっぱってくれば良いのです。最終的には、全国の会計事務所が経営支援型の会計事務所になって、関わった会社の経営がよくなってほしい。そのためには会計事務所のスタッフにできる経営支援でなければいけません。財務をベースにしたコーチング支援なら、それができると思っています。
先ほど、コンサルティングの手法の確立と効率的な業務分担によってコンサルと税務の両立ができると伺いました。コンサルティングの手法を確立されている御社では、どのような業務分担で効率化を図っていますか。
松原:会計事務所がなぜ支援型になっていかないのかというと、職員がコンサルティングのスキルを持っていないという問題があるかと思います。しかし当社のような財務をベースにしたコーチングというスキルは、教えれば身に着くものです。ところが多くの事務所では、こうしたスキルがあったとしても、忙しくて教える時間が取れません。担当者が記帳代行から顧客の面談まで全部を引き受けるのは限界があります。時間を作るためには分業が必要です。そして分業のためには、誰かが業務をマネジメントしないといけません。
実は当社も、分業はしていても初めからマネジメントが上手くいっていたわけではありませんでした。コンサルと税務の担当者、アシスタント、パートさんと3層になって分業していて、今まで担当者がマネジメントをするということにしていたのですが、これが難しい。皆がお客様に向かって多くのエネルギーを使ってくるので、中のことにまで体力が残らないのです。コンサルをしながら税務も担当し、マネジメントもするのは難しいです。
担当者の能力が低いわけではないので、仕組みの問題です。そこで海外の弁護士事務所を参考に、アシスタントがプロフェッショナルをマネジメントするように切り替えました。担当者からすると指示を受けるだけなので、お客様に集中できます。このやり方が今後も上手くいけば、会計事務所を改善する解になると思います。
さらに、コロナ以前からリモートワークも推進しています。仕組みを作っておくと、産休明けの職員も働きやすいです。

自社採用について―それぞれの個性を活かして、長期的な活躍の場を提供
御社では、新しく採用された方が生き生きと働いていらっしゃると伺っています。
松原:間口は狭いですが、こだわって採用している分、退職者が出ずに長期間勤めて活躍してくれています。それぞれの個性を活かして、得意なことで成果を出してくれています。事務所としての体力もついてきたので、どんどんチャレンジしてもらえる環境も整っています。事務所の成長スピードは本当に早くて、職員自身でどんどんプロジェクトを走らせてくれています。
人の個性を活かして、磨いていく秘訣は何でしょうか。
成果を出せないのはトップの責任だと思っています。担当者ができるようになるためにはどうしたらいいかを考えます。できないという前提はないのです。社内でも心理学を学んでいて、職員同士も支援的な関わり方をすることでさらにいい循環が生まれます。
人材教育会社、アチーブメント社のアンケートでは「どれだけ理念が浸透しているか」に関して約500社中トップ11に入りました。職人の集まりになりがちな士業では珍しいようです。自分が20代30代に戻ったら働きたいと思える事務所を作りたいとずっと意識してきました。社員も見ていて楽しそうです。人の犠牲に基づいて成り立っているという事務所にはしたくありません。だからより良くするために社内の改善はどんどん進めていきたいです。

中小企業を盛り上げたい!ブラザシップカレッジを開始
新しくブラザシップカレッジというセミナーを開催されています。どのようなものなのでしょうか。
松原:ブラザシップカレッジは、集合研修型のサービスです。これを始めたきっかけは、そもそも私と加藤が「中小企業を盛り上げて日本をもっと良くしたい」というミッションを掲げていたからです。
現在、我々は財務をベースにしたコーチング支援と税務顧問をしていますが、これは個別の支援です。お客様は確かに経営状況がよくなったし、お客様との契約の継続率も、税務で99%、経営支援でも98%です。成果を出していますし、社長も、事務所も、担当者も、皆良いサイクルが生まれているのですが、こういった個別支援だけではこれ以後順調にいっても2千~3千社が限度でしょう。全国の中小企業の数から考えたら微々たるものです。
だから我々のノウハウをもっと広めたいと集合研修型のサービスを開始したのです。経営者として絶対に知っておいたほうがよい財務のノウハウを4日間に凝縮しました。コンテンツを作るのは大変でしたが、大好評でした。講習を受けた方々が自分の経営を見直して、実際に成果を上げられています。
会計事務所は会社が生まれるときにも倒産するときにも関わります。どういう人がどういう経営判断をするとどうなるか、という20年掛けて得たノウハウがあります。さらに私自身も30人ほどの会計事務所を経営しています。その過程は順風満帆とはいえず、いろいろなことがありました。中小企業のリアルな経営の楽しさも苦しさも私自身が体験しています。こういった中小企業のリアルに沿った内容だから、すぐ実践いただけますし、ご満足いただけているのだと思います。
今後は、新しい講座を開催することも視野に入れてさらに発展させていきたいと思っています。
【編集後記】
KaikeiZine内でも執筆をしてくださっている松原さんに、改めて中小企業支援や組織作りへの思い、新たなチャレンジについてお話しいただきました。ブラザシップカレッジの今後の発展についても、とても楽しみです。松原さん、ありがとうございました!
記事一覧はこちら⇒https://kaikeizine.jp/article/writer/jun-matsubara/
税理士法人ブラザシップ
●設立
2014年4月
●所在地
名古屋オフィス:愛知県名古屋市中区錦二丁目 18 番5号白川第六ビル 602
東京オフィス:東京都港区高輪三丁目23番17号 品川センタービルディング309号
小牧オフィス:愛知県小牧市北外山2561-3
●理念
全職員の物心両面の幸福を追求し、社会に貢献する
●企業URL